1話『勇者一行の帰還』
「わぁ、懐かしいな、ここでヴァニラスライムと最初に戦ったんだよなぁ」
街はずれの、小さな広場で勇者一行が騒いでいた。
これから、魔王討伐の旅に向かうという緊張感など皆無であった。
なぜなら、すでに物語の序盤で主人公達はこの『はじまりの村ラクサス』から冒険をスタートしたのだから。
「あたし知らない。誰よそのヴァニラって娘は。幼馴染設定の序盤で虐殺される彼女かしら」
魔法使いオルカは少し妬いていた。
「ほんっと懐かしいぜぇ。俺が助けに来なかったら。お前、今(数秒の溜め)ここに居ないぜ☆」
遊び人シド・バーノンはちょっとウザかった。
「それにしても変わんないね。敵も雑魚ばっかりだし」
勇者キオトは敵をぬいぐるみのように揉みながら歩いていた。
村の入り口に近づくと、田舎によく居そうな、地味な服装の村人がこちらに気が付いた。
「お、第一村人発見!!」
「シド、それ飽きた」
村人は近づいてくるなり、すごい形相で言った。
「ここは『はじまりの村ラクサス』何もないがゆっくりしていって下され」
「ただいま、じいちゃん。」
「ここは『はじまりの村ラクサス』何もないがゆっくりしていって下され」
「また、ボケが酷くなってる気がする。」
「ここは………」
「孫の顔も覚えてないのかよ」
「さ、冷えるから家に入ろう」
シドは優しく毛布を肩にかけてあげた。
その時一すじの涙が村人の目から零れたが勇者達は全く気づかなかった。