24話 特進クラス
明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
リュウが体育館を水浸しにしてから数日。リュウの家に訪れる形で彼の担任であるヒヨリはリュウ達ハツカネズミ一家に体育館で起きた出来事の説明と、リュウを特進クラスにいれないかという打診していた。
「リュウ君ほど、体育館全体を水で満たせる量の魔力を持っている生徒はうちの学園でも見たことがありません。つきましては一年生という特例ではありますが、リュウ君を特進クラスに編入させるのはいかがでしょうか?」
ヒヨリの提案に対して、リュウの保護者たちはそれぞれ違った反応を見せていた。
「うちのリュウにそんな力が」
自分の息子に魔法の才能があったことに驚く反面、わざわざ学校側から推薦されるほどリュウが優秀であることに誇らしく思うジュウ。一方でミュウは、ジュウとは対照的に心配げにリュウを見つめながら口を開いた。
「危険だわ。まだリュウは小さな子供よ」
聞けば特進クラスに入れば、より実戦的な授業になり、場合によっては猫がいる戦地に赴くことすらあるという。ミュウはそこまでの説明を聞いてジュウに訴えるように視線を向けた。
「もしまたあの日と同じことが起きたら?」
数年前の大晦日の日。集落が猫に襲われたことによりチュウとシュウを失ったあの忌々しい日を思い出しながらミュウは目に涙を浮かべた。
これ以上息子を失いたくない。安全なところで、今度は自分の手の届くところで育ってほしい。
そう願うミュウの視線に圧倒されたジュウは思わず目をそらした。母であるミュウの心の傷は完全に癒えた訳ではない。こんなことをいうのは酷だと分かっていながらもジュウは苦しい表情で絞りだすように声をだした。
「……。僕らはずっとリュウの側にいれるわけじゃない」
医者として多くの患者の手当を優先した自分と父親である自分。医者としての使命だから、と蓋をしていた後悔の気持ちが溢れ出す。あの日、仕事を放ってシュウとチュウのもとに駆けつけていたら二匹は、愛する息子たちは助かっていたのだろうか?
運がよければ助けることができたかもしれない。そうしたら家族全員で楽しく過ごすことが出来たかもしれない。せめて自分が犠牲になって息子を逃すことが出来ていたら。いや、そもそも自分含めて全員捕まって食べられたり殺されたりする可能性もあった。なんならリュウが逃げることさえ叶わない可能性も…。
ジュウはあらゆる可能性を想像した後に至った最悪の想定のイメージを振り払うと、改めてミュウに向き直った。
「いつ死ぬかも分からない。だからリュウは…」
もう生き返ることのないチュウとシュウの面影をリュウに重ねながらジュウはきっぱりと告げた。
「…せめてリュウだけでも猫に遭遇した時に自分の身を守る術を持っていた方がいいと思うんだ」
ジュウの真剣な眼差しを受け止めるミュウ。ジュウの気持ちも痛いほど分かるが、それでも心配が勝ってしまう。
「でもいきなり実習だなんて」
これ以上リュウに危ない目にあってほしくない。遠くにいかないでほしい。ミュウはなんて自分勝手なんだろうと客観的に外から自分を責める自分を認めつつも思わずそう口にした。すると、先ほどまで黙っていたウメがゆっくりと口を開いた。
「私はあの子がやりたいようにやったらいいと思うわ」
それぞれの思いの丈をぶつけ合った大人二匹の気持ちを静かに受け止める。だがそれを踏まえてもやはりリュウが決めるべきだと助け舟を出した。それぞれの視線を浴びながらリュウは考える。母親の気持ちに父親の気持ちに祖母の言葉。全てを受け入れたリュウは徐につぶやいた。
「僕は兄さんたちを守れなかった」
もし自分に力があったならあの状況を変えることが出来たのだろうか。逃げる、という方法以外の選択肢を作ることが出来ていたなら。
「だから今度こそ」
リュウは家族全員の目を一度ずつしっかり見つめながら最後にヒヨリの目を見てはっきりと口にした。
「僕は強くなりたい。特進クラスで」




