13話『勇者一行と不死の軍団②』
夜の山越えには常に危険がともなう為、勇者一行は、いったん宿屋で休む事にした。
野宿に慣れてはいたものの、レベルの低い遊び人と幼女を連れているので、モンスターに襲撃されてはひとたまりもない。
それにモンスターだけでなく、山賊に襲われる可能性もある。
「まぁ、無理して夜に登る必要はないよな」
「この身体になってから夜は眠くて仕方がないよぉ」
魔法使いは、既にウトウトしはじめていた。
「仕方ないなぁ」
キオトはオルカを背負って宿屋まで運ぶ事にした。
予想通り、関所で先に進めなかった行商人や旅人たちが宿屋には溢れかえっており、どの宿屋も満室だった。
「うーん。泊まれそうにないな」
勇者の背中では、幼女がスヤスヤと寝息を立てていたが、肝心の宿屋が見つからない。
「勇者さん、どうしましょう。引き返すにしても、隣の街まで距離がありますよ」
「勇者殿ー、いたいた。いやー、捜しましたよ」
関所で会った商人風の男が、向こうから近づいてきた。
「あー、先ほどの商人さんですか」
「いえいえ、こんな風体ですが、私も冒険者の一人でして、門の向こうの仲間と合流するつもりだったんですよ」
「そうだったのか。それで、あんなに詳しかったのか」
商人風の男はネクロマンサーのアトレーと名乗った。
「泊まる所がなくて、困っておられるだろうと思いまして。差し出がましいとは思いましたが、私の部屋にご一緒してはどうかとご提案にまいりました」
「すみません。オルカもこんな調子だし。甘えさせてもらってもいいですか?」
「ええ、勿論です。娘さんも風邪を引くといけない。どうぞこちらへ」
勇者一行は、アトレーの泊まっている宿に共に向かった。
「勇者殿の事は前から存じ上げておりました。由緒ある勇者の血を引き、魔王の軍勢と闘っておられると」
「まぁ、今はこんなんだけどオルカも魔法使いとしてはかなり強いしね」
まさか、このあどけない寝顔の持ち主が最強の魔法使いとは誰も思わないだろ。
「とても可愛らしいですね。守ってあげたくなるような可愛らしいさだ」
「起きていたら、オルカさんきっと怒りますね」
なんとか今夜の寝床にありつけた勇者一行は明日の山脈越えにそなえてゆっくり休息をとる事にした。