1、暗闇と女神と
初投稿です、おぼろ豆腐なメンタルでビクビク投稿しています。
生暖かい目でよろしくお願いします。
漆黒の空間に仄かに淡くぼんやりとした光が浮かんでいる。
それはまるで水の中に漂うかの如く、僅かに揺らいでいた。
一瞬? それとも数十年経ったのか、やがてその光は人の形を取り、両手で頭や胴を触り確かめだす。
"これは何? ここは何処? 私は? あぁ……そうだった……夕方にコンビニに行く途中の交差点で……私、あの時に自動車に轢かれたんだ……"
どうやらその人の形をした光は死んだ人間で生前の記憶を取り戻したようだ。
"死んだら無になるとか聞いた事もあったけど……まさか意識があるまま放り出されるとは思いもしなかったな。ねえ? 誰か居ないの? "
何処かの誰かを呼ぼうとしても声が出ていない、そもそも肉体自体が存在しない光の集まりだった。
何度も頭や体を触っているが、その手は何の抵抗もなく身体を素通りしてしまう。
"ずっとここに居てもなぁ、何処かに行きたいのだけど……"
その人の形をした光が歩き出し更に走り始め、ついには泳ぐように体を動かしているが、その周囲は何もない漆黒の世界。
比較する物が存在していないので本当に移動しているのか本人にも判ってはいなかった。
"困ったわね、でも疲れないしお腹も空かないのがまだ救いなのかな? "
そしてまた一瞬なのか数十年なのか、もしくは何百年なのか判らない時間が経過する……
人の形をした光はまだ真っ暗な空間で手足を動かしてジタバタしていた。
"結構進んだ気もするし、全く移動していない気もする…。ここに来てから何時間経ったんだろう……さっき来た気もするし、何年も居る気もする……気もする……ばかりね"
本人は気が付いていなかった、此処は魂の世界、地球での物理法則が通用しない世界。
人の形をした光は既に光の速度を遥かに超える速度で移動していた。
やがてその人の形をした光の進行方向に小さな光の点が見えてきた。
"アレは光? やっと何かあったー! "
一瞬だった、いや一瞬にも満たない時間だっただろう。
小さな点の様な光が爆発的に膨張し、人の形をした光がそこに激突し止まった。
それは人の形をした光を平均的な人間の大きさとするなら、二十メートル程の大きさの球だった。
実の所、あまりにも速すぎた移動速度のため光を認識した時には激突していたと言うのが正しい。
もし、進行方向にコンマ数度のズレがあったなら激突する事もなく光の点は遥か後方に消えていただろう。
"え? 何が起こったの? あの光にぶつかった?…あ、私の身体の中に何かが流れ込んで来る……暖かく、心地よく、蕩ける様に、なのに力強く……なにコレ美味しい! ……何かが私の全身に染み渡ってくる! "
人の形をした光はその甘美な感覚に身を任せ、身体全体で堪能した。
《あらあら、まぁまぁ! こんな所に迷い込んじゃってたのね? 》
そんな少し気の抜けた、でも優しげな女性の台詞が何処からか聞こえた時、その世界は白い光で溢れた。
《身内の失態で貴女の魂が届かなくて……待たせちゃってごめんなさいね、えぇっと、神崎美羽さん……よね? 一寸その球から離れて話を聞いて貰えます? 》
いわゆる女神! っと言いたくなる容貌の美しい女性が人の形をした光を指しながら話しかけてきた。
"もうチョット、あと一口! "
神崎美羽と呼ばれたその人の形をした光はまだ甘美から抜け出せないようだ。
《かなり減っちゃったわねぇ、貴女の魂を元の世界の輪廻に戻して転生さたかったのだけど……》
女神が神崎美羽をやっと引き剥がした時には光の球はおおよそ一メートル程だった。
"え? 戻れるの? やっぱり此処は死後の世界?生き返れる? "
《生き返るのは無理ねぇ、記憶もリセットされて赤子から始まるわ》
《それに此処にいる時間が長かったから、今すぐ帰しても貴女の死後三千年は経ってるわよ? 》
"さ……三千年かぁ……きついなぁ。知り合いも生きてないだろうし、いや記憶も無くなるのか……でも、科学技術が発達してるだろうし…転生悪くないかも? "
《そうしたいのだけど……ごめんなさいね、貴女が触れたあの光は貴女の居た世界とは別の世界なのよ》
"はあ……この光の球は地球とは違う別世界…へぇ、やっぱりそう言うの在るんだ……"
《そう、でね? 貴女は美味しい美味しいと言って、あの世界ヴィラネルからエネルギーを吸収しちゃったのよね。しかも大量に! 》
"え? アレって世界のエネルギーだったの? しかも吸収した?! どの位ですか? "
《大雑把に九十九%かな》
"……Oh"
《最初はこれ位はあったのだけど》
そう言って女神は二十メートル程の円を中空に描く。
《それが今では……ソレ》
指差した先には一メートル程のサイズになった別世界ヴィラネル。
"まぁ……随分とコンパクトになられて……"
《凄く他人事に言って……、確かに此方にも色々と不備がありましたが直接な原因は貴女ですよ? 》
"いや……不可抗力ですが……はい……美味しかったです、でも何でこれだけの量を私が吸収出来たのでしょう? 身体も大きくなった気がしませんし"
《例えるなら、水の詰まった風船ヴィラネルに美羽さんという針が突き刺さって勢いがついて一気に抜けたのね、美羽さん自身もそれを美味しく頂いたから……かな? 身体の方は魂のイメージが残っているからそれに倣ったのね、ここは物理法則がそれ程あてにならない空間だからね》
"んーでも、急にそんな変動があって、この世界は大丈夫なのでしょうか? "
《まぁ、閉鎖系内で全てが同時に縮小変化していますし内部時間との誤差もありますから世界的な混乱は……それほどありません大丈夫です、多分》
"多分って……少しはあったのですね……"
《でね? 今の貴女は魂と世界エネルギーが混ざり合っちゃってるのよ、だから貴女の魂から吸い取った量をそのまま回収しちゃったら残った魂の量では貴女が貴女で無くなるし、それにそのままエネルギーをこの世界に戻すと、この世界は貴女の魂で出来てるとか、見てて面白い状況になっちゃうのよね》
女神はケラケラと笑いながら今の状況を語っている。
"いや、面白がらないで下さいよ"
《それで、貴女にはこの世界に行って持っているエネルギーを拡散して欲しいのよ、分かり易く言うならこの世界で暮らしてて欲しいの、その世界の中で生きて暮らしている肉体からならエネルギーの放出も楽になるはずだからね》
"でも生きて暮らしているだけで、世界規模のエネルギーとか出せるのでしょうか? "
生前の行いを思い返してもそれほど生産的な事をしてない美羽はそんな疑問を投げかけた。
《この世界は貴女達の世界で言うファンタジーな世界で魔物とか魔法が存在するの、普通に生きて暮らすだけでも魔法として前に居た世界より大量のエネルギー放出が出来るわ》
"つまり……その分かなり危険な世界だと…放出し終わる前に死んでしまったらどうなるんですか? "
《そしたらそこから無制限に放出が始まって結果として世界にエネルギーが還元される……のだけど》
"……のだけど? "
《エネルギーの残量次第ね……転生間もなくだと、ヴィラネルが何百回か消滅する量が一気に放出するわねぇ……》
"いやいや、何その最終兵器! 私の死が世界の滅亡? "
何しろ今のヴィラネルを構築するエネルギーの約八千倍を内包する存在である。
《頑張って長生きしてね? 》
"何と言う事でしょう。"
此処まで読んで頂き、ありがとうございます。