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ボクと妹の不適切な関係性  作者: 九巻はるか
第一章 向日島のお姫様(おひいさま)
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第十八話 生徒会室の攻防 その2

「あーもう! 黙って聞いてればあなたたちはどうしていつもそうなるのですか! いい加減自重することを覚えてくさい!」


 それまで無言で事態を見守っていた真冬花だったが、我慢の限界がきたらしくぶち切れのご様子だ。


「おお、真冬花が吠えた」


 葵は他人事のように感想を述べた。


「そりゃ、あんな会話していれば……」


 朔が呆れていると、真冬花が朔を指差し主張する。


「この売女をいかにして追い出すかが今日の議題でしょう!」

「……せっかく話題が反れたと思ったのに、面倒くさいなぁ」

「玉桂朔! これ以上あなたと言い争っても埒が明きません! 私と武術で勝負しなさい! 私が勝ったらあなたは退学。あなたが勝ったら生徒会副会長として嫌々ながら歓迎します。兄との結婚はともかく交際も認めましょう。良いですね!」


 真冬花は一方的に言い切ると、朔に同意を迫った。しかし朔は、


「ヤです」


 にべもなく申し出を断る。

 そもそも朔にとって見れば生徒会の問題に巻き込まれただけである。

 それなのに敵視され、挙句に勝負の強要である。しかもその勝負に負けたら退学、勝っても副会長と朔が望んでいない結果しか用意されていないのである。

 さすがにそれを受けほど朔だってお人好しでは無かった。


「私から逃げるんですか! この卑怯者!」

「どうとでも言ってください。私は脳筋のあなたと違って勝っても負けてもデメリットしかない勝負を受けるほど馬鹿ではありませんから」

「本当に白々しい! そんなこと言って副会長の座に居座るつもりのくせにぃぃ!」


 真冬花はキャラを若干崩壊させながら地団駄を踏んだ。


「だからここに居座る気なんてありません。……あ、そうだ! 会長権限で私を副会長にしたのだから、解任だって会長権限で出来ますよね?」


 朔は閃き、ぽんと手を打って訊ねると、


「うむ、出来るぞ」


 一夏はあっさりと答えた。


「あ、そうです、それです! 名案です! 兄さん、さっさとこの女を解任して下さい! あなただって退学せずに副会長を辞められるのですから不満はありませんでしょう?」

「……言い方は気に入らないけど、同意します」


 朔は真冬花の言い方に眉を顰めたが、結論には不満が無いので了解した。


「先方の同意も得られましたし、ほら兄さん早くです!」

「そうだなぁ……だが断る!」

「なっ!?」

「そもそも、俺が気に入ってわざわざ連れてきた副会長を当日に解任って、どう考えてもありえないだろう?」

「確かに一夏の言うとおりだ」

「ですよねー。佐鳥もそう思います」

「私は朔ちゃんとにゃんにゃん出来ればどっちでもいいよ!」


 一夏の言葉に他の役員が同調する。


「あなたたちは生徒会役員としてどちらの味方なんですか!」

「もちろん朔ちゃ――ラクリマ時空界ッ!」


 すべてを言い切る前に真冬花の拳が葵の鳩尾に刺さった。


「あらあら、すぐ暴力に訴える人って最低ですよね」


 朔は葵に対しての今までの行動を棚に上げて皮肉たっぷりに嘲笑うと、


「あなたにだけは言われたくありません! この毒婦が!」


 すかさず真冬花も反撃だ。

 互いに一歩も引かない二人を見かねて葵が仲裁に入り、まずは真冬花にそっと問いかけた。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。……ねぇ真冬花、頭に血が登って冷静に判断できないようだから言っておくけど、今回の出来事は間違いなく会長の暴走で、朔ちゃんは何もしていないし、嘘を付いているわけでもないの。そもそも一夏くん自体、朔ちゃんの存在を昨日初めて知った訳だし」

「にわかに信じられません! 大体それなら何故、玉桂朔は副会長に指名されたのですか!」

「……それがね、昨日の朝に空手部と対峙する朔ちゃんを見て一目惚れしちゃったみたいなの」

「……本当に?」

「マジで。本当」


 葵は極めて真面目に返答した。真冬花は葵の柄にも無い物言いによりそれが真実であることを悟ると、舌打ちをして顔を顰めた。


「……ちぃ、それは厄介ですね」

「それで真冬花はどうする? 朔ちゃんを受け入れる?」


 真実を知った真冬花だが、それでもなお朔への敵愾心が胸を燻っていた。なぜなら副会長の職を追われ、尊敬する兄の横を掠め取られた事には変わりが無かったからだ。


「……事実がどうであれ私は玉桂朔を許すことはできません。彼女との勝負を求めます」


 真冬花はきっぱりと宣言する。葵はやれやれと苦笑いを浮かべる。


「そう言うと思ったよ。わかった、ここは私に任せておいて。私が朔ちゃんを説得して勝負に同意させてあげる。でも、真冬花の方には義が無いんだから多少の譲歩は必要になるけど、良いよね?」

