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ボクと妹の不適切な関係性  作者: 九巻はるか
第一章 向日島のお姫様(おひいさま)
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第十五話 葵が語る!向日島と日野和家の歴史!

「へー、生徒総会ってこんなに生徒があつまるんだー」


 朔はバスケットコートが四面もとれる広大な学園体育館に所狭しと並べられたパイプ椅子の一つに座り、周りを見回しながらながら感嘆の声を上げた。

 体育館には生徒総会の開会を待つ数多くの中等部と高等部の生徒がひしめいており、開会までの時間を潰すためか、会話を楽しむ生徒たちで賑わっていた。

 なお、朔たちは舞台正面の最前列に陣取っており、席は右から真冬花、希、葵、朔の順で並んで座っていた。


「朔ちゃんって、生徒総会初めてだっけ?」

「うん。生徒総会は前回も前々回も用事でいなかったから」

「つまり朔ちゃんは今日、私と初体験ってことだよね!」

「キミが初体験言うと他意を感じる」

「他意なんて無いよー。そのままの意味だから! 性的な意味で!」

「変態は自重しろ!」

「二人ともウルサイ。これが嫌だから登下校以外は接触禁止なのに」


 希が朔と葵の漫才にうんざりした様子で文句を言った。朔と葵の二人が揃うと意図的ではないがすぐにボケつっこみが始まり悪目立ちするので、学園内では希に近づかないよう朔に言い付けているのである。

 しかし、今日に限ってはその禁が解かれていた。何故なら――


「ごめんなさい、私が無理言うから……」


 真冬花が申し訳無さそうにこうべを垂れた。

 接触解禁の理由。それは真冬花が、朔と話せるよう、希にお膳立てを依頼したからであった。

 親友のお願いに希は二つ返事で承諾。生徒総会の開始前に真冬花と朔が話せるようにセッティングしたのである。

 しかし、肝心の真冬花はというと話しかける決心が付かないのか、たまに朔に視線を向けるだけである。


「真冬花は悪くない。悪いのは朔。あと葵」

「そんな! 悪いのはこの子だけだよ!」


 朔が不満げに異議を唱えた。


「ひどいよ朔ちゃん! あの夜の誓いは嘘だったの!」


 そして葵は会話が成立していない。


「そんなことはどうでもいいから二人とも黙って。真冬花、朔に話があるんでしょ。話して」


 朔と葵を一刀両断した希が真冬花を促す。


「私に? 話って何ですか?」

「ええと、その……」


 急に話を振られた真冬花が言葉を詰まらせ慌てて希に視線を向けると、希は軽く微笑んだ。踏ん切りがつかない真冬花への希なりの気遣いらしい。

 真冬花は親友の行動の意図を理解し、意を決して口を開こうとした瞬間――


「いやー、それにしても、両手に花っていいよね! げへへ」


 葵が真冬花の出鼻を挫くように、にやにやと下劣な笑みを浮かべつつ両隣に座っている玉桂ツインズの肩に手を回し言った。


「妊娠するから私たちに触らないで」


 朔がそう吐き捨てて葵の手を払う。


「同意。キモいから触るの禁止」


 希も朔と同様に葵の手を払い、蔑んだ瞳を向ける。


「ひどっ! このツインデレはどっちもサドだよ! 新潟だよ!」


 意味不明な駄洒落をのたまう葵の横で、完全に機を逸した真冬花がしばらく鯉のように口をぱくぱくとさせていたが、やがて深い溜息をついて押し黙った。


「あれー、真冬花どうしたの? 生理? ナプキン貸すよ?」

「違います」


 真冬花は的外れな心配をする葵をきっぱりと否定。葵を一瞥したのち不機嫌そうに目を逸らした。


「もしかしてタンポン派? 前はナプキン派だったよね?」

「……空気読め。この万年発情期」


 KYな葵に業を煮やしたのか、希が毒を込めて呟く。


「希に手を出したのが不味かったんじゃない? 誰だって妹とか親友に手を出されたらカチンと来ると思うし」


 そしてシスコン朔が的外れな予想をした。こいつも大概である。


「でもでも、正妻の朔ちゃんはもちろん、希だって将来は私の愛妾もしくは二号ちゃんなんだから、これくらいは慣れてくれないと――」

「「死ね!」」

「うわっ! 耳がぁぁーー! 耳がぁぁーーーーーーーー!」


 葵の言葉を遮るように朔と希のステレオ攻撃が葵の耳にダイレクトに突き刺さる。葵は耳を押さえながらしばらくのたうち回るのだった。




「ところで今日の生徒総会って何するの?」

「今日はなんと後期生徒会新執行部役員の発表だよ!」

「ふーん、そうなんだ」


 朔は自分から聞いておきながら興味なさげに生返事をすると、おもむろに遠足のしおりを取り出し読み始めた。


「なんでいまどき春遠足のしおりが!?」

「だって生徒総会って暇そうだし、生徒会執行部に興味なんてないから。特にキミにはね。それ引き換えこのしおりは良く出来ていてとても私好み」


 朔の言うとおり、確かに春遠足のしおりはしっかりとした作りになっていた。

 内容は春の遠足の目的地で、向日島の中央に位置するカルデラ湖である神威湖の解説や伝説が地図など絵入りで構成された、ページ数が三十二ページもある大作であった。

 表紙には「春遠足! 神威湖の謎を探れ!」と描いてあるのが見える。

 葵は柳眉を吊り上げ反論する。


「そのしおりは地理研究部の滝川さん製作で無駄に力入っているけど完全じゃないから! だって、神威湖って自殺の名所で有名なのに、そのしおりには詳しく書いてないもん! ちなみに展望台から飛び降りると、湖岸がカルデラ最深部まで一気に沈み込んでいるせいで、死体が上がらないらしいよ! どう、そんなしおりより私の方が良く出来てるよ! だから私に興味を持つべきなの!」

