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ブレイカー  作者: フィール
3章
133/156

3章:合わさる情報

謎の敵からの襲撃を受けたノーラス軍基地。

その戦いから数時間が経った頃。

その内部の最も奥地に存在する執務室に全員集まったナム達は、シモン司令官へと戦いの顛末を報告していた。



「俺の出会った……と言って良いかはわからねぇが、見た敵は、まるで、女ちいせぇガキのようだったぜ、背中に羽が生えてるように見えた。

魔法が得意なんてレベルじゃなかった、相当な腕前だ。」



基地内部で追跡した敵存在の情報をシモンに話したナムは、そのままその顔をリィヤへと向ける。



「リィヤ、お前はセラルとずっと一緒にいたんだよな?」


「え、はい! セラルさんとは、ずっと一緒でした! でも、それがどうしました?」



リィヤからのその情報を聞いたナムは、驚いたように目を見開いた後に、どことなく安心した表情に変わる。

リィヤは、ナムのその表情変化に戸惑うだけだった。



「そうか、ならいいんだ。」



ナムはそれだけ言うと、隣にいるタイフへと視線を移す。

彼の体には、至る所に包帯が巻かれていた。


タイフが基地に戻ってきた時には、体に3発もの銃創を負った状態で現れた。

しかし、どれも急所は避けていたので、簡易的な治療を施して今に至る。



「僕か、えーと……この部屋に銃撃してきた犯人は、前に会ったシュルトという男だった。」



その名を聞いたナムとミナの2人は、それぞれ驚きの表情を向ける。

しかしナムの方は、少しは予想していたのかそこまで大袈裟ではなかったが。



「シュルト?」


「初めて聞きました。」



そんな2人に対して全く知らないとばかりに反応する、少し力なく椅子に座った状態のトウヤと、そんなトウヤの隣に立つリィヤだ。



「そういえば、2人はあの時会ってなかったわね?

シュルトさんというのが、タイフさんがずっと銃を教わってた人よ。 しかし、驚きね……まさかあの人が犯人の1人だなんて。」


「それだけじゃないよ、シュルトは……まるでベルアのような力を持っていた。 体の一部を変化させてきた。

それに、気になる情報も。」



タイフを除いた仲間達と、静かに聞いていたシモンは、タイフの言葉を待った。

既に聞き返したい情報はあるものの、これを超える情報があることは、タイフの口ぶりからすると明確だ。



「彼らの所属する組織は、全員人間、そして人数は10人

それと……組織の名前は闇の騎士って名乗ってた。

全部シュルトから聞き出した。」


「全員……人間だぁ?」



信じられないと言った様子のナムは、訝しげにそう呟く。

しかしそんなナムの疑念も、続いての発言で消え失せることとなる。



「いや……それは確かかもしれない。

詳しくは言えないが、俺様はそれを裏付け出来る。」



トウヤはそう言うと、誰にも気付かれないように、視線をリィヤへと移す。


結局トウヤは、ミリアのことをリィヤに話せていなかった。

彼女を捕らえることが出来ていれば、彼女に伝えることも可能だったが、本人が居ない今ではただ彼女を混乱させるだけだ。



「……そうか、まぁお前が言うならそうなんだろうぜ、だがそうなると……俺はもう1つ気になる。」


「その謎の力について、かな? それに関してはシュルトからも聞き出すことは出来なかったよ。」



申し訳なさそうなタイフの様子を見たナムは、問題ないと言わんばかりに片手を振る。

そして、顎に手を当て思案する。



「体の一部を変化させる……タイフの奴はどんな力だった?」


「まるでコウモリみたいだった。 超音波を使って、壁越しに僕の位置を全て把握していたよ。」


「トウヤは?」


「み……最初の敵は、単純なパワーアップのように見えた。 次のキーダと名乗った男は、体中に鱗のような物があった。 そいつに魔法は通用しなかった。」



それらを聞いたナムは、過去に戦った1人の男を思い出していた。

その敵と同じ力を持った、因縁の敵を。



「ベルアの奴は、異常な回復力と鋭利な爪だったな。」


「まさか? 同じ組織だと思ってるわけ?」


「逆にここまで共通点あって別の組織なんて有り得るのかよ。 何か……理由があって離反してたんだろ。 奴を殺したのもその闇の騎士とかいう奴の1人だったって話なら、筋は通る。」



