10話『勇者一行の洞窟探索』
勇者一行は、はじまりの街を出発し、次の目的地の王都を目指していた。
もちろん、王都に向かうのも二回目で、前回は洞窟にいって鍵をとってきたり、勇者だと認めて貰うために森に入ってモンスターを討伐したり、突然お姫様がさらわれたりと、イベントが盛り沢山だったので、うんざりするほど足止めされた嫌な街という印象が強かった。
「勇者さん、道そっちじゃないですよ。前に来たときに白地図に書き込んでらっしゃったので間違いないです。」
「いや、書き込んだのはお前だよ。覚えてないだろうけど」
隊列の先頭で、サクサクと勇者が雑魚敵を倒しながら、まん中にオルカ、後ろにシドという配置で洞窟を進む。
「ちょっと、しっかりしなちゃいよ。前に来たんでしょ」
ダンボールの杖で、勇者の背中をばしばしと叩きながら魔法使いがトコトコ付いて来る。
幼児の歩幅では、かなりゆっくりしか進めないようで、王都までの道のりはかなり遠かった。
それでも、一度攻略済みなので、罠や中ボスの心配をせず歩けるだけましだった。
「げ、行き止まりじゃん」
「勇者さん。地図あるのに迷うってどんな才能ですか。」
「うるさい、うるさい。もしかして、取り損ねてるアイテムとかがあるかもしれないじゃないか」
「たぶん、あなたが装備してるものより良い品はこの辺にはないんじゃないでしょうか」
「ねぇ、あれ宝箱じゃない? 」
「本当だ。オルカ開けてみろよ」
「えー、怖いなぁ、よいしょ。」
宝箱は空っぽだった。
「まぁ、そうだよな。」
「なんだか、損した気分になったじゃない」
二回目ともなると、冒険のワクワク感はさすがに半減してしまうのだった。
洞窟の出口に差し掛かり、ストロベリーベアが現れた。
外見の可愛らしさとは裏腹に、凶暴な牙と素早い動きで、初心者の旅人が洞窟クリア直前で瀕死の目に遭いふりだしにもどされる厄介な相手だ。
「お、きたな。熊野郎。」
勇者は襲われないよう身構えた。
魔法使いも形だけ身構えた。
キャシャー、ぐまぐまー。
勇者が剣で爪を受け、素早く攻撃をかわす。
オルカは深呼吸して、魔法を唱えた。
「デス」
ストロベリーベアは消滅した。
「おい、容赦なさすぎだろ」
「仕方ないでちょ、むじかちい、魔法は使えないんだから」
今のオルカにとっての難しい魔法とは、強力な魔法や上位の魔法ではなく、言いにくい魔法や長い魔法の事を指す。
簡単な回復魔法でも、唱える事が出来なければ難しい魔法ということになる。
「やはり、この中で一番足手まといなのは遊び人の私なんですね」
シドは、元の人格が定職に付かずギャンブルと女遊びに興じていた事を心の底から恨めしく思った。
「せめて、私が僧侶か戦士ならもっと活躍できたのに」
「まぁ、遊び人しか出来ないトリッキーな特技もあるから、そうともいえないよ」
「それならいいんですが。」
遊び人が最初に覚える特技は、口笛、しっぺ、かくれんぼ、だったことを勇者は黙っておく事にした。