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ブレイカー  作者: フィール
3章
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3章:迫る力と死

(とにかく、見つからないようにここから脱出するしかあるまい。)



ナムとの諍いで負った傷を病院で治療していたダルゴは、最上階の病室で息を潜めていた。


ここは自身の病室ではない。

使っていた患者が今たまたま病院内を散歩しているのか、それとも空いていたのかは定かでは無いが、人の姿は無い病室だ。


彼はたまたま聞こえた謎の足音を聞き、咄嗟にこの病室に隠れていた。



(奴は何者なのだ?)



そう思いながら、彼は隠れている病室の出入口から僅かに顔だけを出す。


その謎の足音の正体である少女は、未だダルゴの視界で補足できる位置を徘徊しながら、各病室の中を確認している。

片手に持った巨大な鎌を構えながら。


その姿に冷や汗を流しながら彼は、ある場所へと視線を向ける。

その場所は、この世界に存在しないはずの創作上の魔物であるゴブリンの死骸があった場所だった。


突然の接敵に驚いて咄嗟に首を絞めて殺したそのゴブリンの死骸は、元からそこに存在しなかったかのように消え失せていた。



(病院内にゴブリンがおったり、謎の小娘がおったり。)



ダルゴは大きな深呼吸をしてから、再びマイカとかいう少女の姿を注視する。



「何処かなぁ? 早く出てきてよぉ司令官さぁん。」



その言葉が聞こえると共に、マイカの顔がこちらを向きそうになり、ダルゴは咄嗟に病室内に素早く隠れる。



(よく分からんが、この儂を狙っておるのは間違いないな。

つまり……やはり奴らはここ最近起きている司令官殺害犯の仲間か。)



そう推測した途端、ダルゴの中で燻る怒りの感情が再び燃え上がりそうな感覚を覚えた。

有能な右腕であったケンジを殺害したガジスという男の仲間であるなら、彼の復讐をするチャンスでもある。



(相手はあの小娘……それならなんとか。)



そう思うと同時に、彼は自身の両頬に掌を強く叩きつける。

その痛みと共に、彼の中で燃え上がっていた怒りは少し落ち着きを取り戻していく。



(馬鹿を言うな……もしそんなことをして儂が万が一にでも死ねば、部下をどうやって守るのだ。 あの馬鹿者に諭されたばかりであろう!)



ダルゴは自身を叱責した後に何度か深呼吸を繰り返し、残った怒りを鎮め、再び病室の出入口からマイカとかいう少女の様子を伺った。



(む?)



廊下の様子を確認した時だった。

何処かの病室に入ったのかはわからないが、視線の先に彼女はいなかった。


念の為辺りを注意深く見渡したが、やはり存在を確認できない。



(今しかあるまい。)



そう感じたダルゴは、急ぎ病室を飛び出した。

まだ体自体は痛む場所はあるものの、移動には全く支障はない。


今思えば、ナムにあれだけやられたにしては傷が異常に少なく感じる。


こちらは全力で戦ったにも関わらず、相手にはこちらの傷を少なく抑えるような余裕すらあったという事実に、多少プライドを傷付けられたダルゴではあったが、今はそんな時では無い。



(後で一発殴らせて貰うとしよう。)



廊下を走りながらそんなことを考え、彼は笑顔になっていた。

全容の見えない敵に追われてるとは思えない程の良い笑顔を浮かべながらも、彼は何度か背後を確認する。


ダルゴが廊下を走る最中も、マイカは廊下に出てくることは無かった。


そうしている最中にも、彼は階段の近くまで辿り着いていた。



「む!?」



その階段を降りようと視線をそちらに移した時、その階段には人影があった。

子供のような身長を持つ、武器を持った存在が数体。


間違いなく、ゴブリンの集団だった。



(やはり1匹ではなかったか!?)



ダルゴは驚くが、そんな中でも目の前の状況を彼はしっかり確認した。

目の前の3体のゴブリンは階段を登っている最中だったのであろう、突然現れたダルゴに驚いているように見える。


その上足元は階段の為、彼らのいる場所は安定しているとは思えない。



(今がチャンスだ。)



そう考えたダルゴは、階段の上から跳躍し、ゴブリンに向けて足を伸ばす。



「どけぇ!」



突然の跳躍に対応出来なかった1匹の頭へ見事にダルゴの飛び蹴りが命中し、その1匹は彼と共に落ちていく。

残りのゴブリン2匹はそんな状況を見て困惑し、動けずにいるようだった。


ダルゴに蹴られて落下したゴブリンは、ダルゴの足と階段の踊り場の壁に頭を挟まれ、大きな骨の折れる音と共に絶命し、ダルゴ自身も上手く受身を取って踊り場を転がった。

我に返った2匹のゴブリンは、階段を降りて行く。


ダルゴは素早く立ち上がると、そんな2匹を尻目に階段に向けて走り、同じく階段を降りる。



(殲滅する必要は無い。 逃げれば良い!)



下に降りるにつれ、今まで聞こえなかった音が聞こえてくる。


突然現れた謎の魔物に驚き、悲鳴をあげながら逃げていく人々の足音や声。

そしてそんな人々を追いかける小さな足音や、金属音のする足音達。



(金属音がするな……? まさか鎧を着た個体もいるのか!?)