ベルアも闇の騎士の1人だった。

そう予測したナムの意見を、仲間達は不思議と無視する事は出来なかった。


彼との戦闘時に、ナム達との戦いはオマケのように言っていたこと。

そして以前ナムが訝しんでいた、ベルアが何かと戦う為に戦力を集めていたように見えたこと。


その全てが、ナムの予測を裏付けていた。



「問題は……目的が全く見えねぇことだな。 なにが狙いなんだ?」


「わからないわね……軍の司令官を狙っているみたいだけど。」



ミナの言葉を聞いたシモンは、彼らの視界の端でものの見事に震え始める。


自分が狙われているという現実に恐怖でもしたのだろう。



「今はなんにしてもわからねぇな……それより、トウヤとタイフの傷を癒さねぇと。 またしばらく足止めか。」



そう呟いたナムに対して、目を輝かせたリィヤは静かに手を挙げる。

今回の戦いに参加していない彼女が発言する等珍しいこともある、と思いながらも義兄であるトウヤが反応した。



「どうしたんだ、リィヤ。」


「傷のことなら、1人凄い人が居ますよ!」


「へぇ、腕の良い医者か?」



トウヤからの発言に対し、首を横に振ったリィヤと、そんな彼女の返答に訝しむトウヤ。



「ほら、セラルさんですよ! 道端で転んでしまった、わたくしの傷を治癒の力で癒してくれました!」


「道端で転んだのか!? 気を付けてくれよリィヤ……ん、なんだって?」



リィヤの放った言葉に、トウヤは一瞬遅れて。

そしてすかさず席を立って驚いたのがシモンだった。


そんな2人の予想外の反応に、リィヤは2人へと視線をウロウロさせる。


そればかりか、タイフを除いて他の2人も驚いている。



「り、リィヤ……? 今なんと言った? 治癒の力?」


「は、はい。」


「薬とかで治療した訳じゃなくて?」


「はい、わたくしに傷跡が残っていないのが証拠になると思います!」



そう言ってリィヤは、自ら自身の足元を見せる。

転倒して怪我をした割には、確かに足は綺麗すぎる。



「そ、そうか……いい事を教えてくれたな! でかしたぞリィヤ!」


「あ、はい!」



トウヤに褒められ、本当に嬉しそうに微笑むリィヤ。

そんな彼女にトウヤも微笑み、そしてリィヤを除いたナム達とシモンに合図を送る。


その合図を見たシモンは、冷や汗を流したままではあったが、部屋の中に待機していた部下に合図を送った。



「リィヤさん、少しお話が。」


「え、はい! 良いですけど……。」


「ではこちらに。」



シモンから合図を送られた部下は、リィヤを連れ出して部屋から出ていく。


この部屋からリィヤがいなくなったのを見計らうと、残った5人は素早く身を近付けた。



「おい、なにが問題なんだトウヤ……わざわざリィヤを外させてまで。 普通に聖魔術師が見つかっただけじゃねぇのか?」


「おいおい、忘れたのか? 聖魔術師ってのは……100年に1人産まれるかどうかと言われている、特殊な魔力持ちの人間だ。

魔術師は聖魔法を使えないが、聖魔術師は逆に普通の魔法を使えないんだ。」


「あぁ……そういえばそう……おい待て?」


「そうよ、そうなると変だわ!」



ナム達の驚いた部分と、シモンの驚いた場所は違うのか、シモンは少し拍子抜けしたような表情で彼らを見つめていた。



「セラルは、ホーネットの森で、普通の魔法を使っていた……俺様も使える魔法だ。 これはどういう意味か?」


「トウヤは魔術師だ、つまり。」


「セラルさんが聖魔術師なら……使える訳がないわね。」



そこまで言い合った彼らは、そこで頭を抱えてしまう。


ナム達にとっては当たり前の情報だったが、リィヤは知らなかったのかもしれない。

だからこそ、その場で彼女に問いただすことが出来なかったのだ。



「どうなってやがる?」



ナムの口から思わず出た言葉の後、黙って聞いていたシモンが発言しようと口を開けたが、それを再びトウヤに遮られる。



「それに、おかしい事はもう1つある。

ナムは……知らないだろうが、ミナさんは知ってるよな?」


「えぇ、現代の聖魔術師は……確か行方不明の筈よ!」



トウヤとミナの発言を聞いたナムは、大きく目を見開く。



「どういうことだ?」


「いや、ナム……それは僕でも知ってたよ?

確か、ある両親が、自分の娘が聖魔術師だったって世間に報告して、それから僅か数日で両親は何者かに殺され、娘は行方不明。 だったよね、2人とも。」


「ええ、こういう時はナムは役に立たないんだから。」



ミナにそう言われ、ナムは額に青筋を浮かべながらも、反論できる内容では無いために口を閉じた。


しかしナムは、1つの可能性を思い出すと、指を鳴らして発言をした。



「双子は? 片方が聖魔術師、もう片方が魔術師なら問題ねぇだろ。」


「はぁー。」



自信満々にそう答えたナムに対して、ミナは露骨にため息を吐く。



「知らないなら変なこと言わないで、その聖魔術師は一人娘よ!

