17話「勇者一行と兄弟喧嘩」
さらに一発、重い一撃を受けて勇者の身体が近くの岩に叩きつけられる。
「こんなのが勇者なんて、本当に笑えるよ」
「残念だけど、そろそろ終わりにしようか」
確実にトドメを差す為、光の宝剣が勇者に向けられる。
「あぁ、こんな兄弟喧嘩は、さっさと終わりにしよう」
ぴぃー。
双子の注意が一瞬、シドの吹いた口笛に向いたが、わずかに動作が遅れただけだった。
「我々は夢と同じ物で作られており、我々の儚い命は眠りと共に終わる。テンペスト!!」
勇者が呪文を唱えると周囲の空気がかまいたちとなって放たれる。
「くそ、まだそんな力を残していたのか」
「リオン、油断するなよ。まだ、何か居る」
小さな竜巻の中で、何かが動いているが、それが何なのか双子には解らなかった。
その何かから空気の衝撃波が放たれ、双子を襲う。
身体が軽いせいで、勢いよく吹き飛ばされ樹木にぶつかる。
リオンは、気を失ってその場に倒れ込んでしまった。
「流石に1人でお兄ちゃん達を相手にするのは厳しいな」
もう1人も、負傷している為、戦闘は続けられそうにない。
「まだ、負けた訳じゃないからね。今回は見逃してあげるってだけだから」
子供じみた言い訳にしか聞こえないが、少年は精一杯強がって見せた。
「ああ、兄弟喧嘩なら何時でも受けて立ってやるよ」
勇者の方も、かなり消耗しており、気力だけで立っていた。
「さすが勇者というべきか、たがその状態で私とやり合えるかな」
なんとか双子との戦いに勝った勇者一行だったが大将軍のモーラントがそこに立ちはだかった。
「ちくしょう、これじゃ勝ち目がないじゃないか」
「そんなことはない。勇者殿は十分よくやってくれましたよ」
双子に勝利した為、アトレーは光の宝剣を恐れず戦う事ができる。
しかし、獣人の中でも飛び抜けて戦闘センスの高いモーラントと対峙するのは容易ではない。
「あまり舐めないでもらいたい。たかだか不死身のネクロマンサーなど、生き返る暇も与えず細切れにしてやる」
抜刀したモーラントが、さっと間合いを詰め、アトレーに襲いかかってくる。
「死屍累々!!久遠の陣」
地面から白い手が現れるが、モーラントの刃によって切り刻まれる。
「そんな技は私には効かぬ、死ね!」
アトレーの身体に巨大な刃が突き刺さる。
「だからあなた方獣人は、私には勝てないのです」
刀が刺さった状態でアトレーは何事もなく、前進する。
手には短刀が握られており、力を入れる素振りすらなくモーラントに簡単に刃を突き刺す。
「ふん、こんなオモチャみたいな武器で私を殺せると…う、なんだこれは」
「我が同報の怨念でできた刃の味はいかがですか。苦しいでしょう。シニタクナル位に」
「ぐが、ぐぐおのれ」
モーラントの身体は生きたまま腐りだし、苦痛が全身を駆け回るが死ぬことすらできない。
「畜生風情が、浅知恵で我々を殺せるなどと笑わせる。そして私も、そんな浅知恵で敗れるとはな」
モーラントごと突き刺すように光の宝剣が後ろから伸び、アトレーの身体に突き刺さる。
「すまぬ。カノンよ最後に無様なこの私を殺してくれたのか」
「アナタは立派でしたよ。もっと色々教えてもらいたかった。モーラントさんの悲願は我ら兄弟が受け継ぎます。安心してください」
「頼んだぞ。リオン、カノンよ」
「勇者殿、私、しくじってしまったようです。あと、あれは嘘でした。私が死んでもオルカちゃんには危害は加えませんよ………」
不死の軍団と最強の獣人の闘いは意外な結末となり、勇者一行は何とか生き延びる事ができた。