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干支戦記~十二支の戦い〜  作者: 寺子屋 佐助
第一章 幼児・学園編
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5話 破壊された集落

 嗚呼、何てあり様だ……。

 誰ともなしに呟かれたその言葉はすっかり変わり果てた集落を見つめる調査隊全員の心境を表していた。

 踏みつぶされた家や崩壊した道路を見つめる彼らは心ここにあらずといった状態で目の前に映る光景が信じられないからかその場で何もせずただ立ち尽くしている。

 そんな中、隊長らしき中年のネズミが氷が溶けたように動き出した。

 他の隊員も我に返ったのかそれに続いていく。

 倒れた木材やその破片で埋め尽くされたもう道路の後影もない道をゆっくりと歩きながら調査隊はこの集落の安全を確認する為の調査を開始した。

 各自バラバラに崩れた家屋の数のチェック、逃げ遅れたネズミ達の救出などさまざまな任務をこなしながら集落の隅から隅まで歩き回る。

 やがて残った家屋の確認が全て終わった調査隊は発見した負傷者を12匹、死者を3匹それぞれ担架に乗せ、嵐が通りすぎた後のような集落であった面影すらなくなった場所を後にした。



 ◇◇◇



 避難所に集まったネズミ達は早くここを出たい気持ちと葛藤しながら今か今かと調査隊の帰りを待っていた。

 昨晩より混乱自体は治まっていたがその分避難所に長くいたせいで体力と精神的な疲労が溜まっている。

 ネズミ達が避難所の中で首を長くして待っていると森の木々の陰から調査隊らしきネズミ達が現れた。

 担架を運びながらこちらへ来るその姿はとても暗く、隊長を含めた全員が俯き気味に歩いている。

 やがて彼らはジュウ達のいる避難所の前に辿り着くとそっと担架を降ろし、避難したネズミ達を呼びに行った。

 調査隊が到着した、そのニュースはすぐさまネズミ達の間に広まっていき、最終的には避難した全てのネズミが知ることとなった。

 ネズミ達全員がニュースを知り、それぞれの想いを馳せる中、集落の長である年老いたネズミが避難所の皆に呼びかけた。

「これから調査隊の報告と、それに伴う重要機構を発表するので皆さん森の広場の方へお集まりください」

 そう言って歩き出す集落長にぞろぞろとついて行くネズミ達。

 他の避難所にいたネズミ達も集落長が歩く姿を見て一斉に避難所から這い出てきた。

 やがて少し開けた場所に辿り着くと集落長はそのまま古い切り株の舞台の上に上がり、他のネズミ達は不安と期待を込めた眼差しを彼に向けた。

 集落長が舞台を上がりきった瞬間一瞬にして広場は静まり返った。誰も一言も発さず集落長の言葉を待っている。

 やがて短い咳払いと共に集落長は今回の事件の被害とその後の処置について話しはじめた。

「皆様……明けましておめでとうございます。皆様も知っての通り今回私達の集落は類稀なる災害におわれ、多数の被害を受けながらこの度幕を閉じました。現在の被害総額はまだ分かっていませんが調査隊によると、集落そのものが全滅した模様です。逃げ遅れた被害者の数は負傷者が12匹、死者が3匹で死体は全て身内の方が引き取っています。今後どのような対応をとるかはまだ検討中です。検討が終わり次第速やかにお伝えするので皆さんそれまでは休憩を取るなりしてお待ちしていてください」

 集落長の言葉に唖然としているネズミ達をよそに集落長が壇から降りると、静まり返っていたネズミ達が一斉に湧いた。

 ある者は危機が去ったことに喜び、またある者は家族を失い泣いた。ある者は集落の状態を見に走りだし、またある者は呆然と立ち尽くしていた。

 そんな中、とある小さなネズミは親の手を振り払うと一目散に集落の方向へと駆け出して行った。

 足を引きずりながらかけるその姿は紛れもなく群青色の毛のネズミ、リュウそのものであった。



 ◇◇◇



 足が千切れてしまいそうなほど痛い。辛すぎて倒れてしまいそうだ。

 僕は延々と続く森の中を必死な想いで駆け抜けていた。時折僕の足を掠める葉っぱや枝が邪魔で憎たらしい。無理な体制で進もうとすれば傷口を広げ、かといって遠回りする為の時間は惜しい。

 僕はその時軽く現実逃避をしていた。それこそ自分の身体がボロボロになるまで。僕は集落長さんの言った言葉が信じられなかったのだ。

 チュウ兄ちゃんとシュウ兄ちゃんは生きている。僕はその為に助けを呼びに行ったんだ。

 そんな想いで僕は自分の足を無我夢中に無理矢理動かしていた。

 枝を飛び越え、石を避け障害物を乗り越えながら進む。

 今ほど集落までの道のりが遠いと感じたことは無かった。

 やがて一番乗りに集落に辿り着くと、僕は自分の目に映る景色を疑った。

 荒れ果てた道路に踏みつぶされ壊れはてた屋根。あの高くそびえ建っていた建物でさえ今は僕の身長を下回っていた。

 僕は自分の見たものが信じられなかった。壊れはてた現実の世界が涙で滲み崩れた。

 気がつくと僕はまた走り出していた。壊された屋根を飛び越え、折れた木材に当たろうとお構いなしに集落の中央を突き進んだ。

 突き進んだ先に待っていたのは、すっかり焦げてなくなった僕の家。

 僕はゆっくりとその家に近づくと、兄さんの名前を呼びながら崩れていた材木を退かしはじめた。

「チュウ兄ちゃん、シュウ兄ちゃん‼」

 涙で声が震える。僕は声が枯れるまで叫びながら木を退かし続けた。

 折れた木の破片が手に刺さる。血が出てきた。でも今の僕にはそんなの関係ない。十分経とうが一時間経とうが僕は木材を退かす作業をやめなかった。

 黙々と材木を動かしていると、やがてある一本の柱の下から黒い毛と茶色い毛が大量に出てきた。

 僕はしばらくの間、二つの異なる毛を見つめ、立ち尽くしていた。

 茶色はチュウ兄さんので黒はシュウ兄さんのものだ。

 頭では分かっているものの心は事実を頑なに受け付けない。

 僕は気がつくと膝をついてわあ、と泣き出していた。

 当時まだ五歳だった僕は他になす術もなくただただ泣きつかれるまで泣いた。

 僕の泣き声を聞いて誰かが近づいてくる。

 そのネズミは僕を抱きかかえるとそのまま座った。必死に涙を堪えて鼻をすする音がする。もう一匹は僕らの隣に立つと口を抑えていた。

 今にも崩れそうな表情をした彼らは僕の知っている兄さん達と同じ匂いがした。


 一月一日、正月最初の日に起きた悲しい事件のことだった。



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