状況が思ったより悪いことを悟ったダルゴは、市民を守るという軍の人間としての使命と、今捕まればそれすら出来なくなる現実の前に一瞬悩む。


しかし、背後から聞こえてくる先程の2匹の足音を聞いたダルゴは、その声を首を振って振り払い、更に階段を降りていく。



(この病院は……確か5階建てだったか? 後3階分下がれば。)



踊り場を介し、更に下へと降りていく。

そして3階部分に到着してすぐに横の階段を降りようとした。

しかし、その先から先程の鎧のような足音が複数聞こえてくる。

まだ見ぬ敵がこの先に大勢いるのは確実だろう。




(ここから降りるのはまずいな。)



ダルゴは忌々しげに舌打ちすると同時に踵を返し、3階の廊下へと歩みを進める。


しかし、その先も大した差はなかった。


3階の廊下にも謎の魔物達が徘徊しており、廊下には血が飛び散っており、複数の人間達が倒れていた。

遠くから見ただけではあるが、倒れている人間達は皆男のようだ。

しかもそこそこ年齢が高い人間達が多い。



(大体儂と同じくらいの年齢の男達に見えるな? まさか……奴ら儂を知らないのか?)



年齢はある程度調べているのだろう。

しかし奴らは肝心の顔を知らず、近い年齢の人間を手当たり次第に殺しているのかもしれない。



(今までの基地襲撃では、死ぬのは司令官1人だった筈だ。 他の人間は怪我をすることはあれど死者は出たことは無い。)



ダルゴはこの状況を確認し、今までとは毛色の違うことに違和感を感じ始めていた。

しかし、そうのんびりもしていられない。


背後からは2匹のゴブリンも追ってきているし、その2匹のゴブリンが他の魔物達と意思疎通出来ないという証拠もない。

素通りした4階にいるであろう魔物達が一斉にこちらに来る可能性すらある。


行動は素早く行うべきであった。



(廊下の先にはゴブリンが5体……あの鎧はなんだ?)



ゴブリンの先に1匹だけ存在する人間と同じサイズの鎧を着た人型の魔物。

よく見るとその鎧には()()()()()()



(……まさか、デュラハン? またもや創作上の魔物だと!? ふざけおって!)


その後もよく見ると、その廊下には羽の生えた悪魔のような見た目をした魔物であるガーゴイルらしき魔物、巨大な二足歩行の豚の姿をしたオークらしきものまで存在している。



(この廊下を抜けるのは無理だな。)



そう考えたダルゴは、階下から迫ってくる鎧の足音を聞く。

恐らくデュラハンの集団だろう。



(階段を降りるのも無理……となれば。)



それからの行動は早かった。


彼は素早く降りてきた階段を駆け上り、上から追ってきていたゴブリン2匹と対峙する。


廊下の先の集団や、階段下のデュラハンの群れよりは、まだこの2匹の方がリスクが低いと彼は判断したのだ。


恐らく、彼らは身軽な為に他の魔物より早く上階に到達できたのだろう。

上の階ならば、まだゴブリンだけの可能性は高い。



「邪魔だぁ!!」



ダルゴはそう声をあげ、2匹の内の片方の顔へと拳を振るい、転倒させる。

驚いたもう片方が棍棒を振り上げるのを見たダルゴは、咄嗟に身をかわしてその棍棒の攻撃を体に掠るらせる程度に抑えた。


こんな小さな魔物の棍棒だろうと、当たれば無事では済まないだろう。


冷や汗を流して安堵した彼は、もう片方のゴブリンの腹を蹴り飛ばし、階下へと突き落とした。

運良くと言えばいいか、落ちたゴブリンは頭から地面に激突し、多量の出血と共に動かなくなる。


恐らく死んだか、致命傷は負っている筈だが、今の彼には時間がないのだ。

その個体の様子を探るのは程々にし、彼は再び階段を駆け上がっていき、4階に辿り着くと同時に廊下へと歩みを進める。



(狙い通り……ではあるが。)



予想通り、4階の廊下にはゴブリンが多い。


しかし、足腰の強い個体だったのだろうか、オークらしき魔物が1匹だけ混ざっていた。



「ちっ……!」



ゴブリンの1匹がダルゴを目視し、その個体が鳴き声を1度あげると同時に、他の個体とオークがこちらに視線を移す。


やはりある程度意思疎通は可能のようだ。

さっきの2匹は追うことに夢中になりすぎて、4階の連中を呼ぶのを忘れたのだろう。


この時ばかりは最上階である5階に戻るべきだったかと後悔したが、その5階にはあのマイカとかいう少女も徘徊しているのだ。



(何処に逃げても危険は変わらんか……ならば、まだこの階はマシだ。)



覚悟を決めたダルゴは肩を回し、続けて指を曲げて鳴らす。


目の前のゴブリン達は武器を構え、ニヤニヤした表情を浮かべており、オークは大きな咆哮を轟かせる。



「この儂を狙う度胸だけは褒めてやろう。」



咆哮を辞めたオークは、目の前にいるゴブリン達を気にすることなく走り、2匹ほどを吹き飛ばしながら突き進む。

オークの片手にはゴブリン達のそれよりもさらに巨大な木製の棍棒が握られている。


殴られれば間違いなく死ぬであろう。



「だが、儂は死なん!」



オークに吹き飛ばされたゴブリン2匹はよろよろと立ち上がり、彼らもオークの後ろを着いていくように走る。



「貴様らが何を考えて儂を狙うか……逆に尋問してやろう!」



ダルゴも彼らを迎え撃つ姿勢を取り、拳を構える。


そして、それに応えるかのようにオークも走りながら巨大な棍棒を振り上げる。

単純な力の暴力がダルゴに向けて振るわれようとしている。


それでもダルゴは、不敵な笑みを絶やさない。

まるで勝利を確信しているかのように。



「貴様らのような幻ごとき、ワシが下せないはずもない!」



その言葉の後すぐ、両者はぶつかり合うのだった。

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