序の口 ②
「はぁ……今月の合計収入二十万ロードかぁ……」
そう言って項垂れる黒髪の少年は手帳に羽ペンを動かしていた。
「ぼっちゃん。何度計算し直しても結果は一緒ですよ……」
少年の後ろには影茶色、一部銀髪の短髪を鉢巻きでまとめ上げた男が少年の肩に手を置いた。
その腕や体はとても鍛え上げられており、傷跡も数え切れないほどあるため、見ただけで歴戦の戦士だったことがうかがえる。
「もうぼっちゃんじゃないですよ!ライドって名前があるんですから、いい加減そう呼んでください!」
そう言いながらぼっちゃんと呼ばれた少年、ライドは羽ペンを動かす手を止めて答えた。
「しかしですねぼっ……」
「ん!?」
「……ライド様、この荷車の稼ぎじゃみんなおまんま食いっぱぐれますよ。やはり何人かに暇を出すしか」
男はライドに表情を曇らせながら説得した。
「ロディさんそれはだめだ。みんなここを出たら何をされるか分かったもんじゃない」
「しかしですね……」
「お話中すみませんライド様!」
ライドとロディと呼ばれた男の会話を申し訳なさそうに止める団員。
「どうかしました?」
団員の髪も一部が銀色の黒髪だった。
「まもなくトータスに着きますが……」
報告の途中から団員が口ごもる。
「騎士様に静止するよう言われてます」
「なっ!?騎士だと!?なんでこんなところに?」
団員の報告に焦ったロディは声を張り上げた。
「それは俺にもわかりません……とにかく団長、ライド様を出せとおっしゃってます」
「……どうします?ぼっちゃん……」
「…………」
ロディがライドに尋ねるがライドは沈黙していた。
「ぼっちゃん?」
「だからぼっちゃん言わないでください……はぁ。わかりましたよ行きますよ」
ライドはため息を吐くと、朝から立ち上がり歩き出した。
「ちっ!遅いぞ!団長はまだか!?」
「しょ、少々お待ちください!」
林道の木々より頭ひとつ大きい大鎧が、足元でひざまずく団員に巨大な剣を向けて、森中に響き渡るような大声を響かせた。
団員は今すぐ逃げだしたい衝動に駆られながら跪く姿勢をなんとか維持し続けた。
「……フンッ。俺様のような寛容な騎士だから許してやるようなものの……本来ならこの場で皆殺しだぞ」
銀髪に豪華に装飾された鎧をまとった騎士は、魔導機である大鎧の頭部、操縦室のなかで苛立っていた。
彼は気まぐれに通りがかった旅団から今日遊ぶための金を巻き上げようと考えていた。
しかし肝心の団長がすぐ現れないので、彼はその無礼者の首をはねてやろうかと考えていた。
すると巨大な布をかぶせた荷車の列車、その一室から誰かが出てくるのが、操縦室の画面を拡大させた騎士にも視認出来た。
「やっと出てきたか……おい貴様!」
騎士は魔導機の操縦桿である自身の剣に魔力を込め、大鎧の腕を振り上げて巨大な剣を構えた。
「お待たせ致したこと大変申し訳なく思います!私このハネメ旅団の団長でライドと申します!」
ライドは大鎧に臆することなく自己紹介をして深々と一礼した。
「我は港町トータスを統べる騎士『シュード・シーバ』である!」
「ではシーバ様!何故この様なお戯れをなさるのか説明頂けませんか!?」
シュードは胸に手を当て自慢げに自己紹介をするが、彼は操縦室にいたので誰も見ていなかった。
ライドはシュードの怒りを買わないよう、慎重に言葉を選びながら話を続けた。
「うるさい!吾輩は今非常に気が立っておる!早く通行料二十万ロードを置いていかないと貴様らの命はないと思え!」
シュードの叫びが森に響き渡り、大鎧は剣を振り回した。
振り回した剣は木々を切り飛ばし、森の生物は慌てふためいた。
それを見て一部の団員やロディがライドの背後に集まった。
「ぼっちゃん。どうします?二十万ロード払えば今は助かっても……」
「ライド様」
「こわいよー!」
「…………」
ロディがライドに語りかけても、団員が呼んでも、荷車の中にいた子供の泣き声が聞こえても、ライドは声を発することが出来なかった。
今助かっても明日からの資金が無くなってしまっては、生きていくことが出来ず、ゆっくり死んでいくだけだからである。
「……わかりました!すぐ金は用意致します!ですのでこれ以上の戯れはよして下さい!」
「ぼっちゃん!でもその金は!」
「大丈夫です、タダでは帰しませんよ。だから金を取ってきてください」
シュードに向かって叫んだライドにロディが小声で話しかけるが、ライドはロディに向かってニヤリと笑った。
「知りませんからね」
ロディは荷車に向けて駆け出した。
「フンッ。それでいい……」
「ただ一つだけお願いしたいことがあります!」
「ん?」
シュードは大鎧を暴れさせるのをやめた。
しかしライドが願いを訴えだしたのでシュードは眉をしかめた。
「私達に仕事の紹介をして下さい!」
評価、感想、レビューお待ちしてます!