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ブレイカー  作者: フィール
1章
24/156

1章:リィヤの日常

朝食を終えたリィヤは、自分のボディーガードであり執事でもあるベルアと彼の部屋で会話していた。



「また町に出たいんです!」

「ど、どのような御用件で?御所望される物があれば我等が。」

「お買い物じゃありません!昨日会った人達に会いに行きたいんです。」



ベルアは納得したというような顔に変わる。



「ならば護衛を2人程同行させましょう。」

「そ、そんなに要らないと思います!」


「そうは参りません、トウヤ坊ちゃんならいざ知らず、リィヤお嬢様はあくまで極普通の人間であります!何かよからぬ事があると困りますゆえ。」


「1人でも大丈夫です!」

「いけません!」

「むー!!」



リィヤとベルアはお互いに負けじと睨みつけあっている。

しかし、ベルアはため息を吐くと頭を下げた。



「分かりました、では護衛1人で妥協致しましょう。」

「う……それなら良いです。」



リィヤもまだ不満そうだが、折角のベルアの妥協案を無下にするとまた面倒なことになりそうだと悟り、それを了承する。



「それではお庭の方でお待ちください、護衛を向かわせます。」

「わかりました。」



リィヤは大人しく部屋から出ていく。


それを確認したベルアは自身の部屋の電話を取ると、他の部屋のボディーガードの1人へ連絡をし始めた。



「リィヤお嬢様がお出掛けです、君に護衛を頼みたい……あぁ、恐らくリィヤお嬢様は()()をやるでしょう、いつものように頼みます。」


『はっ!見事務めてみせます!』



ベルアは彼の返答に短く返答すると、電話を元に戻す。


そして窓から庭を眺め始めた。



「頼みましたよ。」



ベルアは護衛を頼んだ同僚がリィヤの元に辿り着いて、一緒に移動をするまで眺め続けたのであった。





(今日もやるしかありません!)



リィヤには秘策があった。

護衛は要らないと言っているのに付けられてしまった場合の秘策が。


彼等は定期連絡を欠かさない、その隙に隠れてしまえば撒けるのだ。



(来てくれてる人には申し訳ないけど、流石にもうわたくしも子供じゃありません!)



リィヤは元々一般人だ。

今でこそ若干慣れたが、マギスの屋敷に来た時はあまりに周りのお世話をされすぎて非常に困惑したのだった。



(楽なのは良いけど、自分で紅茶すら注げないのはちょっと息苦しい時があるんです!)



そう思いながらリィヤは護衛のボディーガードの動きをよく観察する。


彼等は時間を確実に守る、今も腕の小型の時計を確認しながら周囲をしっかりと見守っているのだ。



「あ、リィヤお嬢様!申し訳ありません、定時連絡のお時間です、少々お待ち頂いても?」

「あ、はい!」



リィヤの返答を聞いて、一礼した後に腰元に下げられている箱から電話を取り出す。

固定の電話を持ち歩けるようにした最新の電話である。

線が無くとも電話を掛けられる最新技術を使用しており、その機能を付けるために固定の電話よりサイズが大きく、持ち運べるがとにかく重いのが欠点だ。



(来ました!!)



ボディーガード達は外で連絡する際、何故か皆()()()()()()()()()


リィヤはここだと言わんばかりに裏道にこっそり入り込み、建物の隙間に隠れる。



「はい!異常無しです!」



ボディーガードは電話を置くと、リィヤのいた方向へ向き直し、何故か凄く()()()()()()動きでキョロキョロし始めた。



「リ、リィヤお嬢様!?いずこへ?!」


(すみません、たまには1人になりたいのです!)



ボディーガードの足音が遠くなるのを確認し、リィヤは建物の影から飛び出ると、以前あの4人に会った出店通りの方へ向かう。



(今回も上手く行きました!)



