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ボクと妹の不適切な関係性  作者: 九巻はるか
第一章 向日島のお姫様(おひいさま)
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第八話 はぢめての更衣室

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、私は石です私は石です私は石です私は石です、何も見ていない何も見ていない何も見ていない何も見ていない……」


 更衣室内、体操着姿となった朔は部屋の端っこで身を縮こまらせながらぶつぶつと呟いていた。

 朔だって身なりはともかく心は男であった。それもとびきりうぶな男だった。

 女の園である女子更衣室に本意ではなくとも入ってしまったのだから、懺悔の一つくらいは出てきてしまうのも無理はない。


「朔ちゃーん! 壁に向かって何してるの」


 そんな朔の気持ちも知らずに葵は背後からから飛びついてくる。


「ひゃん」


 思わず変な声をあげてしまったが、今の朔にとっては瑣末な問題だ。なぜなら、背中に何か柔らかいものが当たっているからである。

 朔はソレが何か考えないように精神を統一させる。


「あはは、朔ちゃんてば、なにその声♪ なんだからしくないよー。いつもなら「触らないで(怒)」とか辛辣なのに」

「ベツニソンナコトアリマセン」

「今度は片言だし、変なのー?」


 上半身がブラだけの葵は、朔の肩に手を置くと体を寄せながらケタケタ笑った。


「ところでどうしてこっち向かないの?」

「一身上の都合です」

「そんなに照れなくてもいいんだよ、女同士なんだから見られたって平気だよ。ほれほれ」

「背中にその、なにか当たっているのですが……」


 朔は思わず指摘する。『なにか』なんて本当は解っているが、理性がソレの特定を許さない。


「わかっている癖に♪ 当ててるのよ♪」

「スイマセンワカッテイマシタ」


 朔はあっさりとソレの存在を認めると、背中に当たる感触を意識しないようにじっと身を硬直させた。

 葵は顔を伏せ、笑いを堪えるようにぷるぷると震え出した。


「どっ、どうしたの?」


 朔は何事かと思い後ろを覗き見る。

 葵は俯いていた顔をゆっくりとあげると、にっこりと微笑んだ。

 なぜかその表情にぞくりとする。脳内にアラートが響き渡る。


「……ついに、ついに、ついに、朔ちゃんゲットだぜ! さすがに教室では人の目があって出来なかったけど、更衣室なら無礼講だよね! セクハラOKだよね! 今日は朔ちゃんの体を存分に堪能させてもらうよーーーー!」

「なにその超理論! 更衣室でも人の目はあるし、セクハラも駄目だよ!」


 朔は必死に制止するが、葵はそれを完全に無視。肩に置かれていた手を抱きかかえるようにして朔の身体に手を伸ばす。


「ちょっと! あ、やだ、ちょっと止めて!」

「はぁはぁ、朔ちゃんの生足すべすべ……いい……いいよ!」


 更衣室でいきなり始まった百合行為に、周りで着替えていた女子からはひそひそとした囁きが洩れる。


「また、葵のアレ始まったみたいね」「アレさえ無ければ気さくでいい子なんだけどね……」「相手がアイツなんだからいいんじゃない」「そうそう、あんなヤツにも使い道があって良かったじゃん」「女でもイケルって噂だし役得でしょ?」「うわ、両刀ビッチかよキモいー」


 洩れ聞こえる言葉からは朔に対しての好意的な意見は無く、改めてクラスでの立ち位置を認識する。

 もっとも、朔自身もクラスメイトを拒絶はしても馴染もうとした事が無いので、評判の悪さは仕方ないことと諦めていた。

 しかしわからないのはいくら拒絶しても執拗に絡んでくるこのセクハラガールこと葵である。


 ……ボクの何がいいのだろう。あれだけ邪険にしていれば普通は嫌いになると思うのだけど。


 多少の罪悪感を覚えながら朔は身体を弄る葵を後目でちらりとみると、朔の感触を楽しむあまりトリップ気味の葵が見えた。

 なんだか抵抗するのも面倒になってきた朔は、半分諦めて葵に体を預けていると、葵の手が体操着の中に進入した。

 朔はしまったと思うが後の祭りである。


「やっ、中は駄目だってば! 胸触んないでよぅ!」

「いやもいやよも好きのうちだよねー!」


 葵は右手をブラの下に差し入れて朔の胸を思いっきりつかみ、左手はお腹をまさぐりだす。

 その胸や肌の感覚に恍惚とした表情を浮かべている。


「やだ……ん……直接は駄目だってば……」

「ここか? ここがええんか? はぁはぁ、思っていたよりもおっぱい大きいし柔らかいぃぃぃ! お腹もすべすべでたまんないようぅぅぅ……お? おお?」


 執拗に胸を揉みしだき、お腹を弄る葵がその手を急に止める。むむむと真剣な表情を浮かべ、口を開いた。


「……お腹に傷跡があるね。誰にヤラれたの! 正直に話して! 私が復讐してあげるから!」

「!」


 朔は腹部の傷跡のことを探られて内心焦るが、


「ええと、そこは……うん、盲腸で手術した後。……それよりも思っていたよりも胸が大きいってどういう意味?」


 平静を装い話題を葵が好きそうな胸の話しにすり替える。


「いやー、希はまな板のように胸の膨らみが無かったからねぇ。双子の姉妹でもこうも違うのかと、生命の無常さを感じたところ。ま、貧乳も嫌いじゃないっていうかむしろ趣があって好きだけど、やっぱり貧乳はギルティーで巨乳がジャスティスだよねー」


