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ブレイカー  作者: フィール
3章
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3章:新たな力、そして別れ

時は夕刻。


ナム達と別れ1人で行動をしてたタイフは、ここ数日ですっかり馴染みとなったシュルトと共に、トラルヨークの防壁外の平原にて変わらず訓練を受けていた。


いや、最早訓練とは呼べないかもしれない。


タイフの銃の腕は、ある時を境にみるみる伸びたからだ。


狙いをつけるだけではダメ、追うのではなく捉える。

シュルトが散々言っていたその言葉の意味を理解したその時から。



(狙わなきゃ当たらない、けど……それは的を狙うんじゃない。)



シュルトが投げた的を目で捉え、右手に携えた拳銃の銃口を的へ向ける。



(トリガーを引いたら狙ったものに命中する訳じゃない、それをやって初めて銃口から弾が飛ぶ……そうだ、僕がまず間違っていたのはここ。)



地面に突き立てられた的であればそれでもいいだろう。

しかし、今回の相手は空中を無規則に飛ぶ薄い板だ。


窓に照準を合わせてから撃っているようでは、弾が的の位置に到達する頃には、的の位置は移動してしまう。


タイフの今までの狙い方では、当たる訳がなかったのだ。



(今迄は、的を追っていた……飛ぶ的に何とか照準を合わせようと必死だった。

でも違ったんだ……的を狙うのが目的じゃない、当てるのが目的なんだ。)



タイフは、手に持つ銃口をしっかりと的に向け……ではなく的が通る()()()()場所へ向け、射撃した。


火薬が爆発する音と共に、タイフの腕にそれによる反動の力が掛かり、銃口から放たれた弾丸は空を飛ぶ。


そしてその弾丸は、タイフの狙い通りに進み、その的の中心を貫く。

それはまるで、宙を舞う的が自ら意思で弾丸に当たりに行くかのように。


中心を貫かれた的は、その衝撃で軌道を変え、タイフはそれに向かって再び銃口を向け、更に射撃を重ねる。



そんな光景を横で見ていたシュルトは、満面の笑みで満足そうに頷いていた。



(素晴らしい……素晴らしいよ!)



自らの期待が間違っていなかった事がわかり、非常に上機嫌なシュルトは、いきなり腰元から拳銃を抜き取る。


そしてそれを指先で回転させながら、タイフに気付かれないようにその銃を空高く上げ、回転を止めると共に銃口を的へと向ける。



「最後のテストだよ!」



わざと大きな声を出し、タイフの意識がこちらに向かったのを確認すると共に、シュルトはすかさず宙を舞う的へ射撃する。


その意図を感じ取ったタイフも素早く視線を宙の的へと視線を向け、素早く銃口を向ける。


シュルトの放った弾丸が的に当たり、タイフの予想していない挙動を取る。

自分の放った弾丸による動きであればある程度予想できる。

しかし、突然意識を持っていかれた上で予想外の動きをした的に当てるのは至難の業だ。



(ここで当てないと……シュルトさんに顔向け出来ないよ!)



