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ブレイカー  作者: フィール
3章
147/156

3章:亀裂

まだ辺りに微かに雪が見える草原。


そこでは5人の人物が魔物の群れと戦闘を繰り広げていた。



「グラビティ・ホール!」



トウヤの放った重力属性の中位魔法は、彼に向かってきていた狼型の魔物であるウルブを数体纏めて押し潰す。

その光景を見た他の影響外に居たウルブ達は、慌てて止まるとその影響範囲を迂回して避け、再びトウヤに向かって走ってくる。



「魔物と戦うの久しぶりだから鈍ってるな……ウィンド・カッター!」



トウヤの手から放たれた風の刃は、1匹のウルブに向けて突き進み、容易く敵を両断する。

トウヤはそのまま素早く右の人差し指に魔力を集め、既に放ったウィンド・カッターを操作し、残りのウルブを纏めて切り裂いた。



「なんだかんだ町に居座ってた時間も長かったからな、仕方ねぇよ。」



カマキリ型の魔物であるカザキリの振るう両手の鎌の猛攻を避け、ナムは右手でカザキリの頭を握り潰す。


それと同時に、カザキリの放ったウィンド・カッターのような魔法を素早く左手のガントレットで叩き落としたナムは、そのまま新たに覚えた技である視界殺しを放つ。


ナムの姿はカザキリの視界から消え、追加でウインド・カッターを放とうとしていたカザキリはその手を止めてしまう。

それと同時に、カザキリの頭にはナムの正拳が見事に叩き込まれ、敵の頭は消滅したかのように吹き飛んだ。



「前も見たけど、その技便利ねぇ……おっと!」



気配を感じたミナはその場から飛び退き、それと同時に彼女の立っていた場所には複数の針が突き刺さる。

ハリネズミ型の魔物であるニルマスの遠距離攻撃だ。



「面倒ね……たくっ!」



双剣を構えていたミナは、1本を素早く収納して太腿から数本の投擲ナイフを抜き放ち、それを同時に全てのニルマスへと投擲した。

高速のナイフは、全てがニルマスの頭を見事に貫き、全てが絶命する。


そのまま彼女は再び双剣を2本持つと、辺りにいたゴブリンのような見た目を持つ魔物、ゴンブの首を片っ端に斬り飛ばしながらニルマスの死骸に近付くと、刺さっていた投擲ナイフを全て回収する。



「あはは……あの3人の戦い見てると力不足を感じるよ。」


「タイフさんも十分強いですよ、兄様達がおかしいんです!」



ここ最近増えた、2人で力を合わせる戦法を取っていた2人は、リィヤの強力なバリアと、新たなタイフの武器である拳銃の遠距離からの攻撃によって、確実に魔物の数を減らしていた。


ナム達と比べれば処理は遅いが、それでも十分な戦力となっている。



「リィヤ! 後ろから魔物が来る! 背中の後ろ!」


「あっ、はい!」



未来眼(サーチ)の力で得た未来の情報をリィヤに伝え、リィヤはその指示通りにバリアを変形させ、長いトゲのような物を生成すると、噛み付こうと向かってきていたウルブの口内に見事にトゲが深々と刺さる。


以前発覚した、バリアの形の自由度を利用した、リィヤの数少ない攻撃方法だ。



「助かります。」


「あ、うん……気にしないで! 僕の未来眼(サーチ)はこういう使い方がしやすい超能力だしね。」



強敵相手にする場合、リィヤはトウヤを守護する事が多い。

しかし、こういうノーマル達が群がっているような戦闘。

まさに以前のトラルヨークでの大襲撃を境に、2人は良くパートナーとして戦うことが増えていた。

その為、2人の連携はかなり良くなっている。



「僕の前を開けて!」


「はいっ!」



タイフの指示を聞いたリィヤは、言われるがままにタイフの前のバリアを開ける。

それと同時にタイフはそこから移動し、自身の持つ拳銃を素早く構え、様々な方向へと射撃する。


それぞれの銃弾は、見事に魔物達の急所を捉え、本来であれば力不足であるはずの小型拳銃を物ともせずに絶命させていく。


闇の騎士の1人であったシュルトの教えが見事に発揮されている。



(でもやっぱり拳銃だけじゃ役に立てなそうだな。 気乗りはしないけど、あのお店に行くことがあったら新調しようかな。)



