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ボクと妹の不適切な関係性  作者: 九巻はるか
第二章 好きと依存の境界線
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第三話 天道学園少年少女探偵団誕生! そして解散!

 次の日の放課後。予定通りホームルームをエスケープした、朔や一夏などの生徒会役員が校門近くの物陰で希が出てくるのを待っていた。


「なんだか探偵みたいですね♪」


 昨日は私用で途中退室した真冬花が悪戯顔を浮かべ楽しそうに話した。


「天道学園少年少女探偵団だねー!」


 葵も真冬花に同調する。


「どちらかと言うと集団ストーカーっぽいです」


 朔はじっと校門を見つめながら嘆息した。

 実のところ朔も学園内で日常的に希をストーキングしているのだが、他人に同じことをされるのは嫌な独占欲の強いシスコンであった。


「ストーカーとは人聞きが悪い! パパラッチと言ってもらおうか!」


 朔にストーカー呼ばわりされ、一夏が得意げに頭悪そうな異議を唱えた。


「会長ー、それだとたいしてイメージ良くなっていないと思いまーす」

「そうだぞ一夏、せめて日本らしくフライデーにしておけ」


 もっともな指摘をする佐鳥と、一夏と同じくどこかずれている和春だった。


「全部イメージ同じですよね……」


 相変わらずな生徒会の面々に呆れずにはいられない朔であった。

 そんなたわいない会話をしばらく続けていると、ホームルームを終えた希がゆっくりとした足取りで校門から出てきた。

 希はそのまま隠れている朔たちの目の前を通り過ぎると、市街に通じる八幡坂を下って行く。


「……行きました。一五:三○、追跡作戦を開始です」


 朔は希を目で追いながら行動開始を小声で宣言すると、


「それじゃー、天道学園少年少女探偵団、レッツー?」


 葵が元気良く音頭をとり、


「「「ゴー!」」」


 朔以外の一同が合の手を入れた。一方、朔は怒りの籠った目で葵たちを射抜いた。


「希に気が付かれるから静かにして下さい!」




 朔たちは希に尾行していることを悟られないように距離を置いて追跡する。

 希は学園の前の八幡坂を下りきり、自宅へと向かう交差点までやってくると、一度立ち止まり辺りを見回した。

 咄嗟に身を隠す一同。

 どうやら尾行されていないか確かめているらしい。


「今のはやばかったよー!」

「なんだか警戒していますねー」


 しかし、希は朔たちに気が付かなかったらしく見回すのを止めると、自宅に通じる方向とは逆に向かって再び歩き出した。

 交差点からすこし先にある小さめの商店街を抜け、更に五百メートルほど進んだところで、希がある建物の方向を向いて立ち止まった。

 それほど大きくない医院だ。自宅兼医院といった感じの佇まいで、医院の正面には来客用玄関があり、建物の横には自宅玄関に続いているであろう小道が延びているのが見えた。

 希はキョロキョロと周囲を見回し人が居ない事を確認すると、医院の正面玄関のドアに手を掛けた。しかし、ドアはびくりともしない。どうやら施錠されているらしい。

 希はドア越しに中を覗き込み少々思案した後、建物の横にある小道に歩を進め、朔たちの視界から消失した。


「……朔先輩、ここってアレですよね……」

「狭霧産婦人科……だね」


 朔の頭に佐鳥の「ずばり男ですね!」と言うセリフが響く。

 希に対する疑心が朔の胸を埋め尽くすと、朔は希が消えた方向に一気に駆け出した。


「おい、待て! 慌てるな!」


 静止する一夏。しかし、朔はそんな一夏に脇目も振らず一心不乱に希の下へと直行である。


「くそ、追いかけるぞ! お前らは医院の近くで待機しろ!」


 止まらない朔を見て一夏は慌てて後を追う。

 一方、希を追いかけた朔は小道の始点までやってくると、自宅玄関で佇んでいた希を発見。

 いの一番に叫んだ。


「希! こんなところで何をしているの!」


 呼び鈴を鳴らそうとしていた希はびくりと身を震わすと、朔の方向に恐る恐る視線を移した。


「朔がなんでここにいるの? もしかして尾けてきた? 趣味悪いね」


 希は不機嫌そうに悪態をつくが朔は黙殺。そのままつかつかと希に接近し詰め寄った。


「何でじゃないよ! だってここ、産婦人科だよ! 希……まさか妊娠!? 相手は誰な――あたっ!?」


 全てを言いきる前に希の拳が朔の頭を捉えた。


「変な誤解しないで。気持ち悪い。……って、会長も何しているんですか」