タイフは、自らの感覚を頼りに狙いを付けて銃弾を放つ。


緊張するタイフと、満面の笑みのまま見守るシュルトの視線の先で。


シュルトが軌道を変えた的は。


再び軌道を変えた。


その現象の意味を理解したタイフは、落下する的を視界に入れながら小さく拳を握る。


喜びをかくせていないタイフの耳に、乾いた高い音が届く。

視界をそこへやると、シュルトがいつもの笑顔で拍手をしていた。



「おめでとう、タイフ君! ぼくの最後のテストを、未来眼(サーチ)無しで見事に乗り越えたね!」


「あ……えーと、どうも。」



タイフがしどろもどろとしながら返答をする途中、宙を舞っていた的がゆっくりと地面に落ちる。


拍手を辞めたシュルトは、ゆっくりと落ちた的に近づいて行く。

そしてそれを拾うと、まじまじと的に付いた弾痕を見つめた。



「うん……まだ甘いところはあるけど、個人的には合格点だね……特に最後の弾痕はかなりギリギリだったねぇ。」



シュルトが満面の笑みで手に持った的を顔の横でタイフヘ向けて差し出し、1つの弾痕へと人差し指を向ける。


シュルトが指さした弾痕は、的の端をギリギリに捉えていた。

弾痕の形状も、丸ではなく半月型をしている。



「でも、あの状況で当てられただけでも相当凄いんだよ? そこは自信を持ってねー。」



シュルトはそう言うと、わざとらしく高笑いを始めた。


しかし、その笑いを止めると同時に、タイフに笑顔を向けたままその口を再び動かした。



「さて、ぼくから教えられることはもうほぼ無い。

敢えて君には未来眼(サーチ)を封印してもらった訳だけど……次に自分で練習する時に是非とも使ってみてよー。

相当狙いやすいと思うよ。」


「はい、なんとなく……そんな気はしてた。

そして同時に、未来眼(サーチ)に頼ってたらここまで腕は上がらなかったと思う……ありがとう。」



シュルトは大袈裟に両手を横に振って謙遜のポーズを取る。

しかし、その表情は相変わらず笑顔のままであり、逆にその内心までは読み取れない。



「さて……お疲れ様。 その力をどう使うのかは知らないけど、役に立てたならぼくは嬉しいよー。

その拳銃……君にあげるよ。」



シュルトは指で銃のような形を作り、タイフが持っている拳銃に向けて、撃つふりをする。


タイフはその手に持つ銃へと視線を向け、そのまま流れるようにシュルトへ視線を向けた。



「良いの?」


「ふふふ、それは特別な銃じゃないんだよ。

そんなもので喜んでくれるならどんどんあげちゃうさ。」



タイフに譲った拳銃に向けて撃つふりをした指を口元に近付け、一息吹き掛ける。

そして彼はそのまま踵を返すと、壁際て待っていた女性の元へと歩いていく。



「さ、行こうか。」


「ようやく気が済んだか。」


「うん、あの調子ならすぐにでもぼくを超えるよ……ぼくの期待通りにね。」


「あ、そう。 アタイの準備は終わってるからアンタもさっさと終わらせてきなよ。」


「お、奇遇だね……ぼくも万全さ。」



シュルトは笑顔のまま、どことなく機嫌が悪そうな女性に対して頷くと、2人はそのまま町から離れるように歩きだす。



「あれ、もう行っちゃうのか?」


「うん、ぼくの心残りは無くなったからね、また旅に出るさ。」


「そっか……本当に助かった。」



タイフが足早にシュルトへ近付き、その手を前に差し出す。


シュルトもその意図に気付くと、躊躇なくその手を握り握手を返した。



「また、何処かで。」


「そうだね、その時には……どんな形であれ、ぼくに更に上がった腕を見せてねー、楽しみにしてるよ!」



2人がそうやり取りし、手を離しと同時に、突然町の門が開く。

2人と女性が思わずそちらへ視線を向けると、タイフにとっては馴染みの人間2人が出てきた。



「帰りが遅せぇから来ちまった、住人の奴が外に出たっつー話を聞いてな。」


「あら、その人達……知らない人達ね。」



現れたのはナムとミナだった。

恐らく心配になって探しに来たのであろう。


シュルトは、一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻ると、2人に軽く手を振る。



「君達のお仲間だったのかな、ここ最近ずーっと彼を付き合わせちゃって申し訳なかったねぇ。」


「気にすんな、タイフの奴が世話になってたみてぇだな?」



ナムとシュルトがそう会話する中、ミナは不意にタイフの腰元にある武器を目に止める。

今まで所持していなかったその銃の意味を、彼女はなんとなく察すると、彼が今まで単独行動をしていた理由に安堵する。



「なるほどね……隠れて何してるのかしら、とは思ってたけど。」


「うわ……流石ミナさん、もう気付いちゃったかぁ。」



恥ずかしそうにするタイフの様子を見たミナは、くすくすと静かに笑う。

ミナの反応で、ようやくナムもその腰元の新しい武器に気付くと、彼も表情だけを微かに笑顔にする。



「どうやら、世話になった……とかいうレベルじゃなさそうだな。」


「ふふふ、良いんだよ……ぼくも楽しかったしね。」



シュルトはそう言うと、彼らに対して背を向ける。

そしてそのまま、付き添いの女性と共に再び移動を開始した。



「俺はナム、こいつはミナだ。」


「……そうか。 ぼくはシュルト。 彼女はミ。」



シュルトが名前を言おうとした瞬間、その女性の拳が彼の頬に命中して地面へと思いっきり倒れ込んだ。



「ふん、ミ……ミーアだよ。 アタイらはそんなに時間がないんだ、そろそろお暇させてもらうからね。」


「お……おう。」


「え、えーと……ありがとう、ミーアさん。」


「ふん、アタイは何もしてないさ。」



ミーアと名乗ったその女性は、地面で伸びているシュルトを肩に担ぐと、そのまま足早に去っていってしまった。


遠くなる彼ら2人の姿を見送ったタイフは、腰元に装着された、彼の新たな武器に手を触れる。



「今度こそは足でまといにはならない。」


「お前は気負いすぎなんだよ……だが、期待してるぜ!」


「そうね……これは心強いわ。」



シュルトとミーアの姿がほぼ見えなくなると同時に、タイフはようやくここに来た仲間達の人数が足りないことに気付いたようで、辺りを1度見回してからナムに顔を向けた。



「あれ? トウヤとリィヤは?」


「あー、実はな……昼飯にあの店に行ってよ……リィヤが食べ過ぎで体調悪くしてな。

トウヤは、リィヤの付き添いで先に宿に戻ってる。」


「あの店……? 食べ過ぎ……え、まさか、また行ったのあそこに!?」


「この馬鹿がまた行くって言い始めたのよ! でもごめんなさいね、タイフさんだけ除け者みたいになっちゃったわ。」


「いやー……僕が勝手に行動したわけだし……そもそもあそこは僕は遠慮しとこうかな。」



前に行った時の、あまりの肉料理の量の多さを思い出したタイフは、食べていないにも関わらず表情を青くする。


そして、ナムのワガママに付き合わされたリィヤの体調を心配するのだった。



「さぁ、帰るわよ……私達もそろそろこの町から出ることになりそうだし。」


「おう、エイルの奴がようやく決断したと軍のやつから連絡があってな、1度ネットの村まで行く予定だ。」


「了解……ちょうど良かったよ。」



ナムとミナ、そしてタイフは、お互いに頷きあう。


そして、次の予定地への旅の前にしっかりと体を休めるために、彼らはトラルヨークの門をくぐったのであった。


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