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ブレイカー  作者: フィール
1章
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1章:惨劇

ゼンツ村の警備隊の訓練が終わったタイフは、自身の自宅前へ無事に着いた。

タイフは疲れた様子で玄関を開ける。


扉の向こうではテーブルに座った母親の姿があった。



「おかえりタイフ……その様子だと間に合わなかったわね?」

「よく分かるね母さん。」

「あんたがそんなにヘロヘロの時は絞られた後だもの、誰でもわかるわ。」



ガックリと肩を落としたタイフは、テーブルの上にある経食に気付く。



「どうせ朝も食べてないからお腹すいてんでしょ、夕飯までまだ少し時間あるからそれで持たせときなさいな。」

「助かるよ母さん!」



縦に切れ目の入ったパンに腸詰め肉と野菜が挟まれている食べ物にかぶりつくタイフ。



「模擬戦はどうだったのよ。」

「ん?取り敢えず隊長には何とか勝ったよ、不意打ちだけど。」

「あの隊長相手に良くやるわね、あんたが先月勝っちゃうまで不敗の人だったのに。」

「まだ単純な技量では勝てないよ。」



タイフはそう言って最後の一欠片を口に放り込むと、席を立つ。



「ありがとう母さん、ちょっと疲労凄いから部屋で休む。」

「夕飯には起こすわ。」



部屋に戻ったタイフはそのまま布団へ寝転がろうとしたが、先程拾い上げた謎のドクロ頭のチェスの駒のような彫刻の存在を思い出すと、ポケットからそれを取り出し、部屋の棚の上へ置いた。

自分の部屋でゆっくり眺めると、かなり禍々しい雰囲気で、まさに雑貨屋の女主人が好みそうな物である。



「明日早く起きれたら雑貨屋のおば……魔女さんに聞かないとなぁ。」



そう言ってタイフは再び布団に潜り込むと、寝息を立てて眠り始めたのだった。


その後、夕飯の時間に妹のマイカにまたもや踏みつけられて起こされたタイフは家族と団欒しながら夕飯を食べ、その後に自分の部屋に遊びに来たマイカの話し相手になったりしながらお互いの眠る時間まで何の変哲もなく暮らした。





