第四話 かけがえのない人のために
オフ会のあと――。
「大丈夫ですか、ユウマさん」
「ああ、ごめんごめん……。
すこし飲みすぎてしまったみたいだ」
ナロウは酔いつぶれてしまったユウマさんを自宅まで送ります。
「ああ、ここが俺のボロアパートだよ。
お、おっとっと……」
「危ないですよユウマさん!
お部屋まで送りますね」
「すまないね……」
そしてナロウは、部屋の鍵を開け、
「ユウマさん、酔い止めのお薬はありますか?」
「ああ、隣の部屋の棚の中に……」
「わかりました。
少し待っていてくださいね!」
ユウマさんを布団に寝かせ、いそぎ隣の部屋へと向かいます。
「あれ?
どうして別のパソコンが動いているんだろう」
が、ユウマさんの部屋に置いてあったノートパソコンとは別のパソコンの姿に、
「これは……」
小説家になろうに投稿されている作品のページを……。
常駐させているソフトによって、めまぐるしく切り替えている――。
「ああ……。
ナロウくん、見てしまったのか」
「ユ、ユウマさん……」
ふいに背後から聞こえてきたユウマの声に――。
悲しみの色を浮かべた彼の表情に、ナロウは言葉を失います。
そう、ユウマさんは――。
IPアドレス変更ツールを動かしながら、自分の作品へのアクセスを自働的に増やしていたのです。
「こうすることでね。
PVやユニークユーザーを水増しして、検索のおすすめ順に載りやすくなるんだよ」
「……」
「そして自分の作品は、こんなにもたくさんの誰かに読まれているようにみせかけ……。
はは、こんな話をしてもつまらないか」
まなじりに涙をためたユウマさんは
「そう……。
これが俺の……ポイントの奴隷となった俺の正体なんだよ」
「ユウマさん……」
ぽつりぽつりと、罪の告白をはじめます。
「ライターとして出版社に雇われ、お情けでランキングには打ち上げてもらっている。
だけど、それだけじゃ足りない。
本当の読者をもっと増やさなければ、貧乏人の俺が出版することは許されない」
「……」
「そのために相互クラスタを作った。
何千、何万と作者が存在する小説家になろうの海で注目され、生き残るために。
――書籍化したいという、たったひとつの俺の夢をかなえるために」
「どうして……そこまでして」
ナロウの問いに、ユウマさんはしばし沈黙し……。
「自分の魂を形にして、このせちがらい世の中に残したかったんだ。
十年以上の歳月を捧げた証を……どうしても形のあるものにしたかった」
自嘲したユウマさんは、
「……ナロウくん、俺に失望してしまっただろ?」
しずかにナロウに問い、
「いえ……」
「いいんだよ同情しなくても。
自分でもクズな行いをしていることは、よくわかって――」
「僕は、ユウマさんを応援します!」
予想外の答えに、焦燥しきった顔を上げます。
「ナロウくん……」
「たいした力にはなれないかもしれないけど……。
ユウマさんを助けるためなら、僕は複垢だってなんだってします!
だから、こんなところで折れてしまわないでください!」
下唇を強くかみしめたナロウは、
「あなたは……。
はじめて僕を、応援してくれた人なんだから」
その日、かけがえのない恩人のために尽くすことを心に誓いました。