23話 トビー学園長
明けましておめでとうございます!
今年は巳年ですね。
健康などに気をつけて今年もお過ごしください。
どうぞ今年もよろしくお願いします。
それでは本編をどうぞ。
「ほぉ。そんなことがありましたか」
クヌギの森学園、学園長のトビーの部屋にて。職員のナギサから体育館の件について報告をうけていたトビーは思わずそんな声をもらした。
伝統あるクヌギの森学園の歴史を遡っても体育館全体を濡らすほどの巨大な魔力を持った学生などいたことがなく、ましてやそれが入ったばかりの新一年生ということに対してトビーはどんな対応をすればよいのか決めあぐねていた。
通常、体育館などの共同の施設の一部を破壊・破損した生徒は自宅謹慎、他生徒に危害を加えた生徒は反省文などの処罰を与えるのだが、今回の件では生徒達は濡れただけで怪我をしてはおらず、体育館も意図的に全体を濡らされた訳ではない。かと言ってまだ生徒のことを知る段階の最初の授業で起きた事故なので、教科担当の先生の監督不足では決してない。故にトビーはこの件をどう処理するべきか分からなかった。
「ひとまず授業は中止にして他の生徒達は解散させましたが、リュウ君は念のために保健室で魔力の状態を見てもらっています」
「適切な判断です。さすがナギサ先生とイカリ先生ですね」
このようなことに対する二匹の咄嗟の対応を素直に労うトビー学園長。その後欠けた歯で下唇を噛みながら何かを考えこむと分厚いメガネの奥にある瞳をキラリと輝かせた。
「まぁここで考えていても埒があきません。一旦保健室にいるリュウ君に話を聞いてみましょう」
「いいのですか?リュウ君の診察が終わったらこちらに連れてこれますが……」
「いいえ。リュウ君の体調も心配ですし、私としてもそんな巨大な魔力を持つリュウ君に興味があります。まだ一年生ですしいきなり学園長に会うとなると緊張するでしょうから、リュウ君が少しでもリラックスした状態で話せるようにこちらから足を運びましょう」
トビー学園長の生徒を思いやる心に感銘を受けるナギサ。すぐさま出られるように部屋のドアを開けて待つとトビー学園長が杖を持ってナギサの方に歩いてきた。
トボトボトボトボとカタツムリのようなスピードで歩くトビー学園長に対してナギサは辛抱強く待つ。しかしあまりにも時間がかかるためについに痺れを切らしたナギサはトビー学園長に恐る恐る尋ねた。
「差し支えなければおんぶをしてもよろしいですか?」
「それではお言葉に甘えてお願いします」
トビー学園長を背中に乗せたナギサはトビー学園長が背中から落ちないように細心の注意をはらいながらリュウが待つ保健室に向かった。
◇◇◇
「ミタビ先生、リュウ君の具合はどうですか?」
クヌギの森学園の保健室に来たナギサとトビー学園長。着いて早々何やら机で作業をしていた茶色のハタネズミに声をかけると、呼ばれたネズミは視線をトビー学園長に向けた。
「特に問題はなかったですよ。むしろピンピンしていたくらいです」
ミタビ先生、と呼ばれたハタネズミは机の作業をやめてトビー学園長とナギサの側に駆け寄るとそう答えた。とりあえず生徒の身体に異常がなかったことに安堵する二匹。ナギサはホッとため息をこぼしながらリュウの姿を探すも、ベッドの上にもミタビ先生の近くにもいないことに疑問を抱いていると、その思考を読み取ったミタビ先生がリュウの居場所を告げた。
「今は庭の薬草畑の隣にあるタネコーナーで好きなおやつのタネを選んでますよ」
二匹を連れて庭へ案内するミタビ先生。そこにはひまわりのタネやアーモンドなど様々なおやつから一つを選ぼうと悩むリュウの姿があった。カキのタネやりんごのタネなどフルーツの種やホウセンカにひまわりなどの花の種が保管してあり、どれも目移りするほどに美味しそうだ。そんな種に目を輝かせていたからかトビー学園長やナギサが来たことに気づかないリュウの肩を叩いたミタビ先生は彼にトビー学園長やナギサの来訪を伝えると、そのまま気を遣って三匹だけの状態になるように保健室内に戻っていった。
「どうも、リュウくん。初めまして。学園長のトビーです。気分はどうですか」
沈黙で気まずい雰囲気にならないように、すぐさまニコリと微笑みながらリュウの様子をうかがうトビー学園長。ナギサの方をチラッと見たリュウに対して安心させるようにナギサも微笑むとリュウは緊張しながらも質問に答えた。
「大丈夫です」
選んだひまわりのタネに齧り付きながらそう告げるリュウ。それを指摘しようとナギサが口を開くが、それをトビー学園長が遮った。
「食べながらで結構ですよ、ナギサ先生。ここは保健室。患者に寄り添うのが筋というものでしょう。いやあ、食欲旺盛な若者。いいじゃないですか」
トビー学園長がそういうのならと引き下がったナギサはリュウが美味しそうに食べているのをみて改めて安心した。
「ところでリュウ君」
リュウがひまわりのタネに夢中になっているのを見つめながらトビー学園長は疑問に感じていたことを口にした。
「魔力形成の授業はどうでしたか?」
「もう少しで丸が作れるかな、って思ったんですけど上手く出来ませんでした。悔しいです」
おそらくだが、生まれつき魔力を多く持って生まれてきたのだろう。それ故に丸を作るというのは普通のネズミにとって些細なものでもリュウにとっては緻密で繊細な作業になってしまったのかもしれない