第五話 祈りのかたち
――そして半年後……。
「Eさん。
育ててきた複垢で、Mさんへの評価とレビューをお願いします」
「わかったよナロウくん。
しかし……一度投稿したレビューを削除して、新たに投稿しなおすのが禁止にされたのは痛いね」
ナロウの指示を受けたEさんは、ため息まじりにつぶやきます。
「ええ、レビューを投稿するだけで、爆発的にPVが増えていましたからね。
僕ら相互クラスタに対する苦肉の策ではありますが……累計作品などをカモフラージュ代わりにブックマークし、育ててきた複垢なら問題なくレビューできる。
無論、複垢を大量生産して評価をつけることも――ブックマークを付け直して、また2ポイントの評価を得ることも簡単に」
微笑んだナロウは、しずかにそう答え、
「ナロウくん。
宇宙SFジャンルに登録している、Jさんの作品の打ち上げはどうする?」
指示をあおいできたRさんに対し、
「いえ、PVとユニークだけは自働的に増やしつつ、三日ほどランキング外に沈めましょう。
さすがにこれ以上の占拠を続けると、他のユーザーに怪しまれてしまいます」
「……賢明だな。
わかった、Jさんにはそう伝えておこう」
今日も的確な指示を送り、小説家になろうに登録しているユウマさんの作品を開きます。
(よし……。
僕ら相互クラスタ以外の評価も、だいぶ増えてきたようだな)
相互クラスタメンバーを効率的に動かし――。
小説投稿サイト、そして大手通信販売サイトを操作する。
「そういえばRさん……。
先週に出版された、TさんのAmazonレビューの様子は?」
「ボクらが書いた☆5レビューと……。
あ、☆1の批判的なレビューが書かれているッ!」
「潰しましょう。
全員に通知を送り、『このレビューは参考にならなかった』と操作するよう伝えてください」
「了解。
ボクらが出版するためにも、Tさんには出版社への根回しをやってもらわないとね」
そしてRさんは、LINEにメッセージを打ち込みはじめ、
「まるでゲームみたいだな」
ユウマさんの作品に評価を終えたナロウは苦笑します。
この半年の間……ナロウは相互クラスタ仲間から、小説家になろうに関する裏の知識を吸収してきました。
それもすべて――。
苦悩するユウマさんの作品を、世に送り出すために。
「ツイッターでの宣伝方法も変わってきたよね。
ツイートのタグに「#rtした人の小説を読みに行く」とつければ、作者さんが読みに来て感想や評価をつけてくれるし」
Eさんは、それもまた相互評価だといわんばかりに苦笑し、
「そうですね。
もともと小説投稿サイトという場所は、作者さんが多く集まっている場所です。
読み専を名乗る人もいるけど……実は大半が作者さんの複垢で、相互仲間しか評価していなかったり」
そう返答したナロウは、いったん言葉を切り、
「ゆえに小説投稿サイトでは、作者同士の交流が重要となります。
下手に縄張りを争うよりも、効率的に相手を取り込む――あるいは共存し、宣伝活動を行うことによって上位を維持することができる。
本質的には、ブログなどのSNSとなんら変わりはないのですよ」
「そうだね。
たしかにそのとおりだ」
ふたりの話を聞いていたRさんは、ウンウンとうなずきます。
そして、深海の秘密基地の扉がゆっくりと開き――。
「あ、ユウマさん!」
現れた人物の姿に、ナロウは目をかがやかせます。
「やあナロウくん。
それにみんな、今日もがんばっているようだね!」
なにやら上機嫌のユウマさんは、ナロウの肩をばんばんと叩き、
「ユ、ユウマさん。
なにかいいことがあったんですか?」
いつもとは違うユウマさんの様子に、ナロウは戸惑いをみせます。
そんなナロウに、おだやかに微笑んだユウマさんは――。
「うん。
実はさ……」
「?」
「○○出版社から……。
俺の作品が、出版されることになったんだよ!」