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ブレイカー  作者: フィール
3章
139/156

3章:人狼捜索 1

「たしかに聞こえたけど……何処からだったか迄は覚えてないなぁ。」



仲間達と合流して5人となったナム達は、とりあえず近場にいた女性に話しかけていた。

昨夜聞こえたという狼の遠吠え。


それの出処を知るために。



「あら、まぁ仕方ないわね、ありがとう。」


「いえ……あまり力になれず、ごめんね。」



ナム達が聞き込みのために話しかけた気さくな女性は、ミナにそう言ってから離れていった。



「夜中だからなぁ……そりゃ聞いても覚えてないだろうな。」



トウヤは溜息をしながらそうボヤく。

彼の言うとおり、遠吠えがした時間帯は普通の人間なら眠りについている時間帯だ。

眠りの深い人間であれば、その遠吠えに気付いていない可能性すらある。



「昔からこんなんだ、夜中に遠吠えするから聞いてる人間すら少ねぇ、そいつらの話聞いてもわかりゃしねぇ、んで特に被害もないから放置……それが基本だ。」


「なんとなく、ナムの言う通りな流れだった気もするわ……恒例行事みたいになってたかしら。」


「懐かしいね、そういえばそうだった。」



この町出身の3人は、思い出話に花を咲かせながら町中を散策している。

既にワーウルフの捜索に対し、あまり力を入れていないのがよく分かる雰囲気であった。


そもそもワーウルフという種族は実在するが、この町にいる確証はどこにもない。

幼少期に躾の為に聞かされるような与太話に対して本気になれというのは、彼らにとっては無理な話なのである。



「厄介なのは、あのシモン司令官が恐れている……ってところだよね、実績的にも無視出来ないのが。」


「う、タイフの言う通り……まぁ居ないだろうけど、必ずとは言えないのは確かだ。」



タイフの言葉を完全に否定できないトウヤは、流し目をナムに向ける。

トウヤの視線の先では、いつも通り眠そうに欠伸をしているナムの姿が映った。

仲間の中で最も魔物への知識がある彼の意見を聞こうとしたのだが、あの様子では完全にやる気がない。



「でも兄様……本当にこの町にワーウルフが居たとしたら、どうやって見つけるのでしょう? 銀髪の方というのは先程聞きましたが、候補が多すぎる気がします。」


「ん、んー……どうするべきかと言われると……すまん、俺様にもわからない。」



ナム達が移動している最中にも、町中で銀髪の人間は何人も見ている。

その全ての人間に食ってかかる訳にも行かず、ナム達にしては珍しく調査が全く進まないのだ。


そしてなにより、軍の人間が持っていた銀髪をもつ人間の紙のリストをナムが返却してしまっていた為に、既に候補から外れたリスト対象者すらわからないのだ。



「ねぇ、これ私達調査する意味ある? なーんにもわからないんだけど、ねぇナム?」


「あ? あー……すまねぇなーせめてメモ取っときゃ良かったぜー……これでいいかよ。」


「なんか心こもってなくてムカつくんだけど!」



実際心などこもってはいないだろう謝罪を聞いたミナは、ナムの頭に向けて拳を振るおうとする。

しかし、当然ながらナムには軽々と止められてしまい、ミナのストレスは更に増えるだけとなった。



「むぐぐ! 格闘技術()()は本当に全く適わないわね!?」


「だけとか言うんじゃねぇ!?」


「お互い武器使って勝てる? 魔法使える? 私は炎付与だけなら何とか出来るわよ。」


「……。」



ミナの言うことに反論できなくなったナムは、わざとらしく辺りを見回す。


生まれ持ち魔力を持たず、武器の使用を良しとしないブロウの跡取りであるナムでは、ミナとの武器同士の勝負は間違いなく一方的に負ける事がわかりきっているからだ。


彼女の言葉をそのまま返すと。

武器戦闘術()()は、ナムでは適わない。


勿論、面倒なことになるので言い返したりはしないが。



「ん、1人で歩いてる銀髪男がいるな……ちょっと聞いてみるか?」



話を変えるようにその男に近付いたナムを、冷ややかな目で睨みつけたミナも彼に続いて近付いていく。

他の仲間達も苦笑いをしながら後に続いていく。


そんな5人が近付いてくるのを見た銀髪の細身の男は、そんな彼らを訝しげに見つめている、当然だろう。



「えっと……なにか?」


「あ、あー……いや、この町の恒例の件でも聞こうかと思ってよ、狼の。」



ナムがそこまで話した途端に、その銀髪の男は大きな声でため息を吐き始めた。

あまりに露骨なため息のせいで。おもわずナムの発言が止まるくらいには。



「どうした?」


「いや……わかるよな? またかって感じだよ。」



露骨に嫌な顔をする銀髪の男の姿を見たナム達は、内心で彼に同情した。