 希は朔を追ってやってきた一夏に半眼を向けた。


「まあまあ、細かい事は気にするな。それよりもだな、朔。ここが産婦人科だからといって、別に用事が妊娠だけな訳じゃないだろう? 例えば、性びょ――ぐはっ!」


 朔の頭に引き続き、希の拳が一夏の頬を捉えた。


「会長も変な誤解しないでください。はぁ……どうせみんないるんでしょ」


 希は朔たちがやってきた通りの方を睨みつけ、呆れたように言い放つ。すると陰に待機していた葵や真冬花たちがばつが悪そうに姿を現した。


「あちゃーばれちゃいましたね、葵先輩」

「うん、探偵団はこれで解散だねー」


 希は真冬花の姿を確認すると、頬をぷくっと膨らませ口を尖らした。


「もー、真冬花、どうして止めてくれなかったの。朔には知られたくなかったのに」

「ごめんなさい。私の知らないうちにみんなで尾行する事になっていて……」


 真冬花は大事な時に現場に居ない間の悪さを呪いながら、歯切れの悪い言い訳をする。

 一方、朔はただならぬ剣幕で希を問いただす。


「希、ここに何の用だったの! 言いなさい! さもないと泣く事になるよ! 私が!」

「朔ちゃん……それ、脅しになっていないよー」

「……黙秘する」

「うわーー! 希が不良になったぁ! 昔はあんなに素直だったのにぃ!」


 拗ねたように顔を逸らす希を見て、朔はこの世の終わりと言わんばかりの表情を浮かべて地面に突っ伏し、さめざめと泣いた。ただし、嘘泣き丸出しである。


「さとりました。朔先輩って馬鹿なんですね」

「あながち否定は出来んな」

「違うよ! 朔ちゃんはちょっとシスコンを拗らしただけなんだから!」

「葵、それもフォローになっていませんから。朔さん、顔を上げて下さい……希はある人に会いに来ただけなのです」


 真冬花が朔の肩に手を置いて優しく問いかけた。


「人に会いに? ああ、そっか、それで狭霧産婦人科なんだ」


 朔はあっさり泣き止むと、なるほどとぱんと拍手をひとつ打った。


「どういうことだ? 意味がわからんぞ?」


 一夏が朔に疑問を差し挟む。


「要するに産婦人科に用事があったわけじゃなくて、狭霧先生に用事があったんだと思います」

「何が違うんだ、それ?」

「狭霧先生って実は私たち姉妹の後見人なんです。つまり、医師としての狭霧先生ではなく、後見人としての狭霧先生に逢いに来たっていう意味です。それでしょう、希?」

「……あーあ、ばれちゃった。そ、狭霧先生に相談があって逢いに来たの」


 諦めたように白状する希。朔はうんうんと頷きながら言葉を続ける。


「でも、いつきても不在と」

「そう。毎日時間をずらして来てるけど、診察もやっていないし、住宅の方もいつもいない」

「まぁ、そうだろうね」

「何か知っているの、朔ちゃん?」

「知ってるも何も、狭霧先生って繭子さんだし」

「狭霧先生って繭子って言うの? んー? どこかで聞き覚えがある名前……」


 名前に思い当たる節がある希だったが、どうも思いだせない。

 同じように真冬花と葵も喉に小骨が引っ掛かったような表情を浮かべ悩む。


「確かにどこかで聞いた名ですね」

「うーん、最近聞いた気がするけど、どこだったかなぁー」

「繭子さんは、天道学園で校医しているんだけど……」

「「「あぁ~! それだ!」」」


 朔の呟きに合点の一同である。その表情はまるで憑き物が落ちたように爽やかだった。


「繭子さんってずぼらだからほとんど家に帰らず、主に宿直室とか大学病院の研究室で生活しているんです。たまに帰ってきても荷物だけ持ってすぐとんぼ返りだからいつもいないんです」

「……洗濯とか家の掃除はどうしているのでしょう?」


 真冬花が基本的な疑問を口にすると、朔は苦笑しながら答えた。


「それは私が全てやっていますよ。彼女、生活力無いから。……それにしても、繭子さんは私たちの後見人なんだから、希もそれくらい覚えておいてよ」

「ほとんど会ったこと無いし興味無かった。反省」


 一応、希も反省はしているらしい。


「まっ、灯台もと暗しだったということで一件落着だ」


 したり顔で〆る一夏。朔は希の手を取って歩み出す。


「それじゃあ、一緒に繭子さんの所に行こう、ね♪」




 同日夕方の生徒会室。繭子への同行を希にあっさり拒否され、「繭子さんに用事って何だったのだろう……」と落ち込みながら一人ごちる朔と、「姉妹の間でも秘密はあるものですよ」と慰める真冬花を窓から差し込む夕日が照らしていた。


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