幕間 希のキモチ
希は古文教師が黒板に白文をつらつらと書いていくのを眺めながら、軽い近視のため授業中にだけ掛けている眼鏡を外して、朔のことを考えていた。
……朔はなぜ今更、私をあんなに構うのだろう?
――小学六年生から中学二年生にかけての三年間、朔は希のケアを全て拓真に丸投げ。
当の朔は母と旅行三昧の日々を送り希に顔一つ見せなかった。
ところが拓真が二年前に転校してからほどなくひょっこり顔を出したかと思うと、その日から今日に至るまで空白の三年間を埋めるような溺愛ぶりを発揮した。
朔のこの落差がある行動には希もさすがに困惑したが、朔のその溺愛ぶりが嫌なわけではなかった。
やはり、一度は見捨てられたとはいえ、昔は大好きだった朔に大切にされることは喜ばしいものだったからだ。
しかし、だからといって朔のことを許せるかといえばそう簡単でないのも事実だ。
三年間放置された恨みもあるし、また朔の気まぐれで再び放置される可能性だってある。
そしてなにより気に入らないのが拓真は朔に惚れているという事実だ。
勝手な嫉妬だと頭では理解しているが感情はそうもいかなかった。
希はちらりと真冬花を覗き見る。白文をノートに書き写しているようだ。
朔のことを勘違いし逃げ出した真冬花と泣きそうな表情でこちらを見つめる朔の姿がフラッシュバックする。
……やっぱり朔のことはまだ許せない。でも、誤解くらいは解いてあげよう。
希はそう心に決めると眼鏡を掛け直し、黒板から逸れていた意識を元に戻した。