リィヤは勝利を確認し、ウキウキとした気分で小走りで駆けていく。



そんな彼女をこっそり見ていたボディーガードは安心したように大きく息を吐く。



「撒かれちゃった作戦成功!こっそり見守ります!」


『相変わらず見事な手腕ですね、これでリィヤお嬢様ものびのび楽しまれることでしょう。』

「間違いないですね、屋敷から黙って出られるよりはこっちの方が気が楽です。」


『昨日は驚きましたね、まさか屋敷から脱走するとは……今日はちゃんと門のところに警備を置いておきましたか?』


「ベルア殿のご指示のとおりに。」

『見事です、引き続き頼みますよ。』



これがいつものお出掛けの際の彼等の()()()()習慣であった。

そもそも運動神経の悪いリィヤが、仮にもボディーガードである彼等から逃げられるはずも無い。

昨日は特殊だったのだ。


それに気付いていないのはリィヤ本人だけである。





「なるほど、ありがとうございます。」



ミナは道端で会った男に、魔物がいつ頃から強くなったかを聞き出し、約5年前からという、やはりミナ達でも知ってる情報しか聞き出せない。



「なんか聞けたか?」

「いえ、やっぱり5年前位からとしか、原因なんかわかるわけもないわよね。」



ナムの質問に首を傾げながらミナが答える。



「そりゃそうだよなぁ、普通に考えて皆同じ知識しかねぇか。」

「もしかしたらなにか知ってる人がいるかもしれないと俺様は思う、もう少し聞き込みしよう。」



トウヤはそう言いながら高齢者の男を捕まえ聞き込みを始めた。

しかし、何度も聞いたというような微妙な表情のトウヤの反応を見る限り、結果は見えている。



「あの感じだと変わらなそうだね。」

「アプローチを変えるしかねぇのか?」



タイフは腰に手を当てて苦笑し、ナムは腕を組んで悩んでいる。

するとナムは腕組みをやめて近くの女性に話しかける。



「この町で有名な人物って誰だ?」



女性は急に筋骨隆々の大男に話しかけられたせいで瞠目したが、恐る恐る返答してきた。



「え、えーと……やっぱりあそこの人よね、まぎ。」


「兄様!!」



女性が何かを言おうとしたタイミングで遠くから聞き覚えのある声が聞こえ、ナムは視線を向ける。

そこには息を上げて走ってくる昨日初めて会ったトウヤの義理の妹、リィヤが見えた。



「なんだリィヤか、ところで質問の答え……おいおい。」



よほどナムが怖かったのであろう、女性はナムが目を離した隙に居なくなっていた。

ナムは頭に手を置き天を仰ぐ。



「俺ってそんな怖えぇか?」



内心傷つきながらも、相手がいなくなってしまったため、仕方なくリィヤの方向へ歩き出す。

トウヤは近くで息を整えているリィヤの肩を掴んで心配している。



「まさかまた屋敷から飛び出してきたわけじゃないよな?」

「いいえ、今日はちゃんと言ってきました、護衛さんを無理矢理付けられちゃったので撒いてきましたけど!」



トウヤはさりげなくリィヤの後方を見る。

建物の影で見守っているボディーガードを見つけると、彼は一礼してから口元に人差し指を当てた。



「そ、そうなのか……今頃探し回ってるんじゃないのか?」

「う……でもわたくしは兄様と気兼ねなく会いたかったのです!」



トウヤは後方のボディーガードへ、お前らも大変だな、という表情をする。

彼はそれを見てまるで、見守るのも楽しい、と言いたげな笑顔で返答をした。


リィヤがとても好かれている事を察したトウヤは嬉しく思った。



「リィヤちゃんも来たことだし、1回そこのお店で休む?」



ミナの指さした先にはコーヒーやお茶、軽食をメインで出す店が存在した。

まだ昼には早いが、この手の店は会話をするのにもってこいなのだ。



「僕の村には無かった店だな……。」

「こういう大きな町位しかねぇからな。」

「俺様も入った事ねーな、大体屋敷で飲めたし。」

「馬鹿ね、自宅とは違う雰囲気で楽しめるのが良いんじゃない。」



そんな彼等の後ろでリィヤも目を輝かせている。



「ぜひ入りましょう!ぜひぜひ!」



入ってみたかったのか興奮気味のリィヤにまるで押されるように他の4人も店に入る。

リィヤは興味あるものが絡むと意外と押しが強い事が、トウヤを除いた3人の記憶に刻み込まれたのだった。





