9話『魔王城陥落』
勇者一行が旅立ちの朝を迎えた頃、魔王城では慌ただしく情報が飛び交っていた。
大魔王グレフィスは、何か余程の事態にならない限りは、いつでもその王座に腰を下ろしていた。
だが、今は立ち上がり、ワナワナと驚愕の表情を浮かべていた。
「なんじゃと、それは本当なのか」
「はい。四天王のうち3名が謀反を起こし、1名はたった今討ち死にしたとの事です」
側近のデビルが次々と、各地の戦況を報告するのを、魔王は一旦制止した。
「大将軍はどうした? 」
「えーと、謀反の張本人との情報があります。動植物系の全モンスターを従えてネイチャーズなる新たな軍閥を指揮し、遺戒の門の番人、アンブレラドラゴンと魔王軍直属の部隊を殲滅したとの事です。」
「大魔術師マフールは? 」
「ふらっと出て行った後、私の美学に反するとおっしゃって同じ四天王の海神リヴァイアサンを殺害し、行方をくらましました。どうやらヒューマンと同盟を結んだとの噂もあります。」
「そうだ、魔王軍の部隊長バサトはどこだ。直ぐに魔王城周辺を固めさせろ。」
「バサト様は、今まさに軍勢を率いて、我が城に攻めいる勢いです。魔王軍内部は、誰が味方で誰が敵が解らない状況でして」
矢継ぎ早に知らされる内部のクーデターの知らせに、誰もが動揺していた。
誰に付くのが正しいのか、早々に逃げるべきなのか、心中では誰もが疑心暗鬼に陥っていた。
「馬鹿者、お前達が騒いでどうなる。ワシが先代より代々受け継げし、正統なる魔王の称号を持つもの。誰が来ようと負けるわけがない。者共、直ちに武装しワシを護衛せよ 」
普段の落ち着き払った魔王の姿ではなく、焦りと恐怖を隠しきれない魔王の様子を見た家来達は不安を抱いた。
「魔王様、ご無礼を失礼いたします。」
家臣の悪魔数人が突然、魔王の背後に回り、強力な封印錠で魔王を拘束した。
「我々は、今この時をもって、新魔王バサト様に仕えます。暫くのち、全世界に向けて発信されるでしょう。」
「な、なんだと。ワイズ貴様も裏切るのか。」
「はい。魔王の名を絶やす訳にはいかないのです。アナタはもう終わりです。」
「おい、そこのお前。元魔王様を丁重に牢屋へお連れしろ。ワシは新しい魔王様を迎えにいく。」
あっけなく捕らえられたグレフィスは屈辱と怒りに狂いながら、引っ立てられた。
僅か1日で、魔王軍は解体され、魔王城は陥落した。
新しい王座に座り、新魔王の継承式が執り行なわれた。
その場で、グレフィスは斬首され、支持者も牢屋に幽閉される。
「ワイズ、よくやってくれた。四天王がそれぞれ動き出した今、いままでのやり方ではあの男共々敗北するのは目に見えていた。これは謀反ではない。新たな魔王による再編を時代が求めた結果なのだ」
「はい。私たちは、この瞬間を待ち望んでおりました。」
「私の部隊は、本日より魔王直下の親衛隊とする。私に付いて来る者は新魔王軍として、階級、血統、種族に関わらず戦果を上げた者に地位と名誉を授けると約束する。来るべき決戦の時までに、各々、刃を磨いておけ!」
もともとバサトの持っていたカリスマ性にくわえて、グレフィスの忠臣も既に仲間に引き込んでいた。
その他の勢力には、大きな動きは見られなかったが、静かに世界は動き始めていた。