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ブレイカー  作者: フィール
3章
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3章:人狼の影?

北の町、ノーラス。


そこに滞在しているナム達は、暗くなった町中を移動していた。


リィヤの証言により、セラルは聖魔術師でありながら通常の魔法を使用する可能性が出てきた。

そんなセラルに詳細を聞くべく、彼女の自宅に向かった彼らだったが、この時間になるまでとうとう出会うことは出来なかった。


時間も遅くなった為、訪問は1度諦めて帰路に就いている所だった。



「自宅に帰ってこないなんて……どこで何をしているのかしらねぇ。」



セラルの帰宅を待っている間に入店していた飲食店のメニューに満足したミナは、その言葉とは裏腹に笑顔であった。



「もし本当に彼女がそういう存在であるなら、どうやって彼女は生活しているんだろうな。」



トウヤの放った疑問の声に、詳細をまだ話せていないリィヤを除いて、ナム達は一斉に悩み始める。

今世紀の聖魔術師の生い立ちを考えると、彼女が無事にこの町に住んでいる理由も分からない。


良く考えれば、セラルはかなり不思議な存在だ。



「言われてみりゃ……確かになぁ。」


「わたくしは、そのお話をあまり知らないのですけど、何があったのでしょう?」



何も知らないリィヤの質問に、ナム達は同時に言葉を詰まらせる。

絶対に秘密にしなくてはいけない訳では無いが、セラルと仲の良かった彼女には、何となく話がしにくい状況でもあった。


今まで普通に話していた相手が、本来ならば消息不明の存在である可能性が高いなどと、うまく説明する自信がなかったのだ。



「あー、うん……ほら、彼女まだ幼いし……その、生活とかどうしてるんだろうなってさ。」



そこに、タイフが咄嗟の機転でそう答え、それに対してナムとミナ、そしてトウヤは内心で彼に対して賞賛の言葉を送る。



「そ、そうだよリィヤ、あの歳で一人暮らしだなんて。」


「確かに、それは心配ですね兄様!」



リィヤが純粋な子で助かったと、タイフに同調したトウヤは胸を撫で下ろす。


それと同時に、彼女に対しての隠し事がまた新しく増えてしまったことに、彼は胸を痛めていた。



(セラルの事は何処かで話してもいいが、問題はミリアの件だ……何とかリィヤに悟られないようにナム達に伝えられれば良いんだけど。)



リィヤの大親友である彼女が、闇の騎士と名乗る人間の組織の一員である。

そんな情報、彼女にはまだ言えるわけもなかった。


彼女と相対した時、捕え損ねた事を彼はまだ悔やんでいた。



「ま、まぁ……今まで生活してんだから問題ねぇだろ。 それより、今日はここで1回帰るとしようぜ。

そうだタイフ……また俺ん所来るか?」



彼らしく強引に話を変えたナムは、後ろを歩いていたタイフに背を向けたままでそんなことを聞いていた。


それを聞いたタイフは少し悩んだ後に答える。



「邪魔じゃなければまた泊まらせてもらおうかな?」


「おう、俺ん家はだーれも居ねぇからな。 決まりだな。」



ナムがそう答えると共に彼らのたどり着いた場所は、丁度それぞれの三武家本家に続いている分かれ道だった。


彼らは無言でそれぞれの道の方角に立つと、誰からと言うでもなく片手を上げ、簡単に束の間の別れを示した。



「また明日ね。」


「寝坊するなよ、ナム。」


「うるせぇよ。」



それだけの会話の後、機嫌良さそうに去るミナ。

ニヤニヤしながら去っていくトウヤと、1度お辞儀をしてから慌てて付いていくリィヤ


そんな3人を見送ったナムとタイフは、1度顔を見合わせてからブロウの本家へと向かった。



「明日はまたセラルの所?」


「あー、多分そうだろ。 気になる存在ではあるしな。」



帰路の途中で欠伸をしていたナムは、それだけ言うとまた無言で歩きだす。


夜も深くなったノーラスの町で、タイフは寒気を覚えており、そんな中で欠伸をするナムの強靭さに驚いていた。



「寒くないの?」


「あ? あー……俺は昔からあんまり寒さを感じたことはねぇんだよ。 親父なんかはちょいちょい凍えてたがな。」


「へぇ……体質的なものなのかな。」



その言葉を聞いたナムは、そうなのかもなぁ、と適当に答える。

そんな時、ふと彼が何かを思い出したような顔になると同時に、タイフの方へと向き直ってきた。



「そういや、体質で思い出したが。

タイフはワーウルフという魔物を知ってるか?」


「どうしたの急に、あまり知らないかな……夜になると何処からか遠吠えが聞こえた。 人間が急に狼型の魔物に変化して、とかそういう言い伝え的なのは聞いた事はあるけど。」



