14話『勇者一行と不死の軍団③』
勇者一行の宿から離れた森の中では、ネイチャーズのリーダーであるモーラントが戦闘の訓練をしていた。
元四天王の一人、大将軍モーラントは獣人族の中でも抜きん出た知力と戦闘力の持ち主だった。
一般的なヒューマンの2倍以上の体格を持ちながら、素早く相手を切り刻むスピードをこのモンスターは兼ね備えていた。
自身の身体よりも大きな刀を背負っており剣術においても他のモンスターの追随を許さない。
森の中で、モーラントは双子達に稽古をつけていた。
双子の兄弟は、まだ10歳にも満たない少年だったが、まだ隙はあるもののモーラントの太刀筋に食らいついていった。
手加減はしているようだが、その動きは常人では考えられない位に早い。
双子の一人が、体術と剣術を組み合わせてモーラントの右足に一撃を入れる事に成功した。
「あはは、凄い。凄いよモーラントさん。俺らがあと一年早く生まれてたら、もっと楽しめたのにね」
「兄さんばっかりズルいよ。僕も遊んでよ」
負けじと、もう一人が身体の小ささを利用して、懐に入り込むが、これは察知したモーラントにかわされた。
「いい動きだ、2人とも強さの底が見えん。流石、勇者の血を引いているだけの事はあるな」
2人は戦いの中で、どんどん技術を吸収している。
「さぁ、来い。もっとだ。」
全く別々の動きをしながら、どこか息があっているのは双子だからだろうか。
ついに、2人の刃がモーラントの首筋にさしかかった。
「ふん!」
しかし、覇気とモーラントの腕力で2人の兄弟は弾き飛ばされてしまった。
「いってぇ」
「いたたたた」
「客人が来た。今日はここまでにしよう」
「ちぇ、もうちょっとだったのに」
「えーもう終わりですかぁ」
拗ねてぶつぶつと文句を言う2人の姿は、子供らしい年相応のものだった。
「お久しぶりですね。モーラント将軍」
何もない空間に、急に影法師が現れて、やがてそれは人の形に変わる。
こちらも、元四天王の魔術師だ。
「やはりお前か。何の用だ」
「クスクス。カノンとリオンですか。こそこそと何かしているとは思っていましたが。実に面白い」
「こそこそ暗躍していたのはお前の方だろう。バサトを魔王にけしかけたのはお前の仕業か? 」
「あの子は野心がつよすぎた。うまい具合に踊ってくれましたよ」
「食えん奴だ、あちら側につくなら真っ先にお前をかみ殺すべきだな」
「私は常に面白いものが見れればそれで良い主義ですので。いいんじゃないですか、魔族の支配からの解放。ネイチャーズでしたっけ? 」
「………我々、獣や植物モンスターは、常に不当に貶められ、魔族に使役され続けてきた。本来なら我々こそが自然界においてもっとも強く賢い生き物であった。今こそ、その地位と誇りを取り戻すべきなのだ」
「素晴らしい。純粋な本能のみで生きるあなたがたの行動原理は見ていて清々しい。そして魔族に対応するために、勇者の赤子を自ら密かに育てていたのですね」
不死の軍団に対して最も有効な手段は勇者にしか装備できない光の宝剣で戦う事だった。
「もういいだろう。これは我々の悲願。お前たち魔術師には解らんだろうな」
「分かりませんね。野心も、悲願も。せいぜい面白いものが見れる事を期待していますよ」
そう言うと魔術師は影の中に消えていった。
「道化師め。気味が悪いな」
悪態をついたモーラントの目には、煌々と森を照らす月が映っていた。