16話『勇者一行とゾンビカーニバル』
「勇者殿、我々の強みは倒した敵をゾンビ化してこちらの戦力に変える力。そして基本的には死なないという特性です」
「ああ、一度戦った時に嫌ってほど味わったからなぁ」
森までは、出来るだけ戦闘は避け、どうしても戦わなければいけない時は、アトレーの使役するスケルトン軍団が矢面に立つようにしていた。
「ゾンビペンギンとか、ゾンビファルコンとかゾンビコックとかに襲われて大変だったのを覚えている」
「私は覚えてないんですけどね」
シドが付け加えた。
「だから勇者殿は、双子だけに集中してください。光の宝剣が厄介なんです。あれさえなければ獣軍団と渡り合う事が出来る」
「私達がその剣を奪って裏切る事は考えないんですか? 」
「その時は私のゾンビカラスが、修道院にいる仲間に合図して、オルカちゃんが死にます」
「だろうな」
「ちなみに、私が死んでも合図がいきます」
「!?なん………だと」
「そこはまぁ保険というやつです」
「双子に集中しろとか言う癖に、お前を守りながら戦わないといけないってのかよ」
「あ、ちなみに私結構強いんですよ。光の剣には弱いですが」
これから戦闘だというのに、アトレーはどこか飄々とした様子に見えた。
「さぁ、戦争の時間ですよ」
森を一気に駆け抜けて、勇者一行は敵地の真っ只中に居た。
敵をゾンビに変えながら、それでも周囲はもう獣軍団に包囲されつつあるようだった。
「よく来たな。不死の汚れた残党共」
「ここが、お前等の墓場になるだろう」
武装したリザード兵士が曲剣で、アトレーに向かっていった。
「雑魚に用はありません、死屍累々!!」
地面から無数の白い手が現れて、獣達が地面に引き込まれる。
そして、一瞬にして死体の山がゾンビの大軍に変わった。
「確かにめっちゃ強いな、あいつ」
「私達、勝てますかね」
「まずは目の前の敵に集中しよう。どうやら来やがったらしい。双子の天使様が」
「あーあ、こんなに散らかして」
まだ幼さの残る2人の少年は、近くで見ても見分けがつかないぐらいに、よく似ていた。
そして、どことなくキオトに雰囲気が似ていた。
「まだ生きてたの?、そっか死なないんだっけあんた達は」
少年達が剣を真横に振ると、ゾンビ達が一瞬に焼き焦げて塵と化した。
「こいつらか、例の双子。まだ子供じゃないか」
「そういえば自己紹介がまだでしたね」
双子が剣を構える。
「俺がレオン」
「ボクがカノン」
「はじめまして、キオト兄ちゃん。そしてさようなら」
殺気に気づいて、勇者も自分の剣を構えたが、剣を交える暇もなく、レオンに横腹を蹴りあげられる。
地面に崩れる前に顔面を、カノンからも顔に一撃を入れられてしまう。
「勇者さん!!」
一瞬のできごとで、シドは一歩も動く事が出来なかった。
「あはは、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。」
「もう終わりなの? もっと僕らと遊ぼうよ」
倒れている勇者の髪を掴かんで、1人が無理やり立たせる。
かろうじて意識を保ってはいるものの、勇者は自力では立ち上がる事ができていなかった。