幕間 朔の改悛
朔は暗い自室の蒲団の中で大きく溜息をついた。時刻は午後十二時を越えたあたりだ。
……はぁ、今日は色々とヤバかったよ。こんなことになるなら繭子さんの忠告をきちんと聞いとくんだった……。
真冬花との入浴中の事もさることながら、そもそもここまでの事態になったのは朔自身のせいである。
希に気に入られようとして、繭子の忠告に背いて余計な事に首を突っ込んだのが良くなかった。大人しく、我関せずの精神で生活していればこんなことにならなかったのだ。
「でも、楽しかったなぁ……。もう少しくらいなら、みんなと一緒に居ても大丈夫だよね……」
朔はぽつりと呟いた。それは朔の紛れもない本心だった。
朔にとってこれほどまでに様々な他者と親密に接した経験は初めてだった。
その全てが新鮮で興味あふれるものだったのだ。
朔の心に小さな欲が出るのも無理はなかった。
そんな浮かれた朔の脳裏に、ふいに母に言いつけられた言葉が蘇る。
『――他の誰かに男の子であることを知られたら希の前から永遠に消えてもらいます』
女装は朔と母を繋ぐ唯一の絆であると同時に、他人に絶対に知られてはいけない禁忌である。朔はそのことを改めて認識すると、自戒を含めて呟いた。
「……母さん、大丈夫です。ボクはもう二度と言いつけを破りません。だからもう少し……」
誰も聞くことのない改悛が、深い闇に包まれた狭い室内にいつまでもこだましていた。
次話から第二章が始まります。