 話のすり替えに上手く引っかかった葵がしみじみと希の胸についてに語り出した。


「まあ、希はぺったんこだからね――って、キミ、まさかとは思うけど希の胸……揉んでないよね……?」


 一度は納得顔で葵の言葉に同意した朔だったが、葵が希にしたであろう行動に気がつくと、急に絶対零度の気配を纏って真意を問いただす。


「え? ……いや……うぅん?」


 地雷を踏んだことに気が付いた葵は、曖昧な返事で誤魔化そうとするが、そんなことで朔の追及がやむはずが無い。

 朔は重度のシスコンであった。妹である希を害するものに容赦などするつもりは皆無である。

 朔は今まで壁に向かって縮こまっていた身体をくるりと回転させ、葵と向き合うとにこやかに凄んだ。


「希に手を出したらどうなるか……勿論、分かっているよね?」


 朔の小さく華奢な拳が、ゴキゴキと見た目にそぐわない音を発生させる。

 にこやかなのに直視したら石にさせられそうなくらい冷たい視線から葵は顔をそらし弁解する。


「いや揉んでない、揉んでないよ! ただ見ただけ! ここで見ただけ! やだな、私だってそんな見境いなく襲わないよ! ほら、私っておっぱい星人だし、貧乳に興味ないというか!」

「貧乳に興味ない? ……本当に? キミ、さっき貧乳も趣があって好きって言ってたよね?」


 朔は目聡く葵の矛盾点を突く。まったく、いやらしい性格である。


「本当、本当だって! 私は無実なの! 貧乳も好きだけど、貧乳はあくまで観賞するものだから揉んでないの! そこまで疑うのなら希に聞いてもらってもいいよ!」


 葵は心の中で本当に聞かれたら死ぬなと思いながら、必死に弁解する。


「……ふむ、ならいいけど、本当に手を出したら……分かるよね♪」

「ええ、勿論です……」


 朔の凄みのある言葉にコクリとただ頷くだけの葵であった。



「ところで……やっとこっち向いてくれたね、その姿すっごい似合ってるよ♪」


 葵は正面を向いた朔を上から下まで嘗め回すように見る。


「あっ……う……」


葵と向かい合っていることに気が付いた朔は、両手の人差し指を目の前で合わせると恥ずかしいそうに俯いた。


「いつ見ても、朔ちゃんのブルマは輝いているね!」

「うぅ、なんで私だけ……」


 ブルマ姿の朔は呻るようなため息を漏らした。


「今年から指定体操着がブルマになったから仕方ないよ!」


そういう葵は朔とは違いハーフパンツ姿だ。

 葵の言うとおり、確かに今年から指定体操着がブルマに変更になったのだが、昨年までの指定体操着であったハーフパンツが禁止になったわけではなかった。

 あくまで今年度学園に入学した新一年生と他校から高等部一年目である四年生に編入してきた生徒が、新しい指定体操着であるブルマを義務付けられるのであって、在校生はどちらの体操着を着ても良いのである。

 なお、朔のクラスにおいて、高等部からの編入組である女子は朔のみであるため、いじめに遭っているかのように一人ブルマリアンであった。


「なんで、こんなことに……」

「噂では天道理事長がブルマ夫人(実在)の理念にいたく感動したから、今年からブルマになったみたい。新一年生と編入組はご愁傷様だね。ま、私にとっては最高のプレゼントだけど♪」


 葵は朔を鑑賞しながら満足げに言った。


「ほんと最悪――って、なんでまだ着替えてないの!」


 朔は今更ながらブラだけの葵の姿に気が付いた。

 大きな乳房が目に入る。朔は急に顔が燃えたように赤くなり、慌てて視線をそらす。

 自分の乳房には見慣れている朔も、下着姿の他人のそれを間近で見たことが無いため、気恥ずかしさでいっぱいだ。


「あれー照れてる? 朔ちゃんならいくら見ても良いんだよ♪ なんなら揉む?」


 葵は朔の表情を見て、見せ付けるようにわざとしなをつくる。すると、大きな乳房がより強調され、女性の色気というものが朔を襲う。


「……だって、他の人の下着姿なんて……見たこと無いし……」


 朔が弱弱しい声で呟く。葵が寸刻の逡巡ののち疑問を口にした。


「中学との時はどうしてたの? 水泳だってあったでしょ」

「中学はジャージ登校OKだったから更衣室なんて使ったことないし、水泳の授業も無かったから……」

「そっかー、でも女同士なのになんでそんなに照れるかな?」


 葵はどうも解らないという顔をする。すると朔は申し訳なさそうに呟く。


「それに、罪悪感もあるし……」

「罪悪感って?」


 朔は失言に気が付きはっとした顔をすると、「先に行ってるね」と一方的に会話を切り上げ、さっさと更衣室を出て行った。


 一人更衣室に取り残された葵は、朔の不可解な行動にただ首を傾げていた。


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