「ええ、お任せします」


 真冬花の同意を取り付けた葵が今度は朔の説得に取り掛かる。


「朔ちゃん、ちょっと良いかなー」

「何?」

「あのね、真冬花の勝負を受けてあげて欲しいんだけどどうかなー?」

「さっきも言った通り私に受けるメリットが無いから嫌」


 相変わらず取り付く島の無い朔に葵が仰々しく溜息をついた。


「朔ちゃんは本当に副会長にメリットが無いとでも思っているのかなー?」

「……それはどういう意味?」


 怪訝な表情を浮かべる朔に葵はニヤリと薄笑いを浮かべ、言葉を続ける。


「生徒会ってここにいる役員は基本的に指揮指導が中心だから、生徒会構成員としては役員以外にも実行部隊として各クラスから選出された執行委員がいるのは知っているよねー?」

「それくらいは知っているけど」

「それでね、指揮系統としては会長がトップにいるんだけど、実は会長は方針を決めるだけで、現場での指示やクラスに下ろす説明等の実務は副会長が全部担当しているんだ」

「……仕事が多くて嫌になりそうね」

「ま、普通はそう思うよねー。でも、朔ちゃん思い出して。四‐Aの執行委員って誰だった?」

「もちろん希に決まっているじゃない! ……って、あ!」


 朔が言葉の意味に気が付くと、葵はにんまりと笑みを浮かべた。


「どうかな、副会長になれば執行委員の用事で生徒会によく顔を出す希と接点持てるよー。まぁ、真冬花との勝負を受けて勝てばだけどねー」

「むう……」


 葵の誘導に朔は迷った。なぜなら、朔の中で副会長というものが急に魅力的なものとなったからだ。

 正直、半ば諦めていた『希と学園生活を謳歌する』という目的を達成する千載一遇のチャンスである。これを逃す手は無い……のだが問題もある。

 葵の提案どおり真冬花の勝負を受けて勝てば問題は無いが、負けてしまった時の退学というリスクは無視できないレベルで厄介だ。真冬花との武術勝負に負けるとは思えないが、可能性はゼロではない。欲に目が眩んで失敗するのは世の常だ。自称『石橋は叩いてから渡りたい』タイプの朔は悩む。


 ……受けるべきか受けざるべきか――。


 葵は朔が懸案していることを見抜くと、決断を後押しするために更に働きかける。


「あー、そーいえば一つ言い忘れていた! もし勝負に負けても退学じゃなくて、副会長を解任で手を打つと真冬花が言ってたけど、それでも勝負を受けたくない?」

「その話は本当!?」


 葵が出した条件に案の定、朔は食いついた。

 当然である。勝負に勝てば副会長として希と楽しい学園ライフであるし、負けても今まで通りの日常に戻るだけである。勝負を受けることによるデメリットは皆無となったからだ。

 葵は朔が上手く釣れた事に心の中でほくそ笑むと、真冬花に同意するよう視線を送る。

 葵の視線を受け取った真冬花は微かに頷き口を開く。


「ええ、本当です。だから私と勝負なさい、玉桂朔!」

「いいでしょう。その勝負受けてあげます。勝負はいつですか?」

「そうですね、明日の放課後といたしましょう。武術勝負なので竹刀などの得物は自由。判定は相手を気絶させるか負けを認めさせた方が勝ちという事でどうでしょうか」

「構いませんけど、大丈夫ですか? 怪我しても知りませんよ」

「心配してくれなくて結構です。怪我するのも負けるのもあなたなんですから」

「ふーん、たいした自信なんですね」

「ちょっとまて! 結果がどうであれ俺は副会長の解任に同意しないからな!」


 朔と真冬花の視線がかち合う中、いつの間にか蚊帳の外に追いやられていた一夏が空気も読まず異議を申し立てる。

 そんな一夏に対して役員たちの反応は冷たく、


「兄さんは黙って従ってください」

「会長、空気読めー」

「さとりました。これがKYってヤツですね」

「なあ一夏、せっかく当事者同士で話が纏まったのだから、この騒動の原因を作ったお前は受け入れるべきだと思うぞ」

「ところで私にキスしたことをパワハラとセクハラで訴えて良いですか?」


 と、フルボッコである。


「お、お前ら……さっきは俺の意見に同調してくれたじゃないか……」


 役員達の掌返しに涙目になりながら、一人寂しく項垂れる一夏であった。


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