8話『勇者一行の新たな旅立ち』
「よし、じゃあとりあえず、占い師のはあさんの所にいってステータスを確認して、防具屋でオルカの装備を整えよう。」
勇者キオトはオルカを肩車しつつ、旅の支度を始めた。
「怖くない。怖くないけど、高いよぉ。」
「ところで、シド。さっきから何を読んでるんだ? 」
遊び人シドは、何やら書物を開いて調べものをしているようだった。
「あぁ、求人情報誌です。流石に遊び人じゃあ勇者さんの旅のお力にはなれないだろうなあと思って。」
遊び人シドは、最後のアイデンティティすら手放そうとしていた。
「ちょっと、待て。それも今のステータスを確認してからにしよう」
勇者一行は町外れにある、占い師の館を訪れた。
「まぁ、可愛らしいお嬢ちゃんね。おばちゃんと一緒に奥でお菓子食べよっか」
「わーい。おばちゃん大好きぃ」
まるで孫娘を溺愛する祖母のように、緩みきった表情でばあさんが出迎えた。
「最初に会った時の、威厳と風格が皆無だな」
「うるさいわい。もう出番も無さそうじゃったから、休んでおったのに何の用じゃ」
「一度、パーティーのステータスを確認したかったのと、これからの旅のヒントが貰えればなと思って」
ばあさんは、魔法使いにメロメロだった。
「オルカちゃん、可愛いわー。うちの子にしたいくらい」
「って話を聞けよ」
「あー、はいはいそこの水晶玉でも覗いてみればいいじゃろう」
「オルカちゃん、お小遣いあげるわよ」
「わーい、おばあちゃん大好きぃ」
ばあさんが幼女と戯れている間に、勇者はステータスを確認した。
「なになに、俺とオルカはレベル99のままで呪文も忘れてはないな。シドは遊び人レベル1に戻ってるし呪文も全部忘れてるな。オルカは力と体力が下がってるが、賢さは変化なし。シドは体力とかは変わってないのか」
「勇者さん、私の名前ってシド・バーノンなんですね。今、気づきました。」
「あたち、こんなんでレベル99なのね。」
それぞれが好き勝手な事を言っていると、ばあさんが箱を持って戻ってきた。
「そうじゃ、オルカちゃんの装備なら娘の為に買った服があるわい」
「それは助かるな。いつまでも裸だと、防御力が不安だったんだ」
ちなみに、裸ではなく、オルカはちゃんと旅人の服をリサイズしたものを装備している。
「これじゃ。サイズはぴったりじゃと思う。」
箱の中には、原色で派手目の衣装が入っていた。
「これって」
シドは何やら見覚えがあるようだった。
「これはあれだな」
無理やり着せられたオルカを見て勇者も思い出した。
「たしか、娘が着たがっていたプニキュアとかいう都会の魔女っ子の衣装じゃ」
「どう?」
「ポーズを決めるな。そして、泣くな」
オルカは、成人女性として何か大事なものを失った気がした。
勇者とシドは、オルカを占い師に押し付けて防具屋に向かった。
「勇者さん、思ったんですが。オルカさんを旅に連れて行くのは無茶じゃないでしょうか」
「うーん、とりあえず魔法は使えるし。他に仲間になりそうなキャラも居なかったしなぁ」
「そうですか。私も転職して勇者さんの力になりますよ」
「うん。もう好きにしたらいいと思うよ」
防具屋では、比較的地味な魔法使い用のキッズローブと帽子を購入し、高価なシルクのローブを売却した
「防御力はたいしたことないが、あれよりはマシだろう」
「そうですね。」
二人は、占い師の館に戻って、オルカと合流した。
「カボチャパンツは仕方がないとして、このローブ少し短かすぎない? 」
「あぁ、それは小さい子が裾を踏んずけて怪我をしないように短かくしてるって防具屋のお姉さんが言ってた」
「もう、あたちを子供扱いしないでよ」
「ばあさんから貰ったお菓子をポケットに入れながら言っても説得力がないよ」
なんとか装備を整えた勇者一行は、一度勇者の生家に戻ってきた。
「封印を解くぞ。」
「うがー。苦しかった。キオト、実の親を化け物やゴミ扱いしおって」
「いや、それは親父が変態なのが悪いだろ」
「仕事から帰ってきて自分の家のトイレに入っただけで変態はないだろ」
「本当に、このひとはキオトのお父さんなの? モンスターじゃないの? 」
オルカは、まだ疑わしい目で見ていた。
「親父、この剣装備できるよな」
「ああ、元勇者だからな」
毛むくじゃらの化け物は、勇者の剣を装備した。
「勇者っていったい………」
新たな決意を胸に、勇者一行は、魔王討伐の旅を再開した。