第三話 追い求めし夢
竜宮城でのオフ会――。
「ナロウくん、最近調子いいね!」
「あ、ありがとうございます」
さきほどまで腹踊りをしていたYさんが、白ブリーフ一枚姿のまま語りかけ、
「なろうでポイントを取りつづければ書籍化されるよ」
「え? そうなんですか!?」
「うん。
だいたい三万ポイントくらいが目安だね」
「三万ポイント……」
途方もない数値に、ナロウはうつむきます。
「な~に。
俺らも付いているし、ナロウくんならすぐに到達できるよ」
と、そこに一巻打ち切りを食らったRさんが、やけくそで全裸となりながら加わり、
「そうそう。
ナロウくんの作品は、正直ぼくらより面白いからね」
トイレットペーパーをまきつけたEさんが、伝説の宴会芸『ミイラ魚』を披露します。
「そういえば……。
ユウマさんは、普段はどんなお仕事をしてらっしゃる方なんですか?」
ナロウは照れ隠しに話題を転じ、
「ああ、彼は……」
気まずそうに顔を見合わせた相互クラスタ仲間たちは、
「もう十年くらい、○○出版社のライターをやっているんだ」
と、ためらいがちに答えます。
「え!?
すごいじゃないですか!」
ナロウは驚きますが、
「そういやユウマさんって、他にもいくつかアルバイトをやっているよね?」
「うん……」
「……どうしても書籍化の夢を諦められないみたいだからね」
他の三人の表情は暗く――。
いつもに比べて元気がないユウマさんの姿を、ナロウは心配げにみつめます。
そんなさなか――。
「あ、外道編集さん!」
「こんばんは!
○○出版社の、外道編集です!」
(うわ……本物の編集さんだ!)
突如あらわれた編集者を名乗る男の姿に、ナロウは言葉を失います。
「外道編集さん、そろそろ俺の作品を書籍化してくださいよぉ」
そしてユウマさんは、泡立つビール瓶を外道編集さんに手渡し、
「いやー、困っちゃったなぁ……はっはっは」
「まー、まー、まー、まー、
ささ、まずは駆けつけ一杯ッ!」
「いやー、困っちゃったなぁ(フヒヒ、今日もタダ酒ゲット!)……グビグビッ!」
「いよッ!
外道編集さん、いい飲みっぷりッ!」
(よかった……。
ユウマさん、すこし元気を取り戻したかな?)
ナロウは恩人のはしゃぎように微笑み、安堵感を覚えます。
そして――。
「やあやあ。
君がユウマくんたちの新しいお仲間かい?」
ナロウの横に座った外道編集さんは問い、
「は、はい!
ぼぼぼ、僕、ナロウと申します!」
ナロウは緊張しながら答えます。
「なるほどなるほど。
ちなみにだいぶ若いけど、いまは一人暮らしなのかい?」
「は、はい」
「ふ~ん……。
で、ご両親はなんのお仕事をしているの?」
退屈そうに鼻をほじくりはじめた外道編集さんでしたが……。
「えっと……。
田舎で旅館やホテルなどを経営しています」
「なんと!?」
耳にした言葉に、とつじょ両眼を怪しく光らせ、
「――ちなみに年商は?」
「え、えと……。
そこまではわからないので、今度聞いてみます!」
ナロウは彼の思惑に気付かないまま、元気良く答えます。
そんな世間知らずな稚魚の背中を叩きながら――。
「いや~、
いいね君、すごく気に入ったよ!
――今度ぜひ、ナロウくんの作品を読ませてもらうよ!」
「ほ、ほ、ほんとうですか!?」
外道編集さんの御言葉に、
(すごい……。
このグループに入って、本当によかった!)
ナロウは尾びれを激しく動かし、感激に打ち震えていましたが、
「……」
暗い陰を落としていたユウマさんの表情に、気づくことはできませんでした。