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ボクと妹の不適切な関係性  作者: 九巻はるか
第一章 向日島のお姫様(おひいさま)
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第二十話 真冬花の新しい恋?

 夕暮れの校医室に朔の悲鳴が響いた。


「痛い痛い痛い! 繭子さん、ギブです、ギブ~! あっ痛痛痛痛痛いぃぃ~~!」

「我慢しなさい! まったく無理をして! どうして私の言う事が聞けないの!」


 負傷した朔の左腕に包帯を巻きながら、いつもは人を喰ったような態度の繭子が柄にも無く朔を真面目に怒っていた。

 子供の時から面倒を見てきたこともあり、繭子にとって我が子にも近い想いを抱いている朔がこうして怪我をしているのだから、それも仕方ないことであった。


「だって、成り行き上仕方なかったと言うか……」


 繭子の叱責に朔はいじけながら反論する。


「だから、普段から厄介ごとには首を突っ込むなと言っているでしょ!」

「突っ込んだというかむしろ巻き込まれたというか……」

「言い訳ばっかりして! はい、おわり。左腕にほんのちょっとだけどヒビが入っているから安静にするのよ。もう、無理は禁物よ」

「はい、分かってます」


 ……心配かけちゃったなぁ……。


 繭子の心配そうな表情を見て、朔は心の中でちょっとだけ反省していると、繭子は思い出したように切り出した。


「そーいえば朔、彼氏が出来たんだってね」

「彼氏? 私は男ですよ、彼氏なんている訳ないじゃないですか。若年性痴呆症ですか?」


 この人はいきなり何を言っているのだ? 頭は大丈夫か? と、朔が別の意味で繭子を心配していると、繭子がからかうように言った。


「誤魔化さなくたっていいから。ほら、日野和の御曹司でここの生徒会長の――」

「あああーー忘れてた! 言っときますけど、彼と付き合う気なんてさらさ……」


 朔はそこまで言うと、急に言い淀んだ。


 ……世間的にはあんな舞台でキスまでしておいて、彼氏じゃないとボクが主張してもそう簡単には納得されない気がする。となると、身の潔白を何らかの方法で証明しなければならないが、どうすれば良いのだろうか……。某広報の子に頼むか? いや、しかし、あの子に借りを作るのは避けた方が良い気がする。むしろ意図的に勘違いしているふりをして襲われそうだ。そういえば人の噂も七十五日という諺もあるし無理には……。


「あれ、なにその間? マジで? ついに女としての幸せに目覚めた?」


 朔が別のことで悩んでいると、繭子がすわ瓢箪から駒かと一人で盛り上がり出した。


「人の話聞いてください! だからそうじゃなくて……」


 朔が一夏との仲を否定しようとするが、繭子は朔を黙殺。そして机をごそごそと漁り、


「そっかー、そうなんだー。いいんだよ皆まで言わなくても。ほら、これ持って行きなさい。エチケットよ♪」


 と、朔に何かを手渡してきた。


「え? なんですか? って――」


 朔は手渡さされたものを見て絶句した。それは紛う事なき避妊具であったからだ。

 いわゆる近藤さんである。一般的にはゴムやスキン、明るい家族計画とも言うらしい。


「出来て泣くのは女の子の方だから……ね♪」


 繭子はぱちっとウインクをした。まったく、いい大人なんだから歳を考えろと言いたくなるような仕草だが、朔はそれどころではないらしく、ぷるぷると肩を震わす。


「やらないし、出来ません!」


 朔は声を荒げて、繭子に避妊具を付き返す。


「遠慮しなくていいから持って行きなさい♪ 後ろにも使えるしね♪」


 繭子も負けずに押し返すと、さらに机から数個取り出し、朔の手に握らせた。


「だからいらないって――」


 朔がそう言いかけた時、がらららとドアが開いた。

 朔は手に持っていた避妊具をベッドの近くに掛けておいた秋用の薄い外套のポケットに慌てて突っ込み、平静を装う。


「朔ちゃん怪我は大丈夫? 痛いところ無い?」


 葵をはじめ、真冬花と希が校医室に入ってくる。朔は笑顔を浮かべ答える。


「ええっと、うん大丈夫だよ。ちょっと骨にヒビが入っただけだし」

「ええー、朔ちゃん痛くない?」

「それって大丈夫のうちに入るの?」


 希が無表情のまま首を傾げた。


「ごめんなさい……私が……」


 明らかに気落ちした声色の真冬花が、思いつめた表情をして頭を下げた。


「気にしなくて良いですよ。私も売り言葉に買い言葉であなたを随分煽りましたし。……それにあなたの気持ちも何となくわかりますから」


 朔は頭を左右に振り、真冬花をフォローするが、


「いいえ、私が全部悪いのです。勝手に嫉妬して、勝手に勘違いして思い込んで……」


 マジ泣き五秒前の勢いの真冬花であった。


「そうだよねー、全て真冬花の暴走から始まっているよねー。つまり真冬花が全部悪いよねー。そもそも、朔ちゃんが一夏くんごときを相手にするわけが無いよねー。それなのに、私の朔ちゃんに手を出すなんて真冬花には十年早いよねー。だから書記に降格なんだよねー。そして、いつまでたっても胸が小っちゃいままなんだよねー」


 葵が積年の恨みを晴らさんとする勢いで、ねちねちと真冬花に追い打ちをかける。まったく、弱者には強い葵であった。


「こら! 煽らないの!」


 朔は葵を嗜め、真冬花に向かい合う。


「本当に気にしなくていいから、そんな顔しないで。ね、可愛い顔が台無しですよ」


 朔は一際優しげな笑みを浮かべ、慰めるように真冬花の頬にそっと両手を添えた。

 真冬花は惚けたような表情を浮かべ、頬を朱色に染める。


「……朔が真冬花を口説いてる」


 希の冷めた声が校医室に響いた。

 朔ははっとして、真冬花の頬から手を慌てて外す。


「ズルいよ朔ちゃん! 私にも同じこと言って口説いて! ほらほら、ハリーハリー!」


 葵が不満そうに私も口説けと主張する。


「そんなんじゃないよ! ね、そうですよね!」


 慌てた朔が真冬花を見ると、


「……朔さんのお気持ちを頂いてうれしいです♪」


 もじもじと照れ、明らかに勘違いをしていそうな真冬花がそこに存在していた。


「はい落ちた! この女落ちたよ! 朔ちゃんどうするの! まさか一夏くんと真冬花で兄妹丼ですか? 課長島○作ですか? 昨日の敵は今日の嫁ですか? この天然ビッヂゴロめ!」

「なんでこんなことにぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 校医室に朔の叫びがしばらくこだましていた。


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