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ボクと妹の不適切な関係性  作者: 九巻はるか
第一章 向日島のお姫様(おひいさま)
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第十二話 放課後の体育倉庫 その2

「ふーん、その反応をみると初めてか。結構遊んでいるって噂だったけど、違うみたいだね」


 大三島は男子たちに朔を仰向けにさせ、四つん這いになって朔の上に覆い被さった。

 朔はぎりりと歯をかみ締め、鋭い眼光で大三島を睨みつつ、この急場をしのぐはどうすれば良いかを瞬時かつ冷静に考える。

 敵は四人。朔のすぐ上で行為に及ぼうとしている大三島の他に、腕を拘束しているのが二人、もう一人はビデオカメラで撮影中だ。

 腕はしっかり押さえられている反面、足はある程度自由であるが、現状ではどう暴れても拘束を解くことは難しそうである。

 何かのきっかけで腕の拘束が一本でも緩めば先程のように一気に状況を覆すことが出来るが、さすがにもう一度は難しい。


 ……いや、こちらから何かを仕掛ければ――。


 朔が大三島を睨みつつ思案していると、大三島は睨まれるのは心外だと言わんばかりに嘆息をついた。


「僕だって君みたいな色気の無い若い子とヤりたく無いんだよね。本当なら瑛子とかアキ子とかさおりとかアキ子とかナナとかアキ子とか熟れた色気がある人がいいんだけど……」

「瑛子? アキ子? 誰のことですか?」


 朔は聞いたことが無い名前に顔を顰めていると、


「うわっ……大三島さんってやっぱりBBA趣味だったんだ……」「……ということは、あの噂本当だったんだな……」「噂? なにそれ」「BBA趣味を拗らせて、女子体育の福江ことドラミちゃんとデキてるってヤツ」「マジで!? ドラミちゃんってありえないっしょ」「だよなー。どう見てもただのビア樽だし、ナシだろ」「ナシだな」「俺、吐き気が……」「しっかりしろって!」


 なぜか周りの男子がドン引きしていた。ちなみにドラミちゃんとはこの天道学園の体育教諭である福江先生(五一歳・独身)のことだ。

 福江先生は小柄で自身の見た目が可愛らしいことから、ドラミちゃんという愛称が付いたと思っているようだが、現実はもっと残酷である。

 そもそも五十歳を過ぎたオバサンを若い生徒たちが可愛いと思う訳が無い。いつも黄色いジャージを纏い、低身長とビア樽の如きボディという風体から付いたあだ名であるのは生徒なら誰でも知っている事実だった。


 ……たった一人の生徒を除いて。


「BBAじゃ無いよ! 熟女! あとドラミちゃんを悪く言うな! ドラミちゃんはとってもキュートで可愛いから! もー、君が余計なこと言うから誤解されたじゃない!」

「誤解じゃないと思いますけど……」


 どう考えても大三島の自爆であるが彼はそれを認めない。彼の中ではドラミちゃんは誰よりも可憐なヒロインだからだ。

 朔は先程までの怒りを忘れ、その歳で熟女好きって一体どうしたのだろうと逆に心配になり、心底哀れむような瞳を大三島に向けた。

 朔の哀れむ視線や男子達がドン引きする空気にいたたまれなくなった大三島は、その空気を誤魔化すかのように強引に朔に制服とスカートをたくし上げた。朔の白い柔肌と純白のブラ、そして濃紺のブルマが白日の下に晒され、男子達が興奮のあまり歓声を上げる。


 しかし、大三島だけは渋い表情を浮かべ、


「なーんだ、君ってNPOですらないんだ。ホント色気ゼロだね、女捨ててるの?」


 呆れたように言い放った。

 朔は彼の言っている意味がわからす目を白黒させる。


 ……NPO? 非営利団体のこと? でも、それじゃ意味が……。


 朔は頭に疑問符を浮かべ困惑した。周りの男子達も同様に意味が判らない様子である。それを見た大三島は得意げに語り出す。


「NPOとはすなわちノーパンツおっぱい……ついては下着を何も付けていない状態だよ! ドラミちゃんが「年頃の女の子なら普通はいつでもNPO」って言ってたから間違い無いよ! どうだい? 少しは利口になったかい」


 ドラミちゃんが言う年頃の女の子とは一体何歳のことなのか。

 それはさておき、どう考えても間違いだらけであるがこれが愛の成せる業だろうか。大三島はその答えに一片の疑いも感じさせない潔いくらいのドヤ顔を浮かべていた。

 その清々しいドヤ顔ぶりに、愛というものはこうも人を狂わせるのだなと、思わず悟ってしまう朔である。

 なお、今の発言を聞いていた男子達は、


「大三島さんって頭がちょっと気の毒なんだな……」「拗らせすぎだろ……誰か教えてやれよ……」「大体、制服の下に下着を付けてない奴なんている訳ないだろ」「もしかして、ドラミちゃんがいつでもNPOってことなんじゃ……」「……マジで?」「嘘だろ……」「俺、吐き気が……」「気を確かに持てって!」