タイフは素早くリィヤのバリアの中へと戻ると、彼女にバリアを閉めてもらい、素早く拳銃へ弾を装填する。

一発ずつ上の排莢口から装填をする影響で、戦闘中においてはリィヤのバリアが必須である。



(……これも何か良い物があるのかな? ついでに探そうかな。)



タイフは装填を終わらせると、そんな事を考えながら素早く周囲を見渡す。


ナム達3人は危なげなく魔物達と戦闘をしており、自分とリィヤも2人であれば問題は無さそうだ。



「あと少しだから頑張ろう!」


「はい!」



その後、ナム達はそんなに時間を掛けずに魔物達を殲滅することに成功するのだった。





それからまたしばらく後、ナム達の視界の先に大きな町が見え始めた。


最早見慣れたその町、トラルヨークの巨大な防壁だ。



「んー、前より警備してる人が多い気がするわね。」



ミナはその優れた視力で、防壁上にいる人間達の人数を調べていたようだ。



「まぁ副司令が殺されたんだ。 厳重にもなるだろうよ。」


「そうだったな。 ケンジ副司令……知ってる人なだけに俺様はまだ信じられないよ。」



そんな事を話しながら、ナム達はトラルヨークに近付いていく。

その途中で防壁上の軍の人間達もナム達に気付いたのか、彼等が慌ただしく動き出すのも確認できた。

あの様子を見ると、ナム達を待っていたらしい。



「ダルゴさんが心配ですね。」


「かなり彼を信頼してたみたいだし……流石のあの人も辛いんじゃないかな。」



タイフとリィヤの2人は、理不尽のダルゴと呼ばれたあの豪胆な男を思い出していた。

部下を守るのが自分の仕事だと豪語していた彼だからこそ、簡単に想像出来てしまう。



「……ちっ、腑抜けてたら承知しねぇぞクソオヤジ。」



ナムのその吐き捨てるような言葉を最後に、彼等は軍の人間達に誘われるように町の中へと入っていったのだった。





それからはすぐだった。


トラルヨークに到着したナム達は、トラルヨーク軍基地周辺のとある場所へ連れていかれた。


その場所は非常に殺風景であり、目立つものと言えば地面に立てられた石碑のような物が沢山並べられている。


つまり、ここは墓地だ。


そのそれぞれの石碑の傍には軍の帽子、中には勲章のような物が置かれている墓もある。

新しい物や、野ざらしになったことによりボロボロになった物。

色々な姿をした帽子が並べられていた。


ここはどうやら軍専用の墓地らしい。



「来たか。」



その並んだ墓石の奥、墓地の敷地内でも特別に柵に囲われた一帯の場所に立つ墓石の前で、それを眺めるようにその男は立っていた。


真新しい墓石に、野ざらしによる劣化も一切見られない帽子。

そして、ダルゴが付けているのとほぼ同じの装飾のされた勲章。



墓石に掘られた名前には、ケンジの名前がハッキリと見てとれる。


既に弔いも全て終わった後なのだろうその光景に、ナム達はダルゴに声をかけられずにいた。



「ガジス。」



ダルゴの口から出たその短い単語を聞いたナム達だったが、彼等は誰1人それに反応出来なかった。

誰も返してこないのを確認したダルゴは、彼等がガジスという男を知らないと判断したようだった。



「姿を消す暗殺者、相当な凄腕だ。」



その言葉だけでナム達が、ケンジを葬った者がそれだということに確信を持つのは簡単であった。


ダルゴはナム達に背中を向けたまま、静かに語りだした。



「3日か、4日か、もう何日たったかも覚えとらん……だが奴は急に現れた。」



穏やかな声だった、一切声に張りがない静かな声だ。



「儂を狙っていた。 理由は知らん。 ケンジは奴と対峙した。」



ダルゴは呟くようにそれを言い終わると、顔を空に向ける。



「その結果がこれだ。」



ダルゴはゆっくりとその場から僅かに横にズレると、足元にある墓石へ視線を移す。


