第七話 形骸化したランキング
そして数ヵ月後――。
「だめだ……。
どんなにがんばっても、納得のいくシーンが書けない」
今日もナロウは、机に置かれたノートパソコンの前でうなだれます。
「納得どころか……。
みんなにも知らせていない、鍛錬用の新規アカウントで書いた小説なんて……」
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「ひどいな、これ……」
無惨――。
その一言に尽きます。
ですが小説家になろうを長らく利用している人たち――否、インターネット上に存在する、様々なSNSを利用している人たちは知っています。
――これが相互も複垢もおこなわない、本来のありようなのだ、と。
「……」
技術力の高さ、作品の面白さを競うものではなく――。
出版社をふくめた組織力を競い合うだけのランキング……。
しかしながら、それは小説投稿サイトに限ったことではありませんでした。
「大手通信販売サイトであるAmazonのランキングを眺めてみると……。
小説投稿サイト発のライトノベルは売れているようにみえる」
まったくの無名にもかかわらず――。
発売当日から、超有名な漫画家たちよりも、はるかにランキングが上……。
なぜこのような現象が、ひんぱんに起こるのでしょうか?
「それをなすためのカラクリが、いわゆる空発注……」
空発注(架空発注)とは――。
著者、あるいは自社で作品を発注し、Amazonなどの売り上げランキングを操作する不正行為です。
手数料として、大手通信販売サイトに単価の15%程度を支払うことになりますが、数千万人のユーザーを相手とした宣伝費用としては格安。
発注はするものの発送は行わず、自社には残り75%が戻ってきます。
「単価1000円の本の場合、一冊発注するたびに150円の手数料が発生する……」
単純計算で、百冊の発注で15,000円。
千冊の発注で、150,000円。
一万冊の発注で、1,500,000円。
ですが格安のAmazonだけで工作を行うわけにはいかない(ばれる)ので、有名な書店などでも自腹買いをすることになります。
「そしてPOSデータをみれば、ある程度の販売数はわかるけど……」
POSデータ――。
どの本が何冊売れたのかといった販売データを収集したものがPOS(POS週間コミックと検索欄に打ち込めば出てきます)です。
そして本の売上を見るPOSデータを提供している会社の中には……。
無論、Amazonなどの大手通信販売サイトも入っています。
「大手通信販売サイトで空発注したデーターも反映されるため、実際の販売数はおそろしく低い場合がある」
……実際、相当に低いのでしょう。
この空発注分を取り除き――。
さらに不純なものをすべて取り払ったものが、本当の純利益(あるいは赤字)となります。
「じゃあ、そんな売れないと分かっている作品の初動を――。
いや、赤字となる部分を支えているのは……」
本をだしてくれた出版社?
それとも――。
「あ……」
ナロウがひとつの答えにたどりつこうとしたその時、
「着信……Rさんからだ」
机に置いていたスマートフォンが鳴り、
「もしもし、ナロウくん?」
電話の向こうにいるRさんは、青ざめた声を送ります。
「どうしたんですかRさん。
……なにかあったんですか?」
「う、うん……。
本当は、ナロウくんには伝えないように口止めされていたんだけど……」
しばらく沈黙していたRさんは、
「実はね、ユウマさんが……」
重くなった口を開き、ナロウは告げられた言葉に声を失いました。