5話『勇者一行と最大の課題』
長い里帰りの1日が終わり夜が明けた。
「おはようキオト 」
幾分かすっきりとした表情で魔法使いが目を覚ました。
「あぁ、おはようオルカ 」
魔力の回復と合わせてトラウマも少し薄れたようだ。
「あ、おはようございます。皆さん。ちょうど朝食の準備が終わった所です。」
台所から、スープの美味しそうな匂いがして、食欲が増す。
台所に立っていたのは短く髪を切りそろえた一見してモテそうな優男だった。
本当は遊び人だった。
「もしかして、記憶戻ってない? 」
「すいません。残念ながら。何も覚えていないみたいです。」
「そっかぁ、何もかぁ」
オルカは少し後ろめたい気持ちになった。
「というか、何もって事は呪文や特技も? 」
「あ、はい。トッピングにネギ入れますか?」
「ありがとう。待ってじゃあ移動魔法は誰が使うのよ? 」
「シド君、ありがとう。オルカが使えばいいんじゃないの」
「無理。あれは遊び人の上級魔法だもの」
「それじゃあまた、歩いて大陸横断、山越え、海越えすんの? 」
「それは嫌過ぎる」
シドの記憶喪失は予想以上の懸念事項になりつつあった。
「状態異常回復魔法は? 」
「無理。一晩寝て治らないなら呪文でも治らない。」
「もう一度殴って治らないかな。」
「今度は意識不明になったりして」
物騒な会話が自分の事とは知らず、シドは食器を洗い始めていた。
「そうだ。以前、時の神殿でオルカが習得した禁断魔法があったよね。」
「ああ、時間を戻す秘術ね」
「あれでシドを元に戻せないかな」
オルカはしばらく思案したあとで言った。
「理論上は不可能ではないわね」
この決断が、勇者一行にさらなる大きな災いを招くとは誰も知る由もなかった。