19.冷蔵庫を求められた。
本日も三話更新します。
冷蔵庫を作ってから数日、私がヴィヴィアさんにトマトやジャガイモの冷製スープのレシピを叩き込んだかいもあり。
知る人ぞ知る隠れた名店だったドジョ・ドジョは、貴族でも滅多に食べられない氷を使った冷製料理があると口伝に広まり、今ではメイリンを代表する名店の一角に名を連ねました。
あまりの繁盛でココちゃんが混雑したお店に出れなくなり、私に子守の依頼が来たのは僥倖でした。
「すっっっっごく不本意ではあるが、この盛況はお前さんのおかげだしな、ココの事をお前さんに頼む事にした」
「はい、お義父さん。ココちゃんと末長く幸せに暮らします! 」
「ちがぁう! そっちじゃない! 頼んでいるのは子守! 」
千里の道も一歩から、こうした地道な努力が後に実を結びます。
「ふふふ、成人して両者合意の元でね? 」
セイランお義母さんから許可出ました! 後はお義父さんです!
「俺は認めないからな? 」
「冷蔵庫の生産販売ですか? 」
ある日の夜、食堂が一段落してから商人ギルドのマスターと名乗る四十代の中年男グライスさんが冷蔵庫を求めドジョ・ドジョを訪れた。
「ええ、是非ともあのレイゾウコを売って欲しいのですよ」
「んー、売るかどうかはヴィヴィアさん次第ですね」
「俺なのか? 」
「ヴィヴィアさんの料理は確かに美味しいですが、失礼ながら今の繁盛は氷の物珍しさの方が勝っていると思うんですよ」
他の店でも氷が使えたらどれだけ客足が離れるか……
「ええ、そのご心配は尤もです。ですので冷製料理のレシピをドジョ・ドジョのスペシャリテとして商業ギルドに登録して冷蔵庫の購入者がレシピの使用料を毎月支払う形を検討しています」
特許権の考え方がこの世界にも有ったのですね。でも……
「俺としては行列で隣近所に迷惑かけたり、混みすぎて常連さんが立ち寄れなくなったから、今より客が減っても構わないんだけどな」
「お客さんが減ったら私がココちゃんと遊べないじゃないですか! 」
「お前、それが本音か!? 」
他に何があると?
「まあヴィヴィアさんの許可が出たので売れますが、値段どうします? アレ水魔法石(☆8)を使ってますよ? 」
「「……え? 」」
あぁ、お義父さんに言うのを忘れてましたね。
二人してフリーズしてしまいました。
「えっと……水魔石(☆2)や光魔石(☆2)を買っていたと聞いていたのですが? 」
おぉ! グライスさんがいち早く自力で回復した!
「それは材料の一部ですね、冷却するメインコアは魔法石です。見てみます? 」
冷蔵庫の上に貼り付いたコアを指差すとグライスさんがジッと見つめ出す。
「うぅ、私の鑑定(☆6)では魔法石までしか見通せない……最低でも魔法石(☆7)か、本当に魔法石(☆8)ならばコレだけで金貨数百万枚に……いや、もう個人で売り買いして良いレベルじゃない……」
「売る金額次第では壊してコアだけ外しますよねぇ」
「妥協案として、氷を作るだけの小型製氷機とか? それでも魔法石(4☆)相当のコアが必要になりますが? 」
「それでもコアが金貨百……売るとなるとソレ以上か。商人ギルドから資金援助を……貸し出しだと盗難が……うーむ」
「冷蔵庫の代金をギルドで肩代わりするのですか? 随分奮発しますね? 」
「実は冷製料理をメイリンの新しい名物として売り出せないかと領主様に頼まれておっての」
メイリンの新しい名物料理ねぇ……
「それで御主人、領主様が一度食べてみたいと申してて、四日後の夜を貸し切りにして頼まれてくれませ
んか? ……御主人? ……御主人? 」
おや? そう言えばヴィヴィアさんの反応が無いですね?
……あー、白目剥いて気絶してます。
軽く叩いて起こしてあげましょう!