この町に住む都合上、銀髪と言うだけで数え切れないほどの尋問をされているのだろう。



「悪いわね、一応あの司令官から頼まれちゃってるから……貴方は?」


「おや、あの司令官から頼まれるってことは……まさか君達が……? おっと、申し訳ない。

オレはタゲン……一応今回の遠吠えの件では対象外になった男だよ。 今回はね。」



タゲンと名乗ったこの銀髪の男は、自嘲気味に最後の言葉を発する。

今回は、ということは、他の件では容疑者になったりもするのだろう。

その表情からは最早諦めのような空気すら感じ取れる。



「リスト外なんだな、申し訳ないね。」


「いや、構わない……もう慣れたよ。」



タゲンは再び自嘲気味に笑い、そのままナム達に目線を合わせると、何かを思い出したかのように顎に手を置いた。



「オレはリスト外だけど、知り合いに2人ほど銀髪の人がいるよ。 まあ、まだ子供だけど。」


「子供……もしかしてその方はセラルさんだったり?」



リィヤからの質問に対し、タゲンは訝しげに表情を変え、しばらくした後にその手を横に振るい、その質問に対して無言で否定を示した。



「すまないけど、そのセラルとかいう子供は知らないなぁ。 よし、ここで会ったのも何かの縁って事で、その2人の元に案内してあげるよ。」



そう言ったタゲンは、素早く身を翻して歩き出した。

有無を言わさぬ行動ではあったが、間違いなく着いてこいと言っているのだろう。


ナム達は1度顔を見合わせたが、誰からでもなく自然とタゲンについていく。



「オレにとっては可愛い弟、妹分みたいなものでな。 紹介はするけど、間違いなく人間だぞ!?」


「俺様達も全員を疑ってるわけじゃない、安心してくれ。」



トウヤの言葉を聞いたタゲンは、彼らのその言葉に嘘がないことを悟ったのか、一気に機嫌が良くなったように軽快に歩きだす。

余程その2人を大切に思っているのだろうことが見て取れた。


それから数分後。

元いた場所からそこまで距離自体は離れていない場所。

そこにタゲンが立ち止まる。

足を止めたタゲンと同様に、ナム達もその場所で足を止めた。



「ほら、ここだよ。」



タゲンが指を差した家は、お世辞にも綺麗とは言えないものであり、建物の壁は勿論のこと、窓ガラス等にも傷や破損が見受けられる。



「ナムの住んでる家と良い勝負だな。」


「あぁ、中々なオンボロだ……っておいコラトウヤ!? なんでそこで引き合いに出した?」


「ナムの家、懐かしく感じるわね、たしかにこんな感じでボロボロだった気がするわ。」



2人からの自宅への暴言に対して額に青筋を浮かべたナムだったが、ギリギリでその2人を無視し、タゲンに話しかける。



「この中に住んでるのか?」


「あぁ、両親とも亡くなっちゃって今は姉弟2人だけどな。」


「そんな……なんというか。」



悲しげに言葉を発したリィヤに対し、タゲンは軽快に笑い飛ばす。



「既に切り替えて生活してるから問題ないよ、お嬢ちゃんも普通に接してやってくれ。 さて、呼ぶか。」



タゲンが扉に近付き、続いてノックをした。



「おーい、ムン、ホシ! タゲン兄ちゃんが来たぞー!」



その呼び声と共に、家の中からは大きな慌てるような2人分の足音が鳴り響き、予想より早い速度で扉が開こうとする音がするが、扉は開かない。

鍵を開け忘れたのか、何度かドアノブを動かした後に、解錠の音ともにようやく扉が開く。



「おー! タゲン兄ちゃんようこ……ん? この人達は誰?」


「……わわ!?」



耳元位の長さの銀髪を持った明るく元気な15歳くらいの女の子と、その後ろに素早く隠れるように移動した同じ位の長さの銀髪を持つ10歳くらいの男の子。

性格が対称的な2人ではあるが、よく見ると顔もそこまでは似ていない。



「紹介しよう、このお転婆が姉のムン。 この恥ずかしがり屋さんが弟のホシだ。」


「んー? タゲン兄ちゃんの知り合いか? なら悪い人じゃないか! ウチがムンだよ! ほらホシも前出て。」


「わわわ! いきなり引っ張らないでよムン姉……ど、どうも……えっと……ホシです。」



自己紹介をした姉弟は、辺りを素早く見回し、何かを見つけると顔を驚かせた。



「ささ! タゲン兄ちゃんと愉快な5人組さん達! こんな所で話すのもあれだから中入ってよ!」


「なぁにが愉快なだ!?」


「いいからいいから!」



思わず突っ込んだナムの言葉を制するように、ムンはほぼ強引に家の中へと引き込もうとする。

ホシに至っては恥ずかしがり屋のせいか、ムンの言葉を聞いた途端に素早く隠れるように家の中に入ってしまう。


ムンの突然の強引な行動に驚いたタイフは、1度振り返って町中を見回す。


タイフの視界に映った光景は、町人の行き交う姿と、そんな彼らに質問をしている1人の軍人だけだった。



(ん? 特に変なものは無い……おっと!?)



