2話『勇者一行と魔法の鏡』
「ただいまぁ」
勇者キオトの実家は、代々勇者を輩出するエリート一家だった。
しかし、父親のブライアンの不祥事で勇者一家はこの村に左遷されてしまった。
元賢者で母親のメアはそれを理由に離婚し、今は離れて暮らしている。
家に戻ると夕暮れ時にも関わらず、照明が消えており、人の気配がないようだった。
「お邪魔します」
「邪魔するぜ☆」
「あれ、おかしいなぁ。親父のやつ出かけたのかな。」
蝋燭に火を灯し、見回してみるがやはり誰も居ない。
「まぁ、気にせずその辺にでも座ってて、今お茶でも淹れるから。」
ベットと箪笥が一つ。割れた壺の破片が無造作に散らばっており、足の踏み場がなかったが、何とか三人は腰を落ち着けた。
「なんだ、歴代勇者の伝説の武器とか、究極の兵器とかあるのかと思ったら湿気てるな」
「うーん、ほとんど売っちゃったし、母さんが持って行ったものも多いからね」
序盤に勇者がグレて割った壺の類はそのままになっていた。
「わたし、お手洗いに行ってくる」
「あー、トイレは外を出てすぐ右の壺だよ」
「中盤で捕まった牢屋よりひでーな」
「うるさい。この村では普通なんだよ」
「きゃーーー」
しばらくすると、外から魔法使いオルカの悲鳴が聞こえた。
「どうした、オルカ。敵か」
勇者たちは武器を持って、外に飛び出した。
するとそこには毛むくじゃらの、得体のしれないモンスターが立っていた。
「大丈夫か、オルカ!!」
「我が主が命じる、漆黒の霧に包まれし冥王の血よ、黒き炎の竜よ、我が宿敵を凄惨な肉塊へと変えよ。ブレスオブフレイム」
ローブをたくし上げたノーパンの姿のままで魔法使いは、究極の魔法を詠唱していた。
「あ、もしかして親父?」
黒い炎の無数の刃が、毛だるまの元勇者の父親に向かっていっせいに飛んでいった。
ふんっ。
鼻息荒く毛だるまが身を翻すと空中に、鏡が現れた。
それはあらゆる魔法を吸収する伝説の鏡であった。
炎の刃は収束し鏡の中に吸い込まれていった。
鏡には半裸の魔法使いがたた映っているだけだった。