第六話 失ってしまった翼
ユウマさんの出版が決まった夜――。
「ユウマさん、本当におめでとうございます」
「ありがとうナロウくん。
ぜんぶ君のおかげだよ」
ナロウたち相互クラスタは竜宮城へと集まり、盛大な祝賀会を行います。
「なんだか……いまも夢の中にいるみたいだよ」
と、ユウマさんはつぶやき、
「夢なんかじゃないですよ。
ようやくユウマさんの苦労が報われたんです」
「ナロウくん……」
「だから今夜は祝いましょう。
小説家になろうで戦い続けてきたユウマさんの成功を!」
「ああ……。
ありがとう、ありがとう……!」
ナロウからビールを受け取ったユウマさんは、涙ぐみながら笑顔を向けます。
そんなさなか――。
「やあやあ!
みんな、ジャンジャン飲んでいるかね!」
「外道編集さん!」
「そうです!
私がユウマくんの作品を担当させていただく、○○出版社の外道編集です!」
すでにネクタイを額に巻いていた外道編集さんは、
「おめでとうユウマくん!
ようやく長年の悲願が叶ったね! ――グビグビッ!」
「う、うぅ……。
ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
さっそくタダ酒を浴びるように飲み、嬉し泣きするユウマさんを祝福します。
「本番はこれからだけど、今日は祝おうじゃないか!
さあみんな、今日はガンガン(ぼくは一銭も払わないけど)楽しんでくれたまえ!」
そして大歓声とともに、相互クラスタ仲間たちは大はしゃぎし、
「やあナロウくん。
ずいぶんとユウマくんの作品に貢献したみたいじゃないか?」
ナロウの横に座った外道編集さんは苦笑し、
「いえ、そんな……」
「はは、謙遜しなくてもいい。
見事なセルフプロモーションだったよ」
口元に笑みを浮かべながらも、魑魅魍魎が巣食う世界で生きるプロの横顔をのぞかせます。
「相互評価や複垢……。
人によっては非難される裏技だけど、あまたの作者や作品で溢れかえる小説投稿サイトで生き延びるためには必要な方法だ」
「……」
「それができるか否か……。
君たちは恥も外聞も捨て去り、名を捨てて実を取ったということさ」
そしてビール瓶を手にした外道編集さんは、一気に飲み干し、
「ちなみにナロウくん。
最近、自分の作品は書いているのかい?」
ふいに話題を転じます。
「僕の作品、ですか?」
「ああ。
初めて会ったときに、ぼくは君の作品を読むよと約束したよね?」
そして一拍の間を置いた外道編集さんは、
「なかなかに面白かったよ。
ただ、まだ物語の中盤あたりまでしか書かれていないため、最終的な判断は下せない」
「最終的な判断、ですか?」
にこやかにほほえみ、ナロウは彼が口にしたフレーズにとまどいを見せます。
そして――。
「そう……。
君の作品を出版化する用意が我々にはある、ということだよ」
「え、ええ!?」
外道編集さんの言葉に、ナロウは驚きの声を上げ、
「本当ですか?
外道編集さん、本当にナロウくんの作品も出版されるんですか!?」
話を途中から聞いていたユウマさんは飛び上がります。
「ああ、本当だよユウマくん。
ほんと、君のクラスタは有望な人材が揃っているね」
「や、やった……。
やったな、ナロウくん!」
「え、ええ……。
でも、それじゃユウマさんの作品への応援が……」
「ナロウくん、なにをいっているんだい。
俺のことはかまわず、これからは自分の作品に打ち込むんだ!
そして一緒に、サクセスロードを歩んでいこう!」
我がことのように喜ぶユウマさんの姿に……。
「わかりました。
僕、書籍化に向けてがんばってみます!」
ナロウは決意を固めます。
そして意気揚々と自宅に戻り、朝を迎えたナロウは……。
「小説が……。
書けなくなってしまっている」
真っ白なままのテキスト画面を眺めながら、力なくつぶやきました。