「はっ! 俺は何を? って、おい! 魔法石(☆8)なんて俺は聞いてねえぞ!? 」
「御主人そこからか! ずっと気絶してたのか?! 」
「全く、厳つい顔してるのに肝の小さい……」
「顔は生まれつきだ! てか、金貨数百万枚の価値の物と知ったら普通の庶民なら誰だって気絶するわ! 」
そう言うもんですか?
「まあ、魔法石はともかく。私は仕事柄この位の金額なら慣れておりますから、それで御主人、四日後の領主晩餐を頼まれてくれませんか?」
「俺の料理を領主様に? 無理だろ? そんな立派な料理を作ってねえぞ? 」
「ヴィヴィアさん大丈夫ですよ、前例の無い冷製料理なのだから、どんな味でもソレが基本でベースでスタンダードです! 」
「些か乱暴な物言いです、ですが何しろ此ほどの大盛況です。庶民にウケている味として領主様も認めておりますから、いつも通りに気楽に作って欲しいのですが」
「まあ、そこまで言うなら料理するけどよ。領主様相手の接客とか自信ねえぞ? 」
「料理の説明をしたりする程度で良いのじゃがな」
「でしたら、私が接客しましょうか? 」
「……ギルドの方で何とかならねえか? 」
ヴィヴィアさんが私をチラリと見てからグライスさんに向き合う。
それは、なんか酷くありませんかね?
「どうせ話の流れ的に、冷蔵庫の製作者の私も立ち会わされて色々と聞かれそうですし、この後で新しい冷製料理のネタを提供しますから料理の説明係としては打って付けかと? グライスさんには領主様に失礼のない配膳を出来る方を手配して貰いましょう」
「ギルドから配膳係を派遣するのは構いませんよ? 急に無理な願いをしておりますから、それと必要な食材が有るなら遠慮せず言ってください、直ぐにも手配させて貰います」
「普段の店で出せる庶民価格の料理を想定してますから、あまり奇抜な食材は求めません。せいぜいランクの高い新鮮な物を揃えて貰う程度ですね」
「さっきから何でお前が仕切ってるんだよ……」
「はは、歳の割りにシッカリしたお嬢さんじゃないですか」
「逆に何を企んでいるのか……、まさか領主様に取り入ってココを……」
それも良いのですが、そこまで回りくどい事はしませんって。
「酷いなぁ、やるなら商業ギルド長さんを相手に冷蔵庫を十台ほど無償提供するので私とココちゃんの仲を……。とか外堀から順に埋めていく直球勝負しかしませんよ? 」
「全然直球ではない気がしますが、だがそんな提案をされたら商業ギルド挙げて全力で応援させて貰いますよ」
それはありがたいですね! 強力な後ろ盾です。
「お前らなあ……」
「まあ、冗談ですよ……一割ほどは。それで人数や構成は決まっているのですか?」
「九割は本気だったんですか? そうですね領主様とその奥方と御息女。商業ギルドの長の私と冒険者ギルドの長は不在なので冒険者ギルドの副長とでの五人ですかね」
「そこに私とドジョ・ドジョを代表してセイランさんに出て貰ってココちゃんは……御息女は何歳なので? 」
「今年で十歳だったかな? 」
「それなら歳も近いしココちゃんも同席出来ますね。合計八人ですね」
「おい、何で女房やココまで呼ぶんだよ? 」
「店として聞いておいた方が良さそうな会話が予想されますから、代表としてセイランさんを立会に、そうなるとココちゃんが一人で留守番になりますが、先方にも近いお年の御子が居るそうなので同席しても大丈夫かと? 」
グライスさんも頷いて居ますね、やはり食べるだけで『はい終わり』にはならなそうです。
「で、本音の部分は? 」
「私の勇姿をココちゃんに見せると『ミウお姉ちゃん格好いい! 』と好感度がアップするからです! 」
「お前さんもブレねえ奴だな……」
お褒め頂きありがとうございます。
「誉めてねぇよ! 」
此処まで読んで頂き、ありがとうございます。




