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ブレイカー  作者: フィール
3章
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3章:セラルの実力

エイルを送り届け、ネットの村を出立したナム達。

ホーネットが大量に生息する森の中を素早く駆け抜けた彼らは、森の外に出ると一息ついた。



「ラッキーね……今回は襲われなかったわ。」



ミナはそう言うと、隣にいるナムへと視線を向けた。


ナムの背中には、ネットの村で知り合った少女。

セラルが乗っていた。



「申し訳ありません、ここまで背負って頂いて。」


「早く抜ける必要があったからな……気にすんな。」



ナムはそう言うと、背中からセラルを降ろす。


地面へと降り立ったセラルは、白い傘を開いてそれを自身の上へと挙げた。


癖になっているのか、余程太陽を浴びたくないのかわからないが、彼女は基本的に余裕のある時は傘を差すのが普通らしい。



「わっと……!? えっと、気になっていたんですけど……雨でもないのにどうして傘を?」



トウヤの背中から同じく降り立ったリィヤは、勢いでバランスを崩しかけ、何とか踏ん張った。

その様子を見ていたセラルは、口元に手を当ててくすくすと笑う。

リィヤも恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめて1度咳払いをした。



「ふふ、申し訳ありません……ワタクシ、陽の光があまり得意ではなくて。」


「あー……とても白くて綺麗ですよね、その肌。」



リィヤにそう褒められた彼女は、すまし顔でスカートの裾をつまんで広げ、穏やかな仕草で礼をして返す。


すまし顔を維持してはいるが、どことなく嬉しそうに見えなくもない彼女の様子に、リィヤは少し微笑む。


僅かにだが、頬が緩んでいる様子が見えたからだ。


そんな2人のやり取りを優しい笑顔で見つめていたトウヤは、特に理由なく視線を動かした。


それと共に彼は目を細め、少しばかりそれを維持すると、隣にいたミナの肩を1度叩く。



「あら、何……って、お客さんね。」


「ノーマルしかいなさそうだけど。」



トウヤとミナのやり取りを聞いた他の仲間達も、その方向へと視線を向ける。


広大な平原が広がるその景色の向こうに、10匹程の狼型の魔物の群れがいた。

数匹がこちらに気付いており、他の仲間へと鳴き声などで知らせているようにも見えた。



「ウルブの群れだな、大した事はねぇ。」



狼型の魔物であるウルブは、その俊敏さや牙を武器とするノーマルだ。

普通の旅人であればかなりの脅威だが、戦闘経験を積んだ者であれば、油断しなければ負けることは無い。



「ホーネットに会わないと思ったら……森の外で狼さんとは、ついてないわね。」


「まぁ、僕達ならあっさりかて……。」



タイフが腰元の圏を掴み、同じく反対側の腰元の拳銃を抜き取ろうとした時。


彼の視界の隅にセラルが移動しているのが見える。



「ちょ……いくらノーマルでも危ないよ!」



タイフは慌てて誰よりも前に出たセラルを引き止めるが、彼女はその場から動くことはなかった。


そんな彼女の様子に、流石のナム達も唖然とセラルを見つめてしまう。



「ここまで運んで頂いたお礼に、あの程度はワタクシが引き受けますわ。」



セラルはそう言って静かに傘を畳むと、その畳んだ傘の中心を握り、まるで杖のように持ち手の部分を空高く挙げる。

行動の全てに気品を感じさせるほどに、優雅にそれを行った彼女だったが、逆にそれは敵に行動の隙を与えてしまう。


まだ遠くにいたウルブの群れは、既にこちらに向かって突撃してきていた。



「おい、敵が来てるぞ!」



セラルを守るため、慌てて前に出ようとしたナムに対して、セラルはまた優雅に手を横に広げて制する。



「お任せを。」



彼女はすまし顔でそれだけ言い放つと、その傘の持ち手の先端へと魔力を集め始める。


それだけではない、傘を持っていない左手の人差し指、中指、薬指にも同時に魔力を集中させていく。



「……4箇所!?」



魔力を検知したらしいトウヤは、彼女の魔力集中箇所の多さに驚いて大声を上げる。


魔力集中箇所の多さは、この世界において魔術師の強さの指標の1つだ。

魔力を体にどこかに集中させ、それを変換して魔法を放つというこの世界の魔法の理の上で、集中箇所は多ければ多いほど強い。


トウヤで6箇所、父親であるドウハは20箇所。


普通の魔術師であれば1〜2箇所、高位の魔術師で3箇所が基本だ。


セラルはそんな中、4箇所に魔力を集中させている。



「驚いて頂けましたか? ワタクシ……こう見えて魔法には自信がありますのよ。

下位魔法アイス・ニードル、中位魔法フレア・ボム!」



驚愕するトウヤの目の前で彼女はそう言うと、自身の周りに、氷の槍であるアイス・ニードルを5発、爆発する火球であるフレア・ボムを1つ生成する。



「上位魔法ウインド・カッター。」



セラルは更に風の刃であるウインド・カッターを生成し、傘をゆっくりと前へと向ける。


その間にもウルブの群れはどんどん迫りつつある。


しかしセラルの表情は相変わらずのすまし顔であり、この状況でも余裕のようだ。


ナム達も、流石にここまでの強さを見せつけられては、手を出そうとはしなかった。


ウルブの群れが、もう少しで彼らの戦闘領域まで迫るか迫らないかのタイミングで、彼女は唯一残した傘の先の魔力を変換する。



「中位魔法、グラビティ・ホール!」



ウルブの群れの全てを覆うように展開された重力フィールドにより、ウルブ達の動きは一気に遅くなる。


