勇者辞めますか?それとも人間辞めますか?
主人公は勇者(予定)。
この物語は勇者のひとり語りです。
異世界とか行ってみたいけどちょっと怖いですよね………私だけでしょうか?笑
◇
俺は勇者だ。
俺は勇者だ。
重要なことだから二回言った。
勇ましい者と書いて勇者。
いや、もちろん名前じゃないぞ?
さすがに勇者が名前は嫌だ。
勇者ってのは、まあ称号みたいなもんだな。
え?なんで勇者してるのか、って?
そりゃーまぁ、あれだ!召喚されたんだよ。
流行りの異世界召喚ってやつだな。
驚かなかったのかって?
そりゃもちろん最初は驚いたさ。
でもすぐ順応したけど。
わりと受け入れは早かったな。
それでまぁあれだ、「この世界をお救いください勇者様」
テンプレだよな。
あ、期待はするなよ………さっきの台詞吐いたのは男だ。
がっかりだよ。
閑話休題ー。
さて何か聞きたいことはあるか?
え?勇者って儲かるのかって?
この守銭奴どもめ。
そうだなー、召喚先の世界にもよりけりだとは思うが、俺のとこはわりと貰える。
まあ、何だかんだで俺、この世界で一番強いし多少はね?
特に何の努力しなくても強くなれるチート最高すぎか!
やっぱ公務員………もとい、勇者は安定してていいわ。
それに行く先々で特別待遇。
尊敬の眼差し?っていうの?
あれ気分いいね。
あと女にもモテるモテる。
こんなにモテたのはじめてだと思うわ。
あー、もう元の世界には帰りたくなーい。
ビバ勇者ライフ。
◇
ーと、思ってた時期が俺にもありました。
マジでブラック。
勇者が戦奴隷とは言ったものだ。
あれから5年。
俺はこの5年でどれほどの功績をあげてきたか。
この5年でどれくらいの敵を殺してきたのか。
もう忘れた。
忘れるぐらいに殺して殺して殺しまくった。
そして今では片手間に悪魔を殺せるようになった。
いや、なってしまった。
そしてー。
今日、俺はついに魔王を殺した。
◇
久しぶりに王都に帰還した。
皆が歓喜で出迎えてくれる。
ありがとう。ありがとう。
だが俺が一歩足を進めると、民衆は一歩後ずさる。
もう一歩、そしてもう一歩。
すると一人が背を向けて走り出した。
それが合図だったかのように、次々と走り出した。
「オ、オイ、オイ………マテヨオマエラ」
しかし誰も待ってなどくれない。
しばらくして王宮から兵士がやって来た。
彼らは全身をフルアーマーで覆っている。
なんだなんだ。
なぜ俺を囲む?
なぜ剣を、槍を俺に向ける?
俺が呆気に取られていると、馬に乗った階級の高そうな騎士が躍り出てきて、震える口を開いた。
「ど、どこからきたんだ………出ていけ化け物」
化け物?俺に言ったのか?
なんだよその目は。
それじゃあまるで………。
「オレガバケモノミタイジャナイカ」
そう叫ぶと、剣が、槍が、一斉に俺に向かって突き出された。
「ナニスルンダ!」
ー。
次の瞬間、通りは人馬の骸で埋まっていた。
殺してしまった。
人間を。
殺してしまった。
誰が殺した?
あぁ………俺か。
辺りがだんだん騒がしくなってくる。
遠くに応援の兵士の一団が見えてきた。
もうここにはいられない。
受け入れてもらえない。
「………」
俺は逃げるように街を出た。
◇
俺はこの5年の間、強さを求め続けた。
当然だ。
強くならないと命が危ないのだから。
そして俺が持つチートが、俺の力を予想よりもはるか高みに導いた。
より強く、よりたくましく。
背が伸び、体表は黒ずみ、筋肉は異常なほどついた。
しかし容姿の変化を、力の強さを、魔力の量を。
異常だ!と言ってくれる人などいなかった。
当然だ。
5年もひとりで魔物や悪魔と戦っていたのだから。
敵に勝つには、魔王に勝つには、人間を捨てないといけない。
そして俺は、
人間を捨てたたのだ。
10年の月日が流れ、
俺は勇者に殺された。人間を捨てた勇者に。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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