6話『勇者一行のさらなる異変』
遊び人シド・バーノンは呪文や特技を含むほとんど全ての記憶を失っていた。
それは、一度訪れたことのある街や村に瞬時に移動できる魔法ムーバも例外ではなかった。
勇者一行は、あと少しで魔王の城に向かうという終盤において、大きな課題に直面していた。
「ねぇ、これであってる? なんか違う気がするんだけど」
「え? そんなこと言われても全く分からないし、時の神殿はオルカの担当だったし。」
責任をとりたくない勇者キオトは、曖昧な相槌でその場を濁した。
「まだ、試したことない禁術だし。噛まないようにしないとね」
「オルカは本番に弱いからなぁ」
呑気な会話の矛先には、何も知らない元遊び人が待機していた。
「あのぉ、まだですかね? まだ、瓦礫の掃除が途中なんですが。」
「待って、わたし集中する。生麦生米生卵、生麺、のど漉し、生キャラメル。」
大げさな動作で、制止した後、早口言葉を流暢に唱えて見せた。
「あめんぼ赤いなあいうえお。よし、今日はいけそうな気がする。」
「よし、頑張れオルカ!!」
勇者は応援しつつ、二人から距離をとった。
5mくらい先で、勇者が合図をすると同時に、オルカの詠唱が始まった。
「悠久の時を支配する精霊たちよ、この世の理を司る真理の扉よ、我が想いに答えこの身を思い出の姿へと戻どしたまえ、ワンダフルリバース」
空間が渦を巻き、オルカの周囲だけが歪み始める。
強烈な閃光と爆音で何も見えなくなる。
やがて、白い煙の向こうから背の低い金髪の小さな幼女が姿を現れたのを、5m先の岩陰から勇者は見たのだった。