 ドン引き祭り第二弾が絶賛開催中であった。


「あれ? あれあれ?」


 愛ゆえに常識を拗らせた大三島だったが、周囲のあんまりな反応に、どうしてこうなったのかと困惑する。

 そんな気まずい空気の中、朔が無常にもとどめを刺す。


「ババア……おっと失礼、ドラミちゃんでしたか。まあ、どっちでも一緒ですけど。そんなババアなんかに簡単に騙されてしまう愚かでかわいそうな先輩、老婆心ながら早く嘘を嘘と見抜ける大人になれることを心からお祈りいたしますよ。……ああでも、もう成長期は終ってましたか。既に手遅れでしたね。気が付かなくてごめんなさいです。てへぺろ」


 朔の狙い通りに空気がフリーズした。

 しばしの沈黙のあと、周りの男子達から笑いを押し留めるような声が漏れた。

 大三島は一瞬だけ顔を蒼白にしたと思うと、瞬く間に顔を紅潮させ、「茶番はこれまでだよ! 潰してやる!」と声を荒らげた。

 しかし、男子達は同調せず、冷やかでどこかバカにしたような視線を大三島に向ける。

 そんな視線を敏感に察知した大三島は、上半身を起こし「コイツの言葉なんか信じるな! 騙されてなんか無いし、ボクはまだ成長期だ!」と必死に弁解するが、当の男子達は「コイツ、必死だな(笑)」と言わんばかりのニヤニヤで大三島を眺めていた。


 ……よし、隙が出来た!


 男子達の意識が完全に大三島に向いたことを察知した朔は、一気に形勢を逆転すべく左腕にぐっと力を込めようとした瞬間――


 ぼこぉ!


「お前たち! 狼藉はそこまでだ!」


 何かを持ち上げた音と共に聞きなれない声が体育倉庫に響いた。

 朔が驚愕して声の方に視線を向けると、その視線の先に跳び箱の一番上を両手で下から突き上げ、腰を左右に振る白い詰襟の男子の姿が目に入った。

 白い詰襟の制服姿は凛々しく、身長は男子の平均以上はあり、そのうえ容姿は非常に端整でまるで眉目秀麗という言葉を体現するような整いぶりであった。

 だが、残念なことに跳び箱を持ち上げ、腰を振る行動は変態そのものであった。この行動が許されるのは日曜午後六時三十二分頃だけだ。やはり、天は二物を与えずというのは本当らしい。

 ところでこの白詰襟男(仮称)は、どうやら跳び箱の中に潜んでいたらしいが、朔には理由がさっぱりわからない。大三島とその取り巻きである男子達も考えは同じようで、突如跳び箱内部から現れた白詰襟男を唖然として眺めていた。

 どれほど時間がたっただろうか。ふいに白詰襟男が腰振りを止めると、急に「不純異性交遊に天誅!」と叫び出し、跳び箱上部を大三島に向かって投げつけた。

 なお、大三島の下には当然の如く朔が居るのだが、そんなことはお構いなしの所業だった。

 朔は「あ、コレ死んだかも」と覚悟完了の境地に入ったが、大三島が跳び箱を咄嗟に避けようと体を伏せたのが幸いし、跳び箱は大三島の後頭部を直撃。さらに跳ねた跳び箱が朔を拘束していた男子二人を巻き込んで停止した。


「よし! 計画通り!」


 朔は気を失い朔の上で伸びている大三島をどけながら、ご覧の有様を見て計画通りと言えるその根性にある意味感心する。

 白詰襟男はカメラを構えていた男子と、跳び箱の下から這い出してきた男子達を見回し、凄みを利かせ問いかける。


「ここで何をしていた」

「……いや、その……」

「説明できないことをしていたんだよな。どうだ、違うのか?」

「先輩に言われて……だから……」

「だから、俺たちは悪くない。とでも?」

「…………」


 白詰襟男の凄みのある問い詰めに男子達が言葉を詰まらせ、どうしようかと目配せをした。

 白詰襟男は苛ついた様子で近くにあった三角コーンを地面に押し付け素早く蹴りこんだ。

 三角コーンはバキリと鈍い音を立てて二つに割れる。その蹴りの威力に男子達が怖気付く。


「次にこうなりたくなかったらそこでノビてるガキを持って消えろ」


 白詰襟男は男子達に向かって言い放つ。

 白詰襟男の威圧に怖気付いた部員たちは気絶中の大三島を抱えると、鈍色の扉に取り付き我先にと逃げていった。


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