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ブレイカー  作者: フィール
3章
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3章:不思議な少女

東に位置する巨大な森、通称ホーネットの森。


その森の中心に存在する小さな村、ネットの村。

ナム達が大量のホーネットに襲われながらもこの村を目指した理由は1つ。


その村の住人であり、心の優しいヒューマンの少年でもある。 エイルを送り届けるためだ。



「なんと……礼を言えば良いか。」



ネットの村で最も高齢であり、村の中心人物でもあるセクト長老はそう言うと、深々と頭を下げた。


このセクト長老の自宅であり、村人達の会議の場でもあるこの場所には、ネットの村の住人が10人程と見慣れない少女、セクト長老、エイル、そしてナム達5人が集まっていた。



「約束したことだもの、気にしないで。」


「結局、俺様達はほぼ何もしてないようなものだし……感謝するならトラルヨーク軍の人達にすべきだね。」



ミナとトウヤの2人が、セクト長老の礼に答える中。

ナムはそんなこともお構い無しに目の前の料理を頬張っていた。


エイルの帰還、そして連れ戻してくれたナム達を労うという意味で、セクト長老の自宅で簡易的な宴が開かれている。


飲み物はあくまで水や酒しかないが、料理に関しては森に囲まれた地形を利用した菜物や果物を利用した物が豊富に並べられている。



「それにしても、凄いご馳走だ……良いのかな?」


「ナムさんは遠慮なく召し上がってますし、おそらく問題ないかと。」



タイフとリィヤはそう言って視線をナムに向ける。


仲間達との会話など気にしていない様子で食事を続ける彼を見た2人は、果たして彼を参考にして良いものかと、若干の不安を覚えるのだった。



「あ? どうしたんだ?」


「いや、なんでもないよ。」



視線を向けていた事がナムにばれ、慌てて取り繕ったタイフは、おもむろに視界に映った人間に意識を向けた。


タイフの目の前に座るその人間は、前に村に訪問した時には1度も出会っていない気がしたのだ。


相当幼い少女だ。

服装もこの村の物とは毛色が違い、至る所にレースが施され、白を基調とした相当な高級品と見られる物だ。


髪は背中までのウェーブ掛かった白の長髪に、異様に白い肌を持つ見た目をしている。


全体的に白い印象を持つその少女は、明らかにその存在すらこの村の中では異様だった。


これ程までに目立つ見た目をしている少女がいれば、前回の時に見逃すはずも無い。



「セクト長老……ちょっと気になってたんですが、その少女は?」



タイフが悩む中、エイルが自然にセクト長老へとその質問をし、内心でタイフはエイルを褒めた。



「あぁ……3日前位にこの村に迷い込んで来おったのよ。

こんな子供を流石に放り出す訳にもいかぬからな。」


「ワタクシは幾度も大丈夫と申しておりましたのに……中々お暇させてはくれませんの。」



目の前の果実を1つ摘んだその少女は、その果実の甘味を気に入ったのか少し頬を緩ませる。





「貴方達も旅の方でしょうか?」


「あ、ええ……まさか貴方もそうなの?」



突然話しかけられ、少し驚いたミナだったが、冷静に質問にそう返す。



「旅の者……という程の者ではありませんわ、ワタクシはこの村に少々用……と申しますか、確認事がありましたの。」



そんな事を言ったその少女は、再び果実を手に取ると、先程より素早く口元に運ぶ。


どうやら余程気に入ったらしい。


そんな少女から視線を外したタイフは、先程の話題から会話を続けるエイルとセクト長老へと意識を向けた。



「セクト長老、改めて心配かけてしまって、すみません。」


「戻ってきてくれただけでも安心したわ……無事で良かったぞ、エイル。」



酒を嗜み、既に少し回っている雰囲気を見せるセクト長老は、普段よりもさらに饒舌に会話をしているようだった。


初めてナム達が出会った時の拒絶反応からは、到底予想できないほどに。



「おい、タイフとリィヤも食っとけよ……明日には森から出るつもりなんだからよ。」


「あ、そ、そうだね! ありがとナム。」


「わ、わかりました!」



別の場所に意識を向け続けていたタイフは、ナムに急に声を掛けられて思わず驚いてしまう。


しかし、ナムの言うことも最もな為、タイフはようやく目の前の料理に手を付け始めた。



ナムは、そんな2人の様子を一瞥し、おもむろに水を飲んで一息入れ、次の予定する町への旅路を考え始めていた。



(ノーラス……か、久しぶりに帰ることになるか。)



15歳で独り立ちをする。

という三武家のしきたりに従い、現在の住まいであるビギンという町で暮らし始めて早くも5年が経っていた。


その5年の間、1度も自宅であるノーラスに彼は帰っていなかったのだ。



(あまり気は乗らねぇが、あのクソオヤジの頼みなら聞いておかなくちゃな。)