そして翌日、またもやマイカに踏み起されたタイフは昨日と同じような流れで着替えて武器を持ち、部屋から出ようとする。



「おっと、これを忘れるところだった。」



タイフは棚の上のドクロ頭の彫刻を手に取りポケットに押し込む。



「お兄ちゃんなにそれ。」

「昨日村の中で拾ったんだよ、雑貨屋の魔女さんの趣味で入れた商品じゃないかなぁと思って……すまん、また後で話そう。」



タイフは時間を確認すると、マイカとの話を切り上げて部屋から出ていく。


部屋に1人取り残されたマイカは先程の彫刻を思い出しながら首を傾げている。




「昨日マイカあの雑貨屋行ったけど……あんな彫刻()()()()けどなぁ。」




商品をたった1個だけ入荷するはずがない、してたとしてもあの魔女さんなら店の外にそれらしい謳い文句の販促の紙を仰々しく貼り付ける筈だ。


魔女さんの趣味で商品ではなく店の装飾として購入した可能性もあるが、それなら村の道端に落ちてるのも変な話だ。


実はマイカはこの部屋に兄を起こしに来た時に異様な寒気を覚えていた、そう……まさに先程の棚の上の彫刻からだ。

思わず手に取ってしまいたくなる気持ちになるその彫刻が気になって仕方なかったが、マイカは兄を起こすという仕事を優先させて触れはしなかった。


そして今、兄が部屋から出て行った途端にその寒気が消えている。



「……気のせいだよね?」



マイカはそう言って自分を納得させると、兄の部屋から出て家族と朝食を楽しんだのだった。





昨日と違い何とか間に合ったタイフは隊長に驚かれながらもいつも通りに訓練をし、いつも通り模擬戦を行い、そしてまたもや隊長に勝ったのだった。


懐には朝がギリギリで結局雑貨屋の魔女に聞けなかった例の彫刻が入りっぱなしだ。


隊員に勝ったりする度に彫刻が振動していた気がしたタイフだが、戦闘時の体の動きでそうなったのだろうと深く気にしてはいなかった。

隊長に勝利した時が1番振動したが、それすらも隊長との戦闘はいつもより激しく動くために仕方ないと考えていた。



「本日の訓練はここまでだ、明日は休暇とする。」



隊長のその言葉に昨日と同じような動きで隊員たちが解散していく。


タイフは昨日よりは疲れていない体で雑貨屋に行く為に村の裏通りに入っていく。

あくまで魔女っぽさを演出するために村の裏通りをわざわざ選んで開業したという話を聞いた時は、そこまでするかと思いもしたが最早慣れてしまった。



「電灯が無いから暗いんだよなぁ……ん?」



タイフは懐で振動し始めた彫刻に驚くと、ポケットから取り出す。

先程までなら戦闘中の動きで納得出来たが、今回は流石におかしいと気付いたタイフ。



「なんだ……もしかしてさっきの振動も?!」



タイフは彫刻を眺めると、彫刻のドクロ頭の目の部分が紫色に一瞬光ったのに気付く。



「なっ……えっ……!?」



その光を直視したタイフは、体の力が抜けていくことに恐怖しながら彫刻を投げ捨てようとするが、何故かそれが出来ない。


そしてとうとう立っていることすら出来なくなったタイフは自然に倒れ込み始める。



「何が……おき……!?」



地面へと倒れ伏したタイフはそのまま気を失ってしまった。



「ヨイ……カラダダ。」



最後に何処から聞こえたのか分からない言葉を聞きながら。





タイフが目を覚ましたのは自分の部屋だった。



「はっ……!?あれ?」



起き上がり、周りを見渡して自分の部屋だと気付いたタイフは困惑している。



「確か気を失って……誰かが介抱してくれたのかな……ってそうじゃない、あの彫刻は!?」



そういってタイフは懐を探るが、どこにもあの彫刻は入っていなかった。



「落としたのか……?」



タイフはもう1度探ろうと目線を自身の懐へ向けた。



「……はっ?」



タイフはその時に視界に映ったモノをみて硬直する。

そこには腰元に下げている圏と自身の衣服が視界に入っていたが、その異常な光景にタイフは思考が追いつかない。



そう、自身の武器と衣服が……なにか()()()()()()()()()()のだ。



「え……なんだこれ。」



タイフはそれを認識すると同時に部屋の中に充満している臭いにようやく気付く、そうまるで鉄のような生臭い臭いだった。

訓練中に怪我した時に出る……そう、血の匂いだ。



「体のどこも痛くない……僕のじゃない……じゃあ一体誰……の?」



タイフはすぐさま起き上がり、自身の部屋から飛び出した。

頭の中で不思議と、とてつもない嫌な予感を覚えながら。


家族で団欒するいつもの机がある部屋まで向かったタイフ。

相変わらず血の臭いがし続ける自宅を見回すタイフ。

それはいつもと変わらぬはずの自宅の様子、いつもの日常。


それを信じたタイフの視界に映るのは壁や床に付着したおびただしい量の血痕。


そしてタイフにとって1番当たって欲しくない嫌な予感が的中したことを表す光景が視界に入った。



「……嘘だっ!嘘だぁぁ!!」



部屋の隅に父親と母親が倒れていた。

まるで母親を守るかのように倒れ、背中に大きな傷を残して絶命している父親と、父親の体が乗っていない箇所……首を切られて絶命している母親の姿。



「何が……何があったんだ……誰が……こんなっ!?」



タイフは心の奥底では気付いていた、理由はわからないが意識を取り戻した自身の体に付着した誰のものかわからない大量の血痕。

それは理解したくなくとも理解せざるを得ないたった1つの真実。


タイフは錯乱しながらもう1人の家族である妹、マイカの部屋まで向かう。

意識はかろうじて保っているが、体は震えて力もうまく入らず、足すらも思うように動かない。


マイカの部屋の扉を開けると、その部屋もほかの部屋と変わらず大量の血痕が壁や床に付着していた。



「後でマイカに怒られるな……勝手に部屋に入るなって……いつも……みたいに。」



タイフはフラフラとした足取りで部屋に入る。


そして見てしまった、まるで窓から逃げようとしたように窓の下でうつ伏せで倒れた妹、マイカの姿を。

その周りには血だまりが広がっている。


タイフは錯乱していたのだろう、それを見た彼は近くに寄ることもできず、自分の意志とは関係なくその部屋から背を向けていた。

まるでこれが現実だと信じたくないと行動で表しているように、一心不乱に家から飛び出していた。


そんなタイフの視界には更にひどい惨劇が広がっていた。


村の至るところに倒れた村人や警備隊員、そして家の扉を無理やり蹴り開けられ、逃げ場のない自宅で絶命した者達。


野菜を売っていた女主人。

弟子を3名取りながらこの村の唯一の鍛冶屋として有名だった親方。

好きだった魔女服の裾を切ってでも逃げ出そうとした雑貨屋の女主人。

村人を守って戦ったであろう警備隊の隊長。


村の中を走って通り抜けるタイフの視界に映る人達、全てが斬撃武器による傷で事切れている状況にタイフは涙を流しながら必死に走る。


理解したくないがわかっていた、これをやったのは間違いなく自分だと。

信じたくはないがそうとしか考えられない状況。

まるで1日中戦闘をしたかのように、遅刻して倍の量の訓練をしたとき以上の疲労が蓄積した自身の体。



「違う……違う!!僕じゃ……だって何も覚えてない!何もしてない!!」



もはや普段ならとっくに動かないであろう体を無理やり動かし、無意識に村の出入り口まで走り続ける。


そして村から飛び出し、近くに来た魔物だけを無意識に切り刻みながらアテもなくまっすぐと進んでいく。

もはや何故逃げているのか、何故村から出たのか、それは本人ですら理解しておらず、本能に近い行動だった。

身近に迫った恐怖からか、または自身がしでかした罪に耐えられなかったのかもしれない。



そして後日、ゼンツ村から瀕死の状態で逃げ延びた警備隊員が近くの町へ辿り付き、村で起こった惨劇の詳細が彼の口から警察に伝えられた。

残念なことに彼も息絶えてしまったが、警察はこの事態を重く見たことにより、各町や村へ指名手配の紙を配布したのだ。


タイフをゼンツ村の村人全員を虐殺した凶悪犯人として。

自身の家族すらも皆殺しにしたあまりの凶悪さにタイフの生死すら問わないという内容で。



川で武器や衣服を洗い、魔物にやられたであろう人間から黒いローブを拝借して小さな村に潜んでいたタイフの目にその紙が写り、数ヶ月に渡り各町や村を転々と移り住み始めた。


そう、とある3人と出会うまで。

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