11話『勇者一行と黒い噂』
王都に近付くにつれて、勇者一行の認知度は上がっていく。
モンスターから姫君を救った英雄として、勇者として魔王と戦う者として期待もされている。
ひそひそ。
「なんだか、居心地が悪いな。」
「すごいですね。有名人はやっぱり違いますね」
シドは、他人事のように言った。
ひそひそ。
「ねぇ、なんか様子おかしくない? 」
「うーん。なんか噂にでもなってるのかな」
「ちょっと話聞いてきますね」
近くにあった店に、立ち寄りそれとなく事情を聞いてみる。
「お、おう。いらっしゃい。勇者のダンナ」
「お久しぶりです。なんかあったんですか? 」
「実は最近、勇者のダンナが子連れで歩いてるってんで、きっと前に一緒に旅をしていた魔法使いの娘との間に子供が産まれたんじゃないかって噂が広まってな」
「そういう注目だったか」
「ワシは絶対そんな事はないと思ってたんですが、勇者のダンナは女性にはモテないって信じてましたから。単に勇者のダンナはロリコンで、幼女を誘拐してきたに違いない。そう信じてましたから。」
「心外だな。確かにモテないけども」
「あと、新魔王が新たに即位して、前魔王は倒されたらしいですよ」
「よし、説明も面倒だしオルカと結婚した事にしとくか。他に相手も居ないし。」
勇者の耳は大事な情報をスルーした。
「なんかヤダ。あたち、まだキスもした事ないのに、いきなり一児の母なんてヤダよぉ」
「その子供が今のオルカさんなんですが。なんかややこしいですね」
「じゃあシドが父親設定にしとくか。」
「えー嫌ですよ。」
「イヤってどういうことよ。こんなに若々しくて美しいあたちに興味がないというの? 」
「確かに若々しいけど、若すぎて興味持ったらアウトだからな」
真実はどうあれ、勇者一行は周囲から変な集団として認知されはじめていた。
新魔王の噂が広まるより先に、伝説の勇者のロリコン疑惑が街中に広まるのは時間の問題だった。