1章:新たな仲間
タイフを利用し、彼の故郷であるゼンツ村を滅ぼした魔物、ビーストの<シドモーク>をナム達の作戦でタイフから追い出すことに成功。
シドモークの呪縛から解き放たれたタイフは、自身の力でシドモークを討ち果たし、村人達と家族の仇を取った。
重傷の身で戦ったタイフはそのまま意識を失うのだった。
そこで記憶が途切れていたタイフだったが、体の痛みで無理矢理起こされた。
嫌な目覚めだと内心思いながら周囲を見渡すタイフ。
そこは白を基調とした建物の中のようだった。
自身の体が柔らかい物の上に寝かせられていることが分かる。
「病院……かな?」
同じ部屋に白いベッドが2つ程並んでおり、自分が寝ているのが3つ目だと何となく理解したタイフ。
恐らく最後に寝床を求めて忍び込んだファスの村の病院だろう、小さい病院を暗闇の中であったが確認していた。
間取り的に恐らく病室はこの部屋だけだ。
「誰がここまで……いや他にいないか。」
間違いなくあの3人だろうと確信したタイフは、何からかかにまで助けてもらった事実に少し罪悪感を覚える。
恐らく、いや間違いなく彼らは自分と戦ったであろうことがわかっていた。
ひとつ間違えればまたもや自分は犠牲者を出していたかもしれないのだ。
落ち込んだ気持ちになっていたタイフは近付いて来る足音に気付く。
顔を上げて音のする方向へ視線を向けると、つい最近出会ったあの3人がいた。
「目が覚めてるわ!!」
「本当だ!」
記憶の中で自分を治療してくれていた女性……いや三武家のアーツの跡取りと、恐らく同じ三武家の跡取りであろう男が近付いて来る。
タイフは思い出していた、彼女こそ昔写真で見たアーツの女性だと言うことを。
タイフは遠くを見る、慌てて走ってくる2人に合わせずにのんびり歩いてくる、筋骨隆々の男、タイフが寝床確保の為無断で侵入していた部屋に偶然泊まったあの男だった。
体の感じからして、おそらく彼はブロウの跡取りであろうことを認識したタイフは、近付いて来る男のほうが消去法でマギスの跡取りだと思ったのであった。
この2人の顔は、アーツの跡取りであるミナと違い世間に広まっていない、タイフが認識できなくても仕方ないのだ。
「気分はどうだ?」
遠くから筋骨隆々の方、ブロウの跡取りから声を掛けられたタイフは首を縦に振る。
「まだ動けそうに無いですけど。」
「無理すんな、あの戦闘からまだ2日しか経ってねぇ。」
タイフは驚く、自分は2日も眠っていたのだと。
「あの筋肉馬鹿が悪いのよ。」
「おい。」
「思ったより威力あったからね、全身打撲で結構危なかったみたいだよ、やはりミナさんに任せといて良かったかもね。」
「おいこら。」
あの威力でないと無理矢理操られる危険があったと何度も説明しているナムはゲンナリとした表情になっている。
勿論2人はあの時の投石の威力は完璧だったということは理解している。
最初に傷を見たミナは感心していた、ミナの付けた切り傷や頭には1発も打撲痕が無かったということに。
トウヤは昔を思い出した、子供の頃に三武家合同訓練時にナムの投げた投石が早過ぎてトウヤには認識出来なかったが、今回の投石はトウヤでも余裕で回避出来る威力だったと。
ナムは普段は自堕落であり、警察内で渾名が<ブレイカー>等と呼ばれてしまうほど乱暴な解決をすることはあるが、彼も三武家の格闘術の権威であり、体を使う行動に関してのコントロール力はずば抜けているのである。
ミスをする筈がないのだ。
ようやく近くにやってきたナムの右手に1枚の紙があることを確認したタイフは自然に目がそれに向かう。
「タイフ、良い知らせだ、ほらよ。」
ナムが見やすいようにタイフの目の前に出された紙をタイフは見る。
「ゼンツ村……の惨劇の犯人、タイフは……え?」
タイフはその紙を読むのをとめる。
「証拠品と俺のブレイカーの渾名を出したらあっさり信用したよ、やったじゃねぇかタイフ。」
ナムはそう言いながらポケットから取り出した物をタイフに見せ付けるように出す。
それはタイフを操っていた魔物、ビーストの<シドモーク>の核、ドクロ頭の黒い彫刻の頭の部分の欠片だった。
「タイフは……魔物に操られていた為……罪は問わないものとする、よって指名手配は……取り消し……そうか。」
タイフは全てを読むと、目を伏せた。
「嬉しくねぇのか?」
「嬉しい……ですけど、でも家族と村の人達は帰っては来ない……それに操られていたとはいえ、皆を僕の手で殺したことは変わらない。」
ナムは少し考え、言葉を発した。
「そうだな。」
トウヤとミナは驚き、ナムの方へ振り向く。
「だが、その手で村人全員の仇を討ち果たした事実も変わらねぇ……と俺は思うがな。」
「そう……ですね。」
タイフは少しだけ目線を上げた。
「タイフさんはこれからどうするのかしら。」
ミナにそう尋ねられたタイフは悩み始めた。