タイフの答えに、ナムは意地悪そうな顔で笑う。



「ワーウルフってのは、生まれつきのヒューマンと呼んでも良い存在でよ。 その特殊な生態からか繁殖率は決して高くねぇんだ。 かなり珍しい種族の魔物だぜ。」


「へぇ……で、それがどうしたの?」



ナムの口から発せられた魔物の情報と、体質という言葉が結びつかないタイフは、彼の急な会話の意図が掴めなかった。



「奴らも普段は人間の姿を取っているんだが、奴ら特有の特徴があってな。

クソ親父に聞いた話によると、ワーウルフの人間体は……銀髪を持っている特徴があるそうだ。」


「へぇ! 魔物によってそんな特徴がね……銀髪?」



タイフは、そこで頭の中に浮かんだ存在が居た。

今日の目的である存在だった。



「まさかセラルが?」



セラルも全体的に白いイメージをもつ存在だ。

髪の色も、肌の色も白い

そんな彼女を思い出したタイフだったが、そんな彼に対して意地悪な顔をしたナムは答える。



「そうかもしれねぇぞ?」


「え! それ本当?」



本気で驚くタイフに対して大声で笑い飛ばしたナム。

そんな彼の様子を見たタイフは、ナムにからかわれたと気付いた。


「なんてな……銀髪くらい普通にいる髪色だ、眉唾物の話でしかねぇよ。」


「怖がらせるなよ……ナムは時々変なことを。」



タイフが抗議の意思を含めた怒り顔をナムに向けたときだった。

ナムの意地悪な顔が更に濃くなったのは。



「ちなみにワーウルフは、極寒地を好む。 その言い伝えの発祥地も実はこの町だ。」



ナムの追加の情報を聞いたタイフは、その場で寒さ以外の要因で震え始める。

自分がたまたま知っていた言い伝えの発祥地がこのノーラスという事実に対して。



「それ本当?」


「あぁ、これは本当だ。 だから一応気を付けろ……まぁ、俺も本物は見たことは無いんだがな。」



ワーウルフという珍しい魔物の存在を知らされたタイフは、思わずその場で周囲の状況を確認してしまう。


ヒューマンに近いという事は、それ相応の強さを持つという事でもある。

こんな2人の時に出会ってしまえば、いくらナムでも厳しいだろう。



(ヒューマンの強さを、僕は嫌という程知り尽くしてる。

出来れば会いたくない……ん?)



恐怖からそんな事を思っていたタイフの頭の中に、1つ何かが引っ掛かる感じがした。

微かな断片から生まれた僅かな疑問。


それは小さな違和感からではあったが、とても無視出来ないものでもあった。



(おかしいな……何かが引っかかる。)