トラルヨーク軍副司令官であったケンジの墓石には一切の汚れもない。



「関係があるかは知らねぇが、俺達もノーラスで怪しい人物達に出会った。」


「闇の騎士とかいう11人だか10人だかの人間の組織という話だったな? 聞いておる。」



先に報告していたシモン司令官から聞いていたのだろう。

彼のその言葉は驚愕の様子もなく淡々としていた。



「お前達はそれを追っているのか?」


「……微妙だな、追ってるとは言えねぇが追ってないとも言えねぇ。 過去に因縁のあった存在との関係がありそうだが、関係してるとは断言出来ねぇからな。」



それを聞いたダルゴは、ナム達の方向にゆっくりと振り返る。

久しぶりに見たダルゴの表情は、その多い髭の強面に似つかない程にやつれていた。


しかし、そんな事に驚くより先に、ナム達は別の事で驚くことになってしまった。


目の前のダルゴが、突然頭に被っていた帽子を脱ぎ、その辺の地面に投げ捨てたのだ。



「何してやがる?」


「話は簡単だ。」



ダルゴ司令官は、投げ捨てた帽子など忘れたかのようにナム達に近付いてくる。

その様子を見ていたナムは、何処か呆れたような表情をしていた。




「儂を連れて行け、貴様らの旅にこのダルゴを連れて行くのだ!!」


「断る。」



一瞬だった。


仲間達が驚愕する中、一切の躊躇もなくナムはそう答えた。

何を言い出すか、分かっていたかのように。



「何故だ? 貴様らと行けばその闇の組織とやらと会える確率が上がる! 貴様らはこの儂の力を味方にできる!

悪いことはあるまい!」


「なんのメリットもねぇよ。 お前を連れていくことに対してな。」



ナムは1歩も引かない。


後ろで恐らくリィヤがナムを説得しようと動こうとした気配を感じた。

しかし、それはトウヤに止められている。


ナムの思惑を、恐らくミナとトウヤは何となく察しているのかもしれない。



「なんだと……?」



ダルゴの表情は怒りに染まっていく。


以前にマッド・ウルフとの戦い前に起こしたいざこざ等比較にならない程に険悪な雰囲気だ。


そんなダルゴ相手に、ナムは追い打ちをかけるように続けた。




「やっぱり腑抜けてやがったな、ダルゴ。 てめぇみたいな雑魚は要らねぇよ。」




ナムはそう言うと、懐から1つのブレスレットを取りだした。

以前も使った、4つめの筋力低下のブレスレットだ。

ナムは、そのブレスレットを腕に装着する。


みるみる彼の筋力は落ちていき、多少鍛えている程度の人間の体格にまで変わっていた。


そのブレスレットは、人間を遥かに超えた強さを持つ三武家にとって、仕方なく人間と相対する際に装着されるものだ。



「ナム……何してんのよ。」


「そんなの取り出してどうする気だ!?」



後ろから聞こえてくる言葉にすら、ナムは一切答えない。


そのまま彼は墓地の中をゆっくりと移動し、この柵に囲われた特別な敷地内の、まだ墓石が立っていない広々とした空間に陣取る。


ダルゴはそこでようやく彼の意図に気付いたのか、表情を強ばらせながら、同じように広い敷地の場所に移動する。



「誰が腑抜けておると?」


「お前以外居ねぇだろうが。 今のお前だったら、この軍の誰か適当に声掛けた方がまだ役に立つだろうよ。」



その言葉を聞いたダルゴは、更に強い怒りを滲ませる。


黙って聞いていたタイフとリィヤも、この異質な空気の前に動けないでいた。



「来いよ。 俺達の仲間になれると思ってんなら、示してみやがれ。」


「吠え面かくなよ!!」



トラルヨーク軍の墓地内で、2人の男が対峙する。

戦死した過去の軍人達の眠るこの場所で。


心配そうに見守るミナ達の前で、それは始まろうとしていた。

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