「いやそれ、張り合う方向性を間違えているから」

「朔、それ好きだよね。家でも読んでる」

「どんだけ遠足が好きなのよ! もう終わって何ヶ月かたつよ!?」


 葵の腐した言い種にむっとした朔がつーんとしながら言い返す。


「別にいいじゃない。初めて参加した遠足だから、思い入れがあるの!」

「いやいや、この学園に編入してからは初めてなだけでしょ。思い入れ過ぎだって!」

「っ! ……ええと、そうだね。でも気に入っているから良いの!」


 朔は一瞬顔を強張らせ言葉を詰まらせたが、すぐに何事もなく澄ました顔で言葉を繋いだ。


「……?」


 じっと朔を観察していた真冬花は、朔の反応や言葉に違和感を覚え顔を顰めた。何か隠していそうな反応だったが、それが何かはわからなかった。




「――という訳で話は戻るけど、今日は後期生徒会新執行部役員の発表だよ! ちなみに天道学園では直接選挙で当選した会長が選挙後に他の執行部役員を指名する任命制を採っていてね、今回は私と真冬花を含めた『五人+一人』が執行部役員として会長に指名されるんだよー。それで誰が何の役職になるかは今のところ会長しか知らないから、聞いてからのお楽しみなの! あと生徒会は学園で一つしかないから、執行部役員は高等部だけじゃなく、中等部からも選ばれたりもするよ」


 葵の話をなるほどと聴いていた朔と希が途中で頭に疑問符を浮かべ、顔を見合わせて首を傾げる。


「執行部役員が指名されるのは分かったけど『五人+一人』って何? 六人ってことだよね?」

「本当は前期の生徒会執行部と同じ、会長を除く六人体制にしようとしたんだよー。でも、めぼしい役員候補者がいまいち見当たらなかったから、まあ五人でも良いかって話になったの。ところが、選挙公示後になって役員候補の一人がいきなり短期留学しちゃって、さすがに会長を除いた四名で生徒会を回すのはキツイから、追加で一人探して執行部役員に指名することになったの。つまり、会長選挙当初から予定されていた役員候補が『五人』で選挙後に追加される人が『+一人』ということ」

「なるほど、それで『五人+一人』ということなのね」

「ちなみに生徒会役員って実は九人まで定員があったりするよ。なのにあえて少人数で回す理由は、会長の一夏くんと真冬花はこの向日島そのものである日野和本家の子だから家柄だけでも人気が抜群だし、真冬花以外の四人の面子も凄いから、九人も役員が必要ないという判断で五名しか役員候補がいないの。美人で巨乳で気立ての良い私は言わずもがなだから置いておくとして、他の役員に天道兄妹というのがいるんだけど、天道家は日野和家に一番近い分家だからこの島で二番目に力があるし、この学園の理事長家だし、見目も頭も良いから人気もある。それから残りの一人の天持も日野和の近縁だから、学内の日野和ロイヤル勢ぞろいって感じになっちゃって、一般生徒の入る隙間がないのが今の生徒会執行部なんだ。ま、一夏くん自身、本当に信頼する人物しか周りに置くつもりがないのが一番の理由みたいだけどね」