木材がメインの店の内部は派手さの無い落ち着いた飾りで装飾され、落ち着いた雰囲気だった。


店員に案内された広めのテーブル席に5人が囲うように座り込んでいる。


店内を目を輝かせてキョロキョロしてるリィヤの真後ろのテーブルには、本で顔を隠すように座る彼女のボディーガードも見える。



「良い雰囲気じゃない。」



ミナは店内の落ち着いた雰囲気に満足してるようだ。

彼女の前には苺をメインとした飲み物が置かれている。



「なるほどね、ミナさんの言うこともわかる気がするよ、これも悪くないね。」



トウヤの前にはホットコーヒーが1杯、ミルクだけが近くに置かれている。



「何を頼めばいいかわからなくて困ったよ。」



タイフの前にあるのはトウヤと同じコーヒーだった、彼の頼んだものを真似して頼んだのだ、砂糖とミルクのフルセットである。



「こういうお店憧れだったんです、また1つ良い経験をしました。」



リィヤの前には紅茶が置かれている、付属品は何も無く、素の味を楽しむようだ。



「飲み物だけなんだなおめぇら。」



ナムの前には腸詰め肉と野菜をパンで挟んだ物が2つ置かれている、飲み物は水である。



「相変わらずねアンタは。」

「あ?なにがだよ?」

「気にしないで、なんか安心しただけだから。」

「すげぇバカにされてる気がするぜ。」



ナムはミナを睨みつけるが、ミナは最早興味をなくしたようにリィヤへ目線を向ける。

リィヤは紅茶を口につけ、ミナの視線に気付くとカップをテーブルに置く。



「昨日は色々あってのんびり会話もできなかったわね。」

「あ、確かにそうです、わたくしも昨日は残念でした。」



リィヤはおしとやかに笑う。

しかし、体が微妙に揺れているところを見ると楽しい気持ちが抑えられていないようだった。



「んぐ、リィヤは独り立ちして1年くらいか?」

「あ、はい、でもボディーガードの皆さんがいるので独り立ちという感覚はあまりありませんけど。」

「だろうなぁ。」



ナムは食事を頬張りながら会話をしている、流石に口に入れたまま話すことは無いが。



「それにしても、養子でもしきたり通りにやるんだな。」

「私達の家はその辺は例外ないからね、15歳で独り立ちは変わらないわ。」

「厳しいなぁ、流石は三武家。」

「厳しい割にはボディーガード付けてるけどな。」



タイフとミナの会話にナムが割り込み、トウヤが苦い顔をする。

リィヤも少し困った顔になっているように見える。


後ろで隠れてるボディーガードの1人も肩を上げて反応した。



「今何人屋敷にボディーガードいるのかしら。」

「ええと、わたくしのお屋敷には11人いますね、兄様もそうでしょう?」

「あら、2人とも同じなの?」

「お父様の方針でわたくしたちに差は無いはずです。」



リィヤはいい人達ですよ、と言い笑顔になる。


それを聞いた後ろのボディーガードも何やらハンカチのようなものを顔を隠している本の後ろで動かしている。



「そ、そうだな11人だな、この前俺様の屋敷でちょっと事件があって8人に減っちまったが……。」


「お父様からのお電話で簡単に知りました、何事もなくて良かったです兄様……それにしても3人も犠牲になるなんて。」


「あ、あぁ……この2人が来てくれてなかったらもっと増えてただろうな、それにしてもリィヤ、犠牲になった人数も父上に聞いたのか?」


「いいえ、今の話を聞いて8人に人数が減るという事は……そういう事かと思いまして。」



リィヤは何かを思い出すように顔を曇らせる。



「なるほどな、今知ったわけだ。」



トウヤはそう言って何故か顎の下に手を置いた。


ナムはそれを流し目で見てから、リィヤに視線を向ける。



「それにしても強盗だなんて、恐ろしい。」

「あ……そうね、酷い人間達だったわ。」



ミナは彼女が魔物恐怖症だと言うことを思い出した。

恐らくトウヤの父親が情報を隠して伝えたのだろう、彼女のトラウマを呼び起こさないように。



「って!いきなり会話が重くなっちゃいましたね!楽しいお話しをしましょう?」



リィヤが今気づいたと言わんばかりにどこか無理矢理に笑顔にして会話を切り替えようとする。