「分かりません、もう帰る場所もないし、村人達に許して貰えるならファスの村にこのまま住むのも良いかもしれません。」
そう言われたミナはナムとトウヤを交互に見る。
トウヤは頷き、ナムは好きにしろとでも言わんばかりに手を振る。
その反応を見たミナは頷き、タイフの方へ向き直した。
「タイフさんが良ければ、私達に付いてくるってのはどうかしら。」
その言葉にタイフは驚き、目を見開いた。
「その未来眼の力もあるだろうけど、ナイフだったとは言えミナさんとあんなに斬り結べるなんて、個人の能力も高い事の証拠だよ、俺様が未来眼を使えたとしてもあんなに戦えないだろうな。」
トウヤはそう言って同意の意思を示す。
「俺達に付いてくればその能力もっと伸びるだろうぜ、まぁ無理強いはしねぇがな。」
ナムもぶっきらぼうだが、一応同意しているようだ。
タイフはそんな彼らを呆けた顔でしばらく見ていたが、視線をずらす。
「僕なんかが三武家の皆さんと行っても足でまといにしか……。」
「あら、気付かれてたのね。」
ミナは自分の写真なんかが出回ってることを今更思い出した。
シドモークに襲撃を気付かれた原因はもしや、と思ったが冷や汗すら出さずに隠すことに決めた。
ナムとトウヤはその事を知らないのだ。
ミナが悪巧みを妄想している中、ナムから声が上がりミナは慌てて意識を戻す。
「俺達は今ある依頼を任されている、魔物達がここ数年で謎の強化を遂げている件を調べることだ。」
「それは……確かに三武家である皆さんに声が掛かるのも分かる大きな依頼ですね。」
タイフはそれを聞き、やはり自分には無理だと断ろうとした。
「それと、その依頼のついでにやろうとしていることがある、各地を回る必要があるからな、色々な村や町で魔物による被害を解決することも考えているんだ。
まさにタイフ……お前のような人間を救う為にな。」
しかし、ナムの言葉の続きを聞いたタイフは表情を変える。
「僕の……ような?」
「シドモークはあの1体しかいないわけじゃねぇし、アレよりもっとやべぇのは沢山いる……どう思う?」
この世界の魔物は強い。
ノーマルやビーストなら軍や警備隊でも何とかなるかもしれない。
ヒューマンも1体なら軍でも損害は出るが倒せる。
しかし、ヒューマンが複数体出現した場合は為す術もない。
今もこの世界のどこかにはタイフと同じように家族や村を失った人間が多くいる。
「わかりました。」
タイフは力強く3人を見る。
「僕の力でも役に立つのなら……未来眼が役に立つなら!!」
ナム、そしてミナとトウヤはその言葉を聞いて笑顔を浮かべる。
「僕も行く。」
「決めたな。」
「よろしくね、タイフさん。」
「未来眼のこと、俺様がしっかり教えてあげるよ。」
「うん、よろしく。」
タイフは大きく頷いた。
3週間の間ナム達はファスの村に留まり、村の防護柵の強化や警備隊の訓練を手伝った。
その間にタイフは傷を癒し、完璧ではないが動くことに支障は無いレベルにまで回復したのだった。
そして今日ファス村を旅立つ事になったナム達。
村の出入口付近には村人達が集まっている。
「そんじゃ行くか。」
ナムの言葉にタイフを含めた3人が頷く。
村人達の感謝の言葉を背中で聞きながら、ナム達は次の町へ向かうことにした。
目的地はここから北の方角にある<ドルブ>の町だ。
町の規模はナム達の町と同じ位であり、少数ながら軍もいるという。
「情報集めにはもってこいの町だな。」
「そうね。」
「ドルブ?なんか聞いたことあるような?」
タイフはそんな3人の様子を見ながら歩く。
(まさか僕がこの3人と行動することになるなんて。)
「タイフさんはドルブに行ったことはあるの?」
「え、いや逃走中も流石に大きい町は避けた。」
「言われてみればそれもそうね。」
タイフの言葉からは敬語が消えていた。
悪い意味ではなく、タイフが彼らを仲間だと認識したからだ。
そんな彼の変化を3人とも快く思っている。
遅い自己紹介はファスの村にいる時に終わらせた。
その時にタイフはマギスのトウヤから未来眼の仕様をはっきり教えて貰っていた。
未熟だから知らない攻撃で慌てて無意識に能力を解除していたと勘違いしていた3つ目の弱点を教えて貰ったのだ。
知識にないまたは経験したことの無い行動には未来眼は機能しない。
それを知ったタイフは酷く驚いていた。
未来眼の力を高めるためには勉強と経験が必要だと3人に言われたタイフはファスの村で少しばかりの戦術の本を買って読むようになっていた。
今も荷物に入っている。
タイフはそれを思い出しながら、腰にかけている自身の武器の圏に触る。
(僕はもっと強くなって……人々の助けになる、罪滅ぼしになるかはわからないけど、やってやる。)
タイフはそう思いながら、三武家の3人の背中を追い掛けるように歩んでいった。
タイフ加入、そしてシドモーク編完結です。
そして次回から3日毎投稿にします……。
(今回もギリギリでした。)