「……つまり会長は血縁以外を信用していないって事でしょ。なんか日野和で非ずんば人にあらず的な感じでなんかイヤ展。なんとか清盛さん家みたくそのうち滅びそう」


 朔は呆れたように声を漏らした。会長に対して度量の狭さを感じたのだ。


「たまたまだよ、たまたま! 能力が高い人を選んだら日野和の血筋だっただけだよ!」


 葵はそんなつもりではないと慌てて言い訳するが、


「昔、どっかの政治家が同じようなこと言ってた。良い人材を選んだら息子だったって」


 と、希が身もふたも無い例をご参照だ。


「まあ、確かに玉桂さんの言葉を否定できるだけの材料はありませんね」


 澄まし顔の真冬花が、意外にも朔に同調する。


「真冬花まで! この裏切り者~!」


 葵が珍しく不満げな表情を浮かべる。真冬花はそれを制し吐露する。


「それだけこの街では日野和の力が絶大だと言う事ですよ。葵だって解っているでしょう?」

「……まあそうだけど、でも……」

「そんなに日野和って力があるの?」


 それでも納得していない葵に希が質問する。朔も口には出さないが興味があるらしく、聞き耳を立てている。

 解説好きである葵は気を持ち直し説明を開始する。


「そうだねこの日輪市……つまるところ向日島では絶大といっていいね。日野和は全国的に見たら中堅以上大手未満の規模の財閥だけど、この島は日野和の企業城下町――というか既に城下に町というより城内に町って言っていいレベルの島だから。この島の地銀はもちろん日野和資本だし、スーパーとかの小売りも日野和資本ばかりで、マックとかセブンとかのフランチャイズ系のお店もこの島にある店舗は全部日野和の経営なの。今年完成した向日島大橋や向日島鉄道も日野和と道路公団や鉄道会社との共同経営だよ。もちろん行政・警察も日野和とずぶずぶの関係だから、日野和に対しては融通しまくり、都合の悪いことには圧力かけまくりだよ。でも、日野和って結構自由な発想を求めている会社なんで、会社批判とか商品批判とかはむしろどんとこいって感じのM気質なんだ。だから実際には圧力なんてほとんどかけないけど、医療系企業だけあって医療の発展のためには何でもするってのはガチだよ。これはオフレコなんだけど、この島では市議会の上に『日野和の意思』と呼ばれている事実上の意思決定機関があるのが支配層や有力者の間では公然の秘密となっていてね、そこで決められたことはこの街では法令に関係なく実行されるって話だよ。もっとも、話は聞こえてきても実態がいまいち掴めない。だから、どんな事が決められて実行されているのかまでは解らないけど、この島で日野和の持つ力が絶大であることの証左にはなるよね。そもそもこの島の成り立ち、歴史からして日野和無くしては語れないし、そもそも日輪市の名前も日野和から来ているんだよ」

「……なるほど、そうだったんだ」

「初めて知った」

「それから、この向日島って元々無人島だったんだけど、富山で薬問屋の豪商だった日野和家の三男坊がたまたま松前藩に行商で来ていた時に藩医が治せなかったお殿様の病気を薬で救ったら、そのお礼としてこの向日島を下賜されたの。それでその三男坊が家族や職人を引き連れてここ向日島に移住したのが始まりなんだよ。最初は慣れない土地の暮らしで大変だったみたいだけど、この島には薬の原料となる植物が豊富だったり、気候が薬草の栽培に適していたみたいで薬の生産地として大成功を納めたの。明治期には文明開化よろしく、西洋式の製薬と医療機器の製造をいち早く取り入れて発展。得た富の一部を使いこの天道学園を設立して後進の育成に力を入れたんだよ。戦後は学園で育った人材によって多角経営にも成功し島も離島なのに人口三十万を抱えるほどになり現在に至るんだよ。つまり、この島の興りから繁栄までを常に支えるのが日野和であり、その繁栄を支える人材を生み出すのがこの天道学園ということなの」


 説明を終えた葵がしたり顔で朔たちを見回した。

 いつもはセクハラばかりしてくる葵だが、伊達に生徒会に抜擢されるだけの力はあるらしい。先程から興味が無さげに装っていた朔もおもわず感心して葵を褒め讃えた。


「キミって本当は凄かったんだね。初めてキミを尊敬したよ」

「これでも生徒会広報だからね! 日野和と女子生徒と朔ちゃんのことは何でもわかるよ!」


 葵は気を良くしてえへんと胸を張るが、失言癖は相変わらずである。


「最低……一瞬でも尊敬した私が馬鹿だった」


 一瞬だけ上昇した葵の株が直滑降で下落。ストップ安である。


「真冬花ってこの島のお姫様だったんだ。すごい」


 希が真冬花を尊敬した瞳で見つめるが、真冬花は首を横に振り謙遜する。


「そんな大したものじゃないですよ。偉いのはお父様やご先祖様であって私じゃないですもの」

「そう言える所もすごいと思う」

「もう、希ったら。褒めても何もでませんよ」


 親友の素直な想いに、真冬花は少し頬を赤らめて微笑む。


「そういえばさっき、追加の生徒会役員を一人探すって言ってたけど、それはどちらさま?」


 朔が思い出したように訪ねると、葵は両手を組み思案するように言いよどむ。


「あー、それなんだけど、実はまだ決まって無くてね……真冬花は何か聞いてる?」

「……昨日そのお話を兄さんとするつもりだったのですが、結局逃げられてしまいました」

「マジで!? うわー、こりゃ何も決まってないね。最悪、一夏くんを含めた五人で乗り切るしかないかも」


 葵がげんなりした顔でため息をついた。真冬花も渋い表情を浮かべたまま押し黙る。


「話を聞いていて思ったけど、前期の生徒会執行部は今回よりも一人多い六人体制だったんだよね? 一人、今回の役員候補に入っていないようだけど、その人には頼めないの?」

「それは無理なんだよ朔ちゃん。前期は私の兄貴が書記を務めていたんだけど、高等部の三年目で今年卒業の六年生だから前期で引退なんよ」

「そっか、それじゃどうしようもないね」

「大丈夫です、兄さんなら何とかしてくれますから(願望)!」

「まぁ、どうなるか楽しみだよねー」


 真冬花の空元気に、なぜかニヤニヤと怪しい笑みを浮かべるする葵であった。


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