「……そうね、リィヤちゃんはトウヤさんの家に引き取られて何年なのかしら?」


「大体10年です!」



その後もリィヤと4人はお店で他愛のない会話を続けた。


唯一トウヤだけが少し何かを考えているような感じだったのを、ナムは時々確認していたが。





「お昼までご馳走になってしまって申し訳ありません。」

「良いのよ、この筋肉バカはお金だけはあるから。」

「おい、それは本来トウヤに言うべき言葉じゃねーのか!?」



ナムは自分の町で出た銀行強盗を捕まえた報酬である300万エンの入った財布を見ている。

少しずつだが宿や食事等で減ってきているようだ。



「トウヤ、おめーもさっさと金何とかしろよ、俺よりあんだろ?」


「すまん、マネーデルカード使えると思って色々屋敷に置いてきちゃった。」

「使えねぇなおい!?」



ナムはまだしばらく報酬から払うことになりそうだと感じると、出先で依頼受けの仕事をするしかないかと肩を落とす。


魔物の討伐ならば稼げそうである。



その時だった、ナム達より少しあとにコソコソと店から出たボディーガードが、変装を解いてわざとらしくリィヤを探すように歩いてきたのだ。



「リィヤお嬢様ー!こちらにいらっしゃいましたかー!」


(良くあれでリィヤも気付かねぇな。)



ナムは彼の演技の下手さに思わずため息を吐くと、リィヤの方を向いた。



「探してんぞ。」

「あら、もう見つかってしましたか!」

「残念だったな。(ずっと後ろにいたがな)」



リィヤは残念そうに舌を出すと、ボディーガードの方へ少し歩いて振り返る。



「またお話しましょう!」


「ええ、そうね。」

「俺様達はまだいる予定だ。」

「またね、リィヤ。」



ナム達のメンバーに手を振られ、リィヤもボディーガードに連れられて行く。


2人の姿が見えなくなった時、トウヤは再び考え事をし始めた。



「おめーどうしたんださっきから。」

「ん、あぁ……いや、なんでもない。」

「何か気になるの?」



トウヤは2人の反応を見て、話すべきかどうかを悩んでるようだ。



「すまんまだ確証がない、ちょっとだけ単独行動してもいいか?」

「わかったわ、私達には何が出来るかしら?」



トウヤは少し考える。



「そうだな、明日の夕方までに合流しなかったらこの町で1番大きな家に来てくれ。」


「あ?」

「どういうことだ、トウヤ。」



ナムとタイフの疑問にトウヤは答えず、そのまま走り去ってしまった。



「どうしたのかしら。」

「わからねぇ、だが俺らは聞き込みを再開させるとしようぜ。」

「わかった、次はあっちの区画に行ってみないか?」



ナムとミナ、そしてタイフは移動を開始する。


移動した先でしばらく聞き込みをしたがやはり大した話は聞けず終いだった。


結局夕方になったので、3人は落胆しながら宿に移動したのであった。





「それでは定例の報告を、今日は何かありましたか?」



リィヤの屋敷でボディーガード達が集まっている。



「はっ!屋敷に異常はありません!」



今日は屋敷に10人体制で警備を行ったが、特に何も無く平和だったようだ。

それを聞いたボディーガードのリーダーのベルアは頷く。



「はっ!護衛報告です、リィヤお嬢様はのびのび彼らと会話を楽しんでおりました!我らのことを良い人達と申され、もう感無量で!」



護衛任務をしていた同僚の言葉にどこかホンワカした空気に変わる。

彼らは全員リィヤの事が大好きなのだ。



「我らの人数や仕事の内容、我らを撒いた事すらも楽しげに話しておりましたた!」


「ほう、良き友人たちが出来たようですね。」



彼の報告を聞いたベルアも満面の笑みを浮かべる。



「恐らく明日もお出かけになるでしょう、次は誰が護衛しますか?」



ベルアの質問に一斉に手を上げるメンバー達。



「……それでは、明日までに誰が護衛をするか決めておいてください、我は休みます。」



ベルアが退室するとともに、部屋で議論が開始され、誰が行くかで揉めているようだ。



「困った人達です。」



苦笑したベルアは欠伸をひとつすると、自分の部屋へ歩いていったのであった。


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