15話『勇者一行と不死の軍団④』
隠しきれない血の匂いが辺りに充満していた。
もはや、この建物の中には勇者達の他に生きている者は誰一人いなかった。
「勇者殿。我々はね、あなた方に期待をしているんですよ」
「てめぇら、オルカに何をしやがった」
普段は温厚な勇者キオトは、この時ばかりは激昂していた。
今にもアトレーに飛びかかろうという時にシドがなんとか抑えていた。
この宿の住人と、宿泊客は全て、勇者達が来る前に殺され、アトレーの死霊の舞によって操られていた。
全てはアトレーが仕組んだ巧妙な罠で、目が覚めた時にはオルカは連れ去られていた。
「我々と取り引きをしよう。彼女を無事助けたいなら、我々の敵モーラント将軍率いるネイチャーズと闘ってもらいたいのだ。もう我々には手段を選んでいる余裕はない」
不死王の軍勢は、ネイチャーズとの戦闘により、ほぼ壊滅していた。
数名の残党がアトレー達だった。
「言うことを聞いたとしてオルカの無事が保証されるとは限らない。そんな提案に私達がのるわけないだろ」
「言っただろう。我々にはもう後がない。奴らを倒してくれるなら、すぐにでも娘を解放する。ただし、裏切ればモーラントの前にお前たちを始末する。昨晩のうちにお前達全員を殺す事も出来たが、それをしなかったのがその証拠だ」
オルカを人質にされていては、条件を呑む以外に選択肢はなかった。
「分かった。やってやるよ」
「勇者さん。いいんですか? 」
「ネイチャーズだか何だか知らないが、魔王軍が仲間割れしてるなら、どいつを叩いたって変わらない。それに、こいつらが負けても状況は一緒だ」
「よろしい。娘は近くの修道院で保護させよう。こちらの見張りも付けさせてもらうがな」
「気にくわないが、やるしかないですね」
「いざとなったら、こいつらと戦ってオルカを助けて逃げればいい。とりあえずモーラントってやつを倒そう」
「ネイチャーズは白い森。霊峰ヴィシュヌの麓に、陣地を構えている。我々の中で戦えるのは私と数名しか残っていない」
「勝算はあるのか」
「正直厳しいですが、あなた方がモーラントと双子に勝てば我々にも勝機があります」
「そういうのは作戦って言わないんだよ」
「やるしかないって事ですね」
勇者一行は、アトレーの軍団とともに白い森にむかう事にした。
オルカは人質にとられているので、勇者キオト、遊び人シド、ネクロマンサーのアトレーが主力となってネイチャーズの大軍勢との戦争が始まる。