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ブレイカー  作者: フィール
1章
13/156

1章:お尋ね者

日が変わる直前。

トウヤの炎属性、下位魔法<トーチ>の明かりが無ければ周囲が見えないレベルの暗闇が世界を覆う時間に、ナム達は<ファス>の村へたどり着いた。


本来はもっと早く到着する予定だったのだが、ナムが寝坊し町から出発したのが昼後になったことがこんな時間に到着してしまう原因となった。



「思いっきり夜になったじゃないの!!」



ミナの雄叫びが村の入口付近で木霊する。

本来であればこんな時間にそんな大声を出すのは咎められるべきだが、こうなった原因が彼女に無いことを考えると、その気持ちも推し量れるかもしれない。



「うっせぇーな、迷惑だろ。」

「誰のせいよ誰の!!」



ナムとミナは最早恒例の言い合いを開始していた。



「村って割には建物とかしっかりしてるな、どの家もナムの家より頑丈そうだ。」



そんな2人を無視して自身が発動しているトーチの範囲を拡大して村を眺めるトウヤ。


村と言われてる割には家はコンクリート等で作られた頑丈なものが多い。

木の家もあるにはあるが、色合いも綺麗でお洒落を目的とした意味合いが大きい。


代わりに村の明かりは、小さな電灯が大きな通りにまばらにあるだけであり、家の間の裏道には電灯はなく、真っ暗である。


後ろから聞こえる言い合いの声を確認して、まだ終わらなそうだと判断したトウヤはぐるりと村を見渡し、ひときわお洒落な建物を発見する。

近くに寄って看板を確認したら宿屋<のんびり亭>と書かれていた。



「見つけた……おーい!2人ともそんな所で言い合ってないで早く休もうぜ。」



トウやの声を確認したナムとミナは、お互いを睨み合いながらものんびり亭の近くまで歩いてきた。



「トウやの言う通りだな、さっさと寝るぞっと。」

「こんな時間まで受付してんのかしら、ちょっと心配ね。」



宿屋の窓からは明かりが漏れ出ており、扉に鍵も掛かってはいないようだ。

3人は恐る恐る扉を開けると、宿屋のカウンターに60歳は越えてそうな男が半分眠りこけながらも座っていた。



「主人……かしら、寝てるわね。」

「おいおい、不用心だなぁ。」



そんなことを言ってるミナとトウヤの間からナムが無言でカウンターまで歩き出す。


そしてカウンターを掌でバンバン叩くと、主人であろう男は驚いたように跳ね起きる。



「フガッ……!?おお!?こんな時間に見知らぬ顔が来おったわい。」

「とりあえず1泊してぇんだが、部屋空いてっか?」



主人はちょっと待て、の言葉の後にリストのような書類をしばらく眺めると静かに頷いた。




「うむ、全部屋空いとるぞ。」



「なんで確認した今!?」



主人はバツが悪そうに頭を掻きながら苦笑する。



「なんかこう、人気な宿屋な感じを出したくてな。」

「そ……そうか、んで1泊幾らだ?」

「1部屋2000エンじゃな。」



主人はそう言ってナム達を流し見る。

そこに居た唯一の女性を確認した主人。



「2部屋で4000エンじゃ。」

「いーや1人1部屋6000エンだ、ほらよ。」



ナムは強盗を捕縛した時に貰った報酬300万エンから6000エンを払おうとする。




「まてよナム、俺様のことを忘れてないか?」



トウヤはカウンターの近くまで来ると、どこかドヤ顔で財布からカードを取り出す。



「マネーデルカードだ!つい最近銀行の奴らが開発したものでな!現金がなくても俺様の口座から代金を払えるスグレモノだぜ!」



トウヤはそう説明すると更にドヤ顔でカウンターにそのカードを置いた。


ナムはそういやマギスは魔道具なんかを開発して売ってるお陰で金持ちの家系だったなと思い、得したと言わんばかりに財布をしまおうとする。


主人は置かれたカードを意味深げに眺めて、ほう……と呟く。

そしてトウヤに笑顔を向けた。


そしてトウヤもふふん、と言う言葉が似合いそうな笑顔を主人に向ける。





「なんじゃこれ。」



その言葉にトウヤがカウンターに頭をぶつける音がする。


トウヤは開発されたばかりでまだ1部の大きな町、しかもその中でも更に1部の大店舗位でしか通用せず、しかもそこの店員ですら首を傾げるレベルの知名度しかない事を知らなかったらしい。