ナムの脳裏に浮かんだ、トラルヨーク軍司令官であるダルゴの高笑いした姿を思い浮かべたナムは、思わず額に青筋を浮かべる。



「お主らは、明日には出てしまうのか?」


「あ?……あぁ、そのつもりだ。 次の予定が入っちまってるからな。」



セクト長老に声を掛けられ、脳裏に浮かんだダルゴをひとまず1度殴ってからかき消したナムは、明日にはこの村を出る意志を示した。


それを聞いたセクト長老は、少し寂しそうな表情をしたが、首を横に振って表情を変える。



「そうか、止めることは出来ん……もう少し滞在してくれても構わんのだが……次の予定があるなら致し方あるまい。

次はどこに?」


「俺様達はノーラスを目指してる。 そうだよな、ナム?」


「あぁ、次の目的地はノーラスだ。」



それを聞いたセクト長老は、何故か安堵したような表情に変化し、食事を続ける1人の少女へと視線を向けた。



「そうか……なんという偶然……ついでにひとつ頼まれてくれないか?」


「ついでなら構わないわよ、どうしたの?」



ミナはそう言いながらも、セクト長老の向けた視線の先に居る少女を見るや、勘で何を頼まれるのかを悟った。



「この少女の行先もノーラスらしいのだ……この歳の娘を1人で放る訳にもいかん。

しかし、かと言って外の魔物から守れる保証もない。」


「ノーラスまで、この方をお守りすればいいんですね!」



リィヤの発言に、セクト長老はゆっくりと1度頷いた。



「頼まれてくれるか?」


「良いぜ……ついでだからな。」



ナムはそれだけ答えると、再び目の前の料理を食べ始める。



「ワタクシは大丈夫ですと何度も……いえ、それではお願い致しますわ。

あら、なんとお呼びすれば?」



ナム達は、その少女に1人ずつ自己紹介をする。

名前を聞く度に、興味深そうに何度も頷くその少女は、見た目とは裏腹にとても落ち着いていた。



「わかりましたわ、ワタクシはセラル。

ふふ、リィヤ様とはお話が弾みそうです。」


「あ、わたくしも思ってました! よろしくお願いします、セラルさん!」



傍から見ると、令嬢同士の交流にしか見えないその光景に、ミナ達は自然と頬が緩む。


ミリアという、彼女の親友であったらしい存在を失ってから、リィヤには友達と呼べる存在は最近まで居なかった。


今でこそアンナが存在するが、屋敷で住んでいた頃には、ボディーガード達位しか交流する相手が居なかった。

だからこそ、このセラルという少女はリィヤにとってはありがたい存在だった。


そんな時、リィヤと談笑をしていたセラルは、何かを思い出したようにリィヤへと1度お辞儀をして会話を中断すると、セクト長老の方へと向き直った。



「1つよろしいでしょうか?」


「む、なんだね。」



セラルに話し掛けられたセクト長老は、酔いが回っているようで、上機嫌に返事をする。



「この果物……少々頂いても?」


「おお、そんな事か……持っていきなさい、ヒック。」



セクト長老は、上機嫌に二つ返事でそれを了承すると、再び酒を飲む。


セラルは1度深くお辞儀をしてから、先程から気に入っていた果物を幾つか自身の持つ袋へと入れていく。



「それ、好きなんですか、セラルさん?」


「ええ、大変好みだったので、頂いて帰ろうかと。」



またもやリィヤと談笑をしながら、セラルは皿の上に乗っていたその果物を、半分以上袋に詰め込んだ。



「意外とちゃっかりしてるわね。」


「見なかったことにしよう、ミナさん。」



セクト長老が深酒をしているのを良い事に、好みの果物の大半を袋詰めしたセラルから、ミナとトウヤは露骨に目を逸らした。



「これだけあれば。」


「でも、そんなにあっても食べきれますか?」


「問題ありませんわ!」



セラルは果物の入った袋をしっかりと肩にかけ、得意げにそう答える。


セラルは一見落ち着いているように見えたが、内面は年相応のようだった。



「賑やかだなぁ……あ、これ美味い。」



それらの様子を傍から眺めていたタイフは、何気なく食べた料理の味に驚き、続けざまに数口頬張る。


村人達が賑やかに会話で盛り上がる中、少し離れた場所で楽しんでいたタイフ。

しかし、そんな彼に向かって、リィヤが声をかける。



「タイフさん、こっちにも美味しい果物ありますよ!」


「あ、うん……ありがとう!」



タイフはおもむろに立ち上がり、リィヤとセラルの近くへと歩み寄り、彼女達と他愛のない話しを始めた。



タイフ達だけではない、村人達も時々メンバーが入れ替わりながら、賑やかさが増していく。


大切な仲間であるエイルが帰ってきた。

それだけで彼らにとってはここまで嬉しいものなのだ。



「ぼく……実は怖かったんです。 皆がぼくを拒絶するんじゃないかって……皆を信じる事が出来なかったから。」


「何言ってんだ、むしろ助けられなくて悪かった!」



エイルの近くで酒を飲んでいたギーサは、エイルに向けて頭を下げ、エイルはそれを見て狼狽していた。



「いやいや、ギーサさんがなぜ謝るんですか!?」


「疑心暗鬼になったお前が、仲間達を信じられなくなる程に信頼を得られなかったのが問題だ。 だから謝る!」



ギーサは更に深く頭を下げ、しばらく後に顔を上げた。



「だからこそ……だからこそ言う! すまない!

このギーサ……素手で岩なんて壊せない! お前の事を隠そうと騙してた!!」


「だから本当に良いですっ……て……え?」



エイルは謙遜しながら、謝り続けるギーサに対し手を振っていたが、突然それを止める。



「え? ギーサさん……え? あの大岩壊してたのって……え?」


「最初から崩れてた岩を殴ってただけなんだ! 白状するから許してくれぇ!」


「え……ええぇぇぇ!?」



まさかの真相を暴かれてしまったエイルと、深酔いしたせいか謎の暴露をしたギーサのせいで、この宴は暫く混沌とすることになるのだった。



「いや、気付いて無かったのかよ……純粋すぎるだろエイル。」



ナムのボヤキは、宴の喧騒の中で掻き消えた。

ギーサの名前の由来は


詐欺(サギ)から来てます、はい。

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