タイフの中に生まれた疑問を、何とか解決しようと頭の中で必死に思い出そうとするが、どうしても思い出せない。


タイフは記憶を必死に手繰り寄せようとしていた。

しかし、それのせいで眼前の注意が疎かになってしまった。

タイフは眼前の硬い体にぶつかってしまったのだ。



「お? どうしたタイフ。」


「あ、ごめん! 考え事してた。」


「おいおい、どんだけビビってんだよ。 着いたぞ。」



ナムの言葉に釣られて前の建物を確認すると、そこにはまだ見慣れぬ造形の屋敷が建っていた。


ブロウの本家である。


立派な塀と門をもつその建物は、タイフから見ると何処と無く厳かな雰囲気を持っていた。



「いつの間に着いてたんだ……?」


「相当怖がってたんだな、悪い悪い! ビビらせるつもりは無かった。 ほら、入れよ。」



謝りながらも何処か楽しげなナムの言葉通りに屋敷の塀の中へと入るタイフ。


それとほぼ同時位にナムが屋敷の鍵を取り出し、それを使って解錠した。


その時だった。



「ん?」



ナムは小さくそう発すると、勢いよく扉を開ける。


突然の動きに驚いたタイフは、彼の行動を訝しげに見ていた。

そんなタイフの視線に気付こともなく、ナムは家の玄関で辺りを見渡した。



「どうしたの?」


「いや、なんか物音がよ……あ?」



そんな事を言ったナムの視界の先に、辛うじて見えた存在がいた。


小さな長い尻尾を持った小動物が慌てて逃げ去る姿を。



「……ちっ、家の掃除を誰もしねぇからネズミが住み着いてんのか。」


「誰も基本住んでないんだもんね? ミナさんがここに来たら発狂するね。」



ミナが以前ボロ宿で起こした騒動を思い出したナムは、彼女がこの屋敷で暴れ回る光景を想像してしまい、本気で嫌そうな顔をする。



「ま、仕方ねぇ。」



そう言ったナムは、ネズミがいた事など気にもせずに家の中へと入る。

タイフも少し辺りを気にしながら家の中へと入った。


ミナほど苦手な訳では無いが、ネズミは居て気持ちの良いものではない。



「ま、気にすんな! 刺激しなきゃ変なことはしてこねぇよ。 多分な。」


「時々ナムのその豪胆さは恐れ入るよ。 ガイムさんの部屋に居ないといいけど。」



ナムとタイフの2人は、そのまま屋敷のそれぞれの部屋に向かい、それぞれ就寝する。


2度目からかガイムの部屋での緊張感は緩和していたが、それとは別の要因で再びタイフの寝付きは悪かったのだが、それはまた別の話である。





ノーラス軍基地。


その執務室で、シモン司令官は遅い時間でありながら職務をこなしていた。


魔弾のシュルトによって1部破壊された机を軽く補修して使い続けており、その机の上には書類の山が乗っている。


常に周りの物音にビクビクしながら仕事をする彼は、実はそこまで職務の速度は早くは無い。


戦場の隠れた脅威を見つける程の小心者が故に、雑務は得意では無い。



「お、お、終わらない。」



そんな事をボヤきながら、部屋に敷かれた布団をまるで初恋の相手のように切なそうに見つめるシモンは、大きな溜め息をつく。


軍の人間達が帰宅、または基地内で寝静まるこのタイミング。

それこそがシモンの絶好の働く時間なのだ。


何せ物音がしない。



「だ、だ、ダルゴの奴は大丈夫なのか? なんかぼくちん嫌な予感がするんだ。」



ダルゴに対して自分の基地を襲撃したのがエストの怪異では無いことを知らせた後、絶え間なく押し寄せる不安感を覚えていた彼は、いつも以上に仕事が進まなかった。


こんなことは初めてだ、と思ったシモンだったが、良く考えれば普段から物音に驚きすぎた日なんかはこんなものだったと思い直す。


着任当初は舐められたものだ。

この小心者な性格の故に、部下から司令官の器があるのかと陰口を叩かれる毎日だった。


最近こそ、自分の言うことを部下達は聞いてくれるようになったどころか、どことなく信奉心のようなものまで感じているシモンだが、昔は本当に大変だった。



(大体、部下達は危機感が無さすぎる!

今この時だって突然爆弾で基地が吹っ飛ぶかもしれない! 突然ヒューマンが襲撃してくるかもしれない! エストの怪異が押し寄せるかもしれない! あぁ、怖い怖い!)



シモンがそうやって勝手に身震いをしたせいか、書類に書き込んだ文字が歪な物になり、彼は慌てて横戦を2本引いて訂正する。

その横線も相当に歪だが、それに対しては黙認した。



(全く……誰かぼくちんを、夜通し守ってくれる気概のある部下は居ないのか!)



場合によっては理不尽のダルゴと呼ばれる彼よりも理不尽な事を思いながら、彼は何とか書類にしっかりとした文字を書き込んでいく。


その後、しばらくした後に数枚の書類の処理を終わらせた彼は、1度大きく伸びをする。


しかし彼は、そのタイミングで大慌てで机の下に隠れると、再び震えだす。


突然のその行動を取った原因は、外から聞こえた狼の遠吠えのようなものを聞いたからであった。



「と、と、遠吠え!? 今は夜! ワーウルフだ! ワーウルフだ! うわぁ!?」



過去最高の体の震えを記録したと同時に、彼は机の下に用意してある電話を勢いよく取ると、その場で部下のいる宿舎に向かってコールを鳴らし始める。


かなりの時間コールしたお陰か、ようやく部下の1人が電話を取ったのだろう、眠そうな声の部下からの返答があった。



『ふわぁ、なんですかシモン司令官……また物音ですか?』


「ば、ば、ばかもの! 外から狼の遠吠えが聞こえた! 部下を起こして警戒しろぉ!」



電話の先の部下は、慣れた様子でお待ちを、と一言だけ言い、電話をそばに置いて部下に起こしに行くような素振りを感じた。


寝具の擦れるような音が連続で鳴り響くと共に、不満そうな部下達の呻くような声も聞こえてくる。



「は、は、早くしろ! ワーウルフが攻めてきたらどうする!

そ、そ、そうだ! 奴らも呼べ! 三武家だ!」


『そんな無茶な!?』



電話の向こうから聞こえた声に、シモンは苛立ちを隠せないように再び大声で叫ぶ。



「い、い、良いから早く……! っとちょっとまて。」



大声からの突然の冷静な言葉に、この事態に慣れているであろう部下ですら訝しげに思うような空気が向こうから漏れ出てきていた。


シモンは、しばらく悩んだ末にひとつの指示を出す。



「む、む、無理矢理起こした三武家に襲撃されるかもしれないから、やはり呼ぶのは明日だ!

け、け、警戒だけしておけ!」



シモンはそう言うと、電話を切る。



(危なかった、奴ら全員を敵に回したらワーウルフより恐ろしい。)



そんな斜め上の発想をしたシモンは、それに対して再び体を震わせ、机の横のスイッチを押し込む。


天井から音を立てて降りてきた実銃版の機関銃を確認すると、彼は素早くそれを手に取り、扉の向こうへと銃口を向けた。



「く、く、来るならこい!?」



その日の夜、彼はその姿勢のまま何も無く夜を明かすことになるのだが。

それも別の話である。

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