セラルはその隙に、展開していたアイス・ニードルを次々と放った。

氷の槍が見事に5匹のウルブへと突き刺さり、半数程度が絶命する。

更にセラルは、残ったウルブへとウインド・カッターを放つ。


横に広い風の刃は、重力フィールド内のウルブを数匹纏めて両断した。

しかし、1匹だけは辛うじてウインド・カッターを避けてしまい、その余波で重力フィールドからも脱出した。



「あら、往生際が悪いですわね。」



高重力から解放されたウルブは、素早くセラルへと向かって走りだした。


しかし。


そのウルブの目の前に突如として火球が現れ、間髪入れずにそれが起爆した。


肉片となったウルブが平原に散らばるのを眺めたセラルは、服の裾を1度払って恥ずかしそうにナム達の方へと向き直った。



「保険でフレア・ボムを生成しといて良かったですわ、まさかお避けになられるとは。」


「……やるわね。」



10歳ほどの少女であるが故の経験不足か、荒削りではある。

しかし、敵の動きを遅くする。

ウルブへと的確に命中させるその精度。

保険を用意する等。

予想外の実力に、ナム達も驚くしかなかった。



「少々失敗しまして、お恥ずかしい限りですわ……ささ、ノーラスへと向かいましょう。」



セラルはそう言うと、再び傘を広げる。

そして、太陽の位置から方向を確認すると、ゆっくりと北の方向へと歩き出した。


ナム達は、何となく彼女があの森を抜けられた理由を悟り、心強い旅の仲間が一時とはいえど増えたことに安堵する。



「さ、俺様達も行こうぜ。」


「そうだね。」



トウヤとタイフのやり取りの後。

ナム達もセラルについて行くように移動を開始したのだった。





「着いたねぇ! 懐かしいよこの感じ!」



辺りが雪が舞う町の入口付近で、2人の男女がその景色を眺めていた。



「もっと早く帰れただろ、アンタがいつまでも遊び歩くから。」


「ふふふ、君だってなんだかんだ着いてきてたじゃないかぁ!」



町を眺めていた2人の男女は、少しの言い合いの後に移動を開始する。


屋根が大きく斜めに作られた建物の上に降り積もる雪が、時間経過で人通りのない場所へと落ちる音が定期的に至る所に鳴り響く。


雪が積もりすぎないよう設計されたその屋根は、この雪が降り注ぐ町にとって必要不可欠な物だ。


町の発展はそこそこであり、車両も僅かにしか走らないこの町。


()()()()を歩く2人の男女は、まるで歩き慣れているかのように積もった雪の上を難なく移動する。



「しっかし、寒いね! もう!」


「そりゃー、そんなカッコしてたら寒いよぉ!」



身を震わせる女性、()()と呼ばれるその女性の蛮族のような服装は、かなり露出度の高いものだ。

この町の低い気温に適してるとは言えない。


その逆で、他世界のカウボーイのような格好をした男、()()の服装はまだ寒さに強い。


その為か、魔弾は寒さに堪えていないようだ。



「ねぇ、シュルト……アンタの服貸しなよ!」


「ふふふ、そんな事したらぼくが死んじゃうよ!?」



シュルトは、まるで恥ずかしがるような仕草でそれを拒否し、それを見た爆砕は嫌なものを見たかのように視線を逸らした。



「冗談さね! 流石のアタイもアンタの服はいやさ!」


「それはそれで傷付くんだけど……!?」



露骨に落ち込むシュルトは、肩を落としながらチラリと爆砕の方を見る。

しかし彼女は既にシュルトに興味をなくしたようで、全く彼を見ていなく、そのアピールは無駄に終わった。



「しっかし、なんでアタイ達なんだい……この町なら他の奴にも出来ただろうに。」


「だからこそじゃないの? ぼくらだからこそ、やりやすいんじゃないかな……ん?」



シュルトは、町中に集まっている人だかりを発見する。


その人間の集まりの中心にいるのは、見慣れない男だった。



「あわわ……! やばいよやばいよ! 怖いよー!」



人混みの中心でそう叫ぶ、眼鏡を掛け、随分とゆったりした緑の服を着た背の小さい男。


その周りの人間達は、それをまるで子供をあやす様に落ち着かせているようだ。



「まずいって! 今度はきっとこのぼくちんだよ!」


「いやいや、流石にわからないよ!」


「そんなのわからないじゃん! 助けてよ!」



随分とワガママを言っているあの男はなんだ?

と、関わることを辞めた爆砕とシュルトの2人は、その人混みの傍を素通りする。


人混みの中の数名は爆砕の露出の高い服を見て、信じられないと言った風な表情を向けていたが、それに関して2人は気付いていないようだ。



「なんだい! あの男は……情けないねぇ。」


「ま、色々な人いるからね!」



2人は背中から聞こえる先程の男の悲鳴のような声を聞きながら、町中を散策する。

雪て視界があまりよくはないが、遠くに見える大きな建物。

恐らくそれが2人の目的のものだろう。



「アレかな?」


「かもね……とはいえ、アタイらはまだ動けないよ、()()の奴が来るまではね。」


「あー! そうだったそうだった! けど、二鏡ちゃん来ても戦力にならない気がするけど。」



シュルトはそれだけ言ってから、少し考えた後に何かに気付いたように表情を変えた。



「そっか、大丈夫だったね……あの子なら。」


「忘れてただろ、アタイみたいにしっかり覚えとけっての。」


「あはは! 忘れてたよー! じゃあ、今日は休もう!」



シュルトと爆砕の2人は、視界が悪くなるほどの雪の中を歩いていく。

その先にある、暖房完備の宿を目指して。


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