タイフは町中を見回している最中に、力強く引っ張られ。

家の中へと引き込まれてしまった。

ムンの力は意外に強く、不意打ちされると抗えない。


全員が家の中に入ると共に、ムンは家の扉の鍵を素早く閉め、そのままの足で台所へと向かった。



「いらっしゃーい! なんか飲む? とは言っても水くらいしか出せないけど。」


「あら、わざわざどうも。」



ムンはミナの返答を待つ前に、既にコップの中に水を注ぎ始めていた。

5人分の水を注ぎ終わると共に、ムンは慌てて辺りを見回し始める。



「いっけない! コップ5個しかないや!? えーと……あ! そこの体の大きい兄ちゃん沢山飲みそうだからお風呂の桶でいい?」


「コップの代わりとしてはデカすぎるだろ!?」


「ちょっと待っててね!」



ナムの突っ込みを聞いているのかいないのか、ムンは素早く風呂のあるであろう部屋に入ると、迷うことなく桶を持ってきた。


それを素早く食器用の洗剤で洗い、水を桶に注ぎ込み始め、溜まった桶をナムの前に置いた。

本当にやるとは、とでも言いたげな表情のナムの目の前で、桶の中の水は無機質に揺れ動いていた。



「な、中々面白い方ですね、ムンさん。」



リィヤにしては珍しく、笑いを堪えるよう肩を震わせている。

他の仲間達も同様であり、タゲンですら口元に手を置いて笑いを堪えている。

唯一、ナムだけは無表情で目の前の桶の中で揺れ動く水をまじまじと見つめているが。



「さて、この人達がウチらになんの用なの? 一切面識ないんだけど。」


「ぼ、ぼくも会ったことないよ……タゲ兄。」



2人からの質問に対し、タゲンは無言で指を自らの髪に向ける。


それを見た2人は、タゲンの時と同様に面倒そうな表情に変わる。



「あー、軍の刺客って訳ねー。」


「とんでもなく誤解をしてそうな物言いだな……俺様達も正直巻き込まれただけなんだ、許してくれ。」


「う、うん……軍の人達とは空気が違うもん、ぼくは気にしてないよ。」



訝しげな目線を向けるムンと、おどおどしながらも割りと好意的なホシ。

この僅かな時間の反応でも、2人の性格の違いが良く現れている。



「ま、ご覧の通りだ。 2人は今回の件には関係ないとオレは思うけど、一応紹介だけな。」


「助かるわ。 タゲンさんの知ってる銀髪持ちの人はこの子達だけかしら。」



ミナにそう質問されたタゲンは、顎に手を置いて少し悩んだ末に手を横に振って否定の意思を示した。

そんなやり取りの中、おどおどしているホシが小さく手を挙げる。



「ぼ、ぼく達に良くしてくれるお姉さんが銀髪だよ。」


「ホシ! わざわざ言わなくてもいいのに。」


「だ、だって……この人達はそんな悪い人じゃ無さそうだもん。」



ホシの軽はずみな発言に対して少し呆れた様子に見えたムンだったが、少し頭を押えて悩んだ末に顔を上げる。



「ま、ホシがそういうなら仕方ないかなー。 隠しても仕方ないし。

そうだよ、よく家に来てお世話してくれるイチカ姉ちゃんも長ーい綺麗な銀髪だよ!」


「うん、とてもいい人なんだ。」



ナム達は顔を見合わせ、恐る恐る2人に向かって声をかけた。



「その人、会える?」


「会えるよー、間違いなく今日も来てくれるよー! あと1時間位かな!

それまではのんびりしててもいいよ!」



ムンはそう言うと、ナムを除いた5人が飲んだ水を足していく。

ナムの目の前の桶にはまだなみなみ残っているが。



「大きな兄ちゃんも沢山飲んでよ!」


「マジで飲ませる気だったのか!?」



ナムの心中に、また新たな子供への苦手意識が増えた事は言うまでもない事だった。


シモン司令官からの無茶な依頼への調査はまだ終わらない。

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