序章:人間最高峰の3人
襲撃してきた魔物を殲滅したナムとミナ、そしてトウヤはナムの自宅にて久しぶりの会話を楽しんでいた。
そんな3人に会いに来た男がいた、名はサブロ。
ナムたちが暮らす町の町長であるサブロがナム達の元に会いに来た理由は、偶然にもナム達が話していた会話の内容でもあったのだ。
「魔物のここ数年の超強化の謎、君達に解明してもらいたい。」
それを聞いたナム達は一瞬硬直すると、まずはミナが発言をした。
「サブロ町長……それが依頼なんですか?」
それを聞いたサブロ町長は静かに頷いた。
「依頼自体は理解したが……正直に言わせてもらうと余りにもざっくりし過ぎててどうすれば良いのかわからないぞ?」
トウヤもサブロ町長に半分抗議のようなニュアンスを含んだ発言を投げかけた。
「君達の言いたいことは理解しているつもりじゃ、しかし……こちらとしてもこれ以外に言えることがないのじゃ。」
サブロ町長は見るからに申し訳なさそうにそんなことを言い始めた。
「何個か確認してぇことがある、報酬は毎月俺たちに払われるらしいけどよ、万が一俺達が何も情報も得られずに1年経ったとしても支払われるのか?」
今まで黙っていたナムは、慣れた感じでサブロ町長に依頼内容の確認を行い始める。
警察や町の評判でブレイカーと呼ばれるほどこの町で大きな事件を解決してきたナムは、他の二人より依頼される側としては経験値が高いのだ。
「問題ないのじゃ、元々先の見えない依頼じゃ……よほど1年以上サボられたりしない限りは払おう。」
「調査してる限りはってことだな……ならもう1つ、期限はあんのか?」
「規定しない……言ったじゃろう、先の見えない話じゃと。」
ナムは確かに、と言わんばかりの表情で頷く。
「それじゃ最後に、この町じゃ情報なんて得られない……つーことは、俺達はこれから色んな町を周りながら情報を集めることになる、つまりこの町から長い間俺達がいなくなる、その間のこの町の防衛とかは大丈夫なのか?……毎度呼ばれて防衛しろ、とか絶対無理だぞ?」
「分かっとる、安心せい……既にトラルヨークへ連絡して軍を派遣してもらう話はしておる。」
トラルヨーク
世界の真ん中に存在するこの世界最大の都市。
世界最高の外壁を持ち、最高の軍を所持し、都市機能も1番発達している、皆が移住したい町№1とか言われてると聞く。
そこから軍を派遣させるなど相当な金がかかりそうだが、それを承知してまで魔物強化の謎をナム達に調査して欲しいらしい。
サブロ町長の覚悟と危機感が本物だとわかる。
「なるほどなぁ……俺は良いぜ、しばらく昼寝とかできなそうだが、毎月生活費貰えんなら文句ねぇや。」
ナムのその言葉を聞いたミナとトウヤは驚いたようにナムを見た。
「正気!?正直私達でもかなり厳しい依頼よ?」
「色んな町で聞き込みするだけでこの謎が解けるとは思えない!徒労に終わる可能性の方が高い気がするぞ。」
2人は慌てたようにナムに言い放つ。
「あぁ、聞き込みだけじゃ間違いなく無理だろうな、だが俺達の話で誰が黒幕だって話になった?」
ミナとトウヤはお互いに目を合わせる。
「ヒューマン……つまり、魔物だけどそれがどうしたのよ。」
「簡単な話だろうが、色んな町回ってヒューマンの調査をしながら、魔物の問題が出れば解決していけば、その内たどり着くんじゃねぇのか?」
ミナはナムのそんな突拍子もない発言にため息を吐く。
「つまりナム、調査という名目でお助け珍道中ってやつかな?」
「そんな感じだろうな、わかりやすいじゃねぇか。」
トウヤとミナはナムの発言を聞き、苦笑した。
「人助けしながら町を回る……良いじゃない、私達に一番出来ることな気がするわ。」
「すごく適当で最初聞いたときは何言ってるんだこいつとかちょっと思ったけど、悪くないかもな。」
それを聞いたナムは少し驚いたような表情をする。
「意外だな、正直毎日退屈で旅行みたいで楽しいんじゃねぇか、とか思っただけだぞ、しかも金まで入る。」
それをきいたサブロ町長は微妙な顔をしていたが、それでも彼等が乗り気であることに安堵したようにシワのついた顔を綻ばせる。
「うむ……やり方は任せるのじゃ、確かに町に潜むヒューマンを探し出せれば情報が得られるかもしれんし、無くとも討伐できればその町の安全が保証されるのじゃ。」
「正直ヒューマンは確実に倒せる、とは言えねぇぞ俺達3人が全力出さなければ負ける可能性がある強力な敵だ、だが倒せないとも言ってねぇ。」
ナムはそう言うとにやりと笑う。
「受けてやろうじゃねぇか、俺も気になってたんだ、めんどくさくて調べる気はなかったがな。」
ナムの言葉に他の2人も頷く。
「あんた1人じゃサボりそうだし私も付いて行くわ、それに久しぶりに本気が出せそうじゃない。」
彼女は全ての武器を扱えるが、その中でも1番得意とする「双剣」の柄を撫でる。
「俺様の力も貸してやるよ!魔法の事なら任せろ、まぁ屋敷暮らしに飽きただけとも言うけどな。」
トウヤも指先から火属性の下位魔法「トーチ」を発動して揺らめかせる、明かり程度にしかならない火である。
「ちぇ、適当にサボりながらとか思ってたが、こりゃ無理そうだな。」
ナムも右腕に着いた3つのブレスレットを撫で、右腕の掌を動かす。
偶然にもこの町に集まった三武家の跡取り達3人。
本当に偶然だったのか、それとも必然だったのか。
それは今は分からない、だが1つ分かることは……人間としては最高峰に近い3人組が手を組み、世界の謎に立ち向かうことがここに決まったということだけだ。
それが世界にとって良いことなのか、今はわからない。
サブロ町長は彼等が依頼を受けたことを喜び、その日は満面の笑みで帰っていった。
旅立ちは3日後ということになり、ミナとトウヤもその日は旅の準備をすると言ってそれぞれ帰っていった。
家に誰もいなくなったのを確認したナムは、戦闘衣装のままだと気づくと、クローゼットに近づき着替えを始めた。
そして寝巻きになったナムは再び布団へ寝っ転がる。
「あと3日か、昼寝できんのもあと少しだな。」
ナムは少しだけほほ笑みを浮かべると、眠りに就こうとする。
その日は少しだけ彼にしては珍しく寝つきが悪かったらしいが、その理由は謎である。