両親がそう報告したんだから間違いないわ。」


「……お、おう、そうか。」



ミナから本気で呆れられ、ナムは冷や汗を流しながらそっぽを向いた。

世間の情勢に興味が無い彼にとって、こういう話題はついていけないのだ。



「さてそんなことより、次に会うべき存在が確定したわね。」


「セラルだな。 俺様もそう思ってた。」


「家も覚えてるし、丁度いいね。」



この先の方向性を決める3人を横目に、ナムがふと視線を動かすと、口を魚のように動かすシモンに気付く。



「どうした?」


「い、い、いや……ぼくちんもその行方不明知ってた。

い、い、言おうとした。」


「お、おう……元気だせ?」



何故か少し落ち込み気味な彼に対し、ナムは心の中で憐れむのであった。





すっかり夜になったノーラスの町中。

そこを歩く一人の少女がいた。



(すっかり遅くなってしまいましたわ……結局会えませんでしたし。)



夜になり、更に雪が強くなった町中をセラルは歩く。

自分の住む家を目指して。



「冷えますわね……早く自宅へ。」



セラルは体を震わせながら、移動を続ける。

今は震える体も、後で必ず暖まる。


仲間達にある情報を教えられていたセラルは、それだけを楽しみに帰宅していた。


そんな楽しみな気持ちだったからか、セラルは割と早めに自宅の前へと辿り着いていた。



「心配。」



セラルは、素早く自宅の塀の門を開け、自宅の玄関を開け放つ。

そして、自宅の奥の部屋の明かりが灯っているのを確認したセラルは、大きく胸をなでおろした。



「今帰りましたわ!」



とても陽気な声で、セラルは叫ぶ。

そして、それに反応するかのように、家の奥から1人の人間が飛び出てくる。


長い白髪を持ち、レースをふんだんに使った白い服。

そして、人形のように白い肌を持つ、1()0()()()()()()()だった。


その少女は、セラルと全く同じ見た目を持っていた。



「朝以来ですわね、ようやく会えましたわ!」


「うん! ワタシも寂しかったよ!」



2人はそう言い合うと、どちらかともなく近寄って抱き合い、そして長い口付けをした。

そのまま何分か過ぎた頃に、ようやく唇を離した2人は、再び2人で抱き合う。



「心配しましたわ……怪我をしたのかと。」


「ごめんね、勝手に使っちゃった。」


「良いんです! 貴方が無事なら!」



セラルは、その言葉ともに何かを思い出し、その少女の体をぺたぺたと触り始める。

どことなく顔が赤らんでいるのは気の所為だろう。



「火傷を?」


「す、少しね……今日追いかけられた人に。」



その少女の言葉を待たずにセラルは小声で魔法名を呟くと、その少女の火傷は一瞬で治療された。


それからも執拗にその少女の体を触診し続けた彼女は、名残惜しそうにそれを辞めると、再び抱きしめる。



「誰が……誰がワタクシの大切な貴方にこんな傷を!?」


「あ、あー……実はワタシも良くは見えてないんだよね……でも体は大きかったよ……ほら、あの人見たいに。」


その少女は抱きしめられながらも、右の人差し指である男の姿をなぞる。


少女がこの町に来るまでに共に旅をし、その夜からはセラルも間違いなく会っているであろう人物を。



「あの男が……!」


「ほらほら、ダメだよセラル! 今はまだ、ね?」


「……貴方がそう言うなら仕方ありませんわ。」


一先ず怒りを抑えてくれたセラルを見た少女は、セラルを抱き返しながら安堵する。



「折角ワタシ達の世界をくれたんだから、少しは協力しないとねー」


「ええ、わかっていますわ……ワタクシ達の世界がある限りは、協力も惜しみませんわ。 その代わり。」




2人は無邪気に笑い合い、その笑顔を邪悪に染める。



「「邪魔をするなら殺す。」」



「ワタクシはあなたさえいればいい。」


「ワタシも……()()()()()がいればいい。」


「「他には何も要らない。」」



2人はそう言うと、抱きしめていた力を弱め、少しだけ離れる。

しかし、お互いの両手はまだお互いの肩に置かれたままだ。



「愛してますわ、()()()。」


「愛してるよ、()()()。」



2人はそう言って再び抱き合い。移動し、そのままベッドへと2人して倒れ込んだのだった。

予想していた人もいるかもですね

二鏡は双子でした。

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