第四話「生徒会長Ⅱ」
路地裏にて倒れ伏した二人の強盗と、その傍ら立つ、マントに身を包み込んだ謎の人物。
普通に考えてこの二人を倒したのはこの人なのだろう。
「あなたが、これを?」
「そうよ、見ての通りね」
戸惑う僕の質問に返ってきたその声は、意外にも女性のものだった。
「その若さでこんな所まで追ってくるなんて、将来有望な勇者か、それとも高名心の強いだけのバカか。まあ、一まずはどちらでもいいわ。この世界に生きる先輩として一言」
そう言って彼女はこちらに向き直る。
「今からあなた達が手にする強さ。それを何のために使うか、誰のために使うか。よく考えることね。国のため、今みたいな事態に対して正義の味方として、ただ自分のためとかいう答えを持ってるつもりでも、中途半端な動機と覚悟はすぐに折れることになるわよ」
そう告げたその女性の体が、突如地面から溢れ出した淡い水色の光に包まれ始める。
「それじゃあ、また機会があった会いましょう。ルーキーさん」
そう言い残して彼女は僕達の前から光とともに姿を消した。
「異能力」
海外では「マジック」や「ESP」とも呼ばれるこの力が眉唾物であったのは最早一時代前の話。
今やその存在は二十年ほど前から世間に知れ渡り、研究も進み、貴重な戦力の一つとして数えられている。
今の人が急に消えたのも彼女自身か他の協力者が、空間跳躍系の異能を使ったのだろう。ハッキリ言って発動の瞬間以外僕達に驚きはなかった。
そしてすぐ追い付いてきた警察の人達に事情を話しつつ、僕の頭の中には何故彼女が私服で制服を着ていない僕達が、今日高校に入学したことを知っているかのような口振りをしていたのか。そしてあの声をどこかで聞いたことがある気がするという疑問を抱えていた。
沈み行く夕日に照らされた桜真区中央通り沿い。強盗の捕まった路地のすぐ近くのビルの屋上にて。
つい先ほど路地に溢れたのと同じ水色の光が発生し、それと共に先ほどの女性が出現した。
「お疲れ様、概ね問題はないようね」
「ええ。ここまでの移動、ありがとうね雪」
その出現を待っていたように、屋上に立っていたのは霧原第一高校の制服に身を包んだ少女だった。
屋上の人影が彼女一人なのを認めるとマントの女性もその身に纏ったマントを脱ぎ捨て、その下の素顔を露わにする。
その素顔、正体は霧原第一高校今代生徒会長・奏凍子その人であった。
「けどまさかあんな形でウチの新入生と遭遇するとはね、流石にちょっと驚いたわ」
「驚きつつも先輩としてのアドバイスか。正体いつかばれても知らないわよー」
「まあ、最悪バレてもあの子達なら平気よ。私が正体隠してるのは犯人が報復に来た場合、学校を巻き込まないためだから」
夕日に燃えている街並み、その先にある霧原第一高校を見つめ、その生徒達の長たる彼女は続ける。
「さてあの三人もだけど、資料見た限りだと今年の一年は面白そうな子ばかりだからね。今年こそ我らが霧原第一の躍進の一年にしたいものね」
「分かってる。そのために私も全力でサポートするわ」
霧原第一高校のトップエース二人。彼女達が一年E組に関わってくるのはもう少し先の話になる…
警察署での事情聴取を終え、すっかり暗くなった空の下に出て来た僕達三人を待っていたのは、思いもよらない二人だった。
「よう、お疲れ様。お三方」
「ふふっ愚痴なら聞くから、ついでに使えそうな情報何でも教えてちょうだい」
「お前達は確かクラスメイトの…」
「改めて七山鈴鹿よ」
「それじゃあ俺も、大川新二だ」
そこにいたのはさっきの自己紹介で目立っていた情報中毒の七山さんと、大川君だった。
「どうして二人がここに?」
「いやーあの後コイツならいい稼ぎ話知ってるんじゃないかと思って、色々話してたらさー、急に駅前で一悶着あったなんて情報聞きつけて鈴鹿ちゃんが走って行っちゃうもんでな」
「そこで事件に巻き込まれた、いや巻き込まれに行ったのかしら?そんなウチの学校の生徒がいるって小耳に挟んでね。しかもよく調べたらウチのクラスの子じゃないって分かって、何か面白い話でもないかと出て来るのを待ってたのよ」
「で、俺もついでに新しい友人と絆を育めないかって思って一緒に待ってたわけさ」
これまでの二人の経緯を聞き、伊織は少し申し訳なさそうに七山さんに告げる
「だが情報と言っても何も有益そうなものは無いぞ。ホントに明日の新聞にも載りそうなことばかりだ」
「それでも充分よ。同じ内容でもその視点が変われば持ってる意味は変わるかもしれないから」
そう言うと七山さんはメモとペンをバックから出しつつ
「ひとまずは立ち話も何だから近くのファミレスでも行きましょう。あなた達も夕飯、まだなんじゃない?」
と言ってきたので、僕達はそれにのって彼女の案内に従って近くのファミレスへ行くことにした。