トウヤの身の回りの世話は戦闘以外はあのボディーガード達がしていたので本人はその辺の知識が皆無だった故に起きた悲劇だった。


この世界ではまだ現金払いが主流であった。



「すまん……ナム……あとを頼んだ。」

「お……おう?」



ナムは目の前で起きていることを一切理解しないまま、財布から6000エンを支払い、主人から部屋の鍵をそれぞれ受け取った。


その間もどこかトウヤの視線がどこか不安定だったのをナムは不気味に思ったとか何とか。



「トウヤさんは意外と世間知らずっと。」



幸いにもミナの呟きはトウヤに聞かれることはなかった。





ナムは自身の部屋に入ると、部屋の電気を付ける。


部屋の内装は机が1個のベッドが1つ、そしてタンスが1つ。

ごく普通の部屋だ、タンスの上に不気味な謎の木製の人形が置いてある以外は。



「まぁ、悪くねぇか、どうせ寝るだけだしな。」



ナムはタンスの中を開けると、寝巻き1式と黒いローブがあるのを確認した。



「意外に充実してんなおい。」



ナムはタンスを閉めると、その上の木製の人形を見る。

足や腕がなく棒状の体の上に丸い頭の人形だ。

首は回るらしく、何となく回したら音がした。



「俺にはこういう人形のことはよく分からんな。」



この世界にもある、こけしと言われる人形だが、ナムはそこまで興味が無いようだった。


そしてそのまま部屋の中を見回すと、部屋の中に1枚の紙が貼られているのを確認する。



「なんだ?」



ナムはその紙に近付く。



「お尋ね者……罪状、ゼンツ村の村人を1人残らず皆殺し?自分の家族まで……?とんでもねぇヤローだな。」



ナムはその紙の上を見ると、写真と共に名前が書いてあるのを確認した。



「名前は……<タイフ>ねぇ、生きてても死んでても構わんと来たか。」



写真の人間はどうやら男のようだ。

髪は写真に写ってる場所だけで見てもかなり長いようで、黒のロングヘアーだ。



「ゼンツ村といやぁ、ここからそこまで遠くねぇ筈だな、この村よりもう少し寂れた感じだとは聞いたことがあるが。」



ナムはそこまで考えた後、今の時間を思い出して直ぐにでも寝る為にベッドへ向かう。


そして勢いよくベッドへ座り込むと、伸びをし始めた。



「ん?」



ナムは違和感を覚えたようにベッドに視線を向ける。



「ベッドの下に収納でもあんのか?音の響き方が変だったが。」



ナムはこれでも人間としてはトップクラスの強者だ、音の違和感をすぐに察知したのだ。



「一応確認すっか。」



ナムはベッドから立ち上がると、直ぐに這いつくばって、ベッドの下を覗く。



「どれどれ……おぉ!?」



ナムは驚きすぐにベッドから離れる。

それと同時にベッドの下から1人の人間が這い出てくる。



「くそ!!まさか見つかるなんて!!」



這い出てきた男は黒のロングヘアーの男だった。



ナムは警戒しながらも何処かで見た事あるような気がして観察する。

そして何かに気付いたナムは拳を構える。



「おめぇ……<タイフ>だな?」



そう、そこに居たのは紙に書かれていたお尋ね者の<タイフ>だった。


タイフはタンスに近付きすぐさま中に入っていた黒いローブを取り出し、羽織った。


ナムは何をしようとしているかをすぐに察し、タイフに近付く。



「速い!?まずい!サー……」

「させねーよ!」



ナムは何かをしようとしたタイフの腰にしがみつくと、そのまま持ち上げ背中側に投げて地面へと頭から落とす。



「がっ!?」


頭から床に叩きつけられたタイフはすぐさま気絶し、仰向けに倒れた。


完全に動かなくなったのを確認したナムは、別の部屋から何者かが走ってくる音を聞くと扉へ視線を向け、途端に扉が開かれた。



「ナム!何暴れてんのよ、うるさいじゃ……あれ?」

「どーしたミナさん、なんかナムが変なことでも……ありゃ?」



トウヤとミナはナムの近くの床に倒れている男を確認すると、2人揃って近付いていく。



「この人、部屋にあったお尋ね者じゃない!?」

「タイフ……だったか?なんでこんな所に?」

「俺にもわかんねぇが、ベッドの下に隠れてやがった。」



ナムはそう言うと、意識を取り戻す様子がないタイフを見る。

本来であればすぐにでも拘束して警察にでも突き出すべきなのだろうが、何故かナムはそうしようとしない。


それに気付いたトウヤとミナはナムに視線を向ける。



「あら?捕まえないの?」

「いや、捕まえねぇ。」



その発言にトウヤは驚く。



「ゼンツ村を滅ぼしたヤバいやつじゃないか、捕まえるべきだろ?」



ナムはトウヤを見ると静かに首を横に振る。



「変だったんだよ、こいつ村滅ぼすような危険人物のくせに、俺に見付かった途端にタンスにあった黒いローブをとりだして、窓から逃げようとしやがった。」


「見付かったならそうするのが当然だろ?」



トウヤは何を言ってんだ?と言わんばかりにナムに問いかける。



「俺は1人だった、しかも俺の正体を知る前にすぐさま逃げようとしたんだ、村人を皆殺しにするような奴がだぞ?俺がその立場なら見つかった途端にそいつ殺してから逃げるな。」



勿論、そうしたら返り討ちにあったのは間違いなくタイフだろう、しかしナムはすぐさま反撃しようとしなかったことに疑問を抱いている。

何かをしようとはしたが、それはナムが走り出したからであった。



「うーん、そう言われると確かに変な気もするわね。」

「だろ?俺はとりあえずコイツが起きるまで待って、話でも聞こうかと思ってな。」

「それならいい物があるわ、私に任せなさい。」



ミナは懐から頑丈なピアノ線のようなワイヤーを取り出すと、タイフを後ろ手に軽く縛った。



「コレで起きてもすぐには逃げられないはずよ。」

「お前そんなのまで持ってきてたのか。」

「本来は投げナイフに付けてトラップにするためのワイヤーよ、縛るためじゃないわ。」



ミナはそう言うと、残りのワイヤーを懐にしまう。



「よし、俺様に任せな。」



トウヤがタイフに近付くと、右の掌をタイフに向け極小の魔力を集中させる。



「水属性、下位魔法<ウォーター>!」



トウヤの掌からただの水流が出現し、タイフの顔に大量にかかり、タイフは驚いたように目を覚ました。



「うわっ!!え?!」



タイフは慌てて周りを見て自信が縛られていることと、目の前に3人の人間、しかも1人はさっき自分を気絶させた男だと気付くと、警戒した。



「安心しろ、俺はお前を突き出す気はねぇ。」



タイフはナムのその言葉に驚いたような表情をする。



「何が目的なんだ?」

「話を聞きてぇだけだ、勿論その結果次第では問答無用で警察に突き出して懸賞金頂いて終わりだがな。」



それを聞いたタイフは、深呼吸をしはじめた。

数回それ繰り返したタイフは落ち着いたのか、ナム達を一直線に見つめる。



「話す気になったみてぇだな……んじゃまず1つ、村人を皆殺しにしたのは本当か?」



タイフはその質問に少し顔を曇らせると、震えるように頷いた。



「その通り……だと思う。」

「思う?ハッキリしねぇな……自分のことだろ?」



タイフは再び深呼吸をする、そして震える声で話し始めた。



「皆を殺したのは……僕で……間違いない……でも、覚えてないんだ。」



ミナはその言葉に驚く。



「どういうことかしら?」

「わからないんだ、本当に……わからないんだ!!」



タイフはそう叫ぶと体を震わせ始めた。



「アレは僕だけど……僕じゃない!!僕はあんなことしない!!!」



タイフの異常な状態に気付いたトウヤがナムに視線を向ける。



「どういうことだ?なぁナム?」

「……わからねぇ、だがひとつだけ心当たりみたいなのが思い浮かび始めてる。」



ナムはそう言うとタイフの近くに行き、しゃがみ込んだ。



「話せ、隠すことなく全部だ。」



タイフは顔を上げた、その顔には涙が伝っていた。



「分かった……あまり思い出したくないけど……話したら何かわかるんだろ?」

「あくまで……かも、だぞ期待すんな。」

「それでもいいよ。」



それを聞いたナムは床に座り込み、トウヤとミナも続いて座った。


タイフはそれを確認すると、縛られたままなのも気にせず、話し始める。



「あれは……僕にとっても何の変哲もない……ただの日常だった。」



タイフの言葉は少し震えていたが、それでもしっかりと紡がれる言葉。


ナム達は静かにタイフの言葉を待ったのだった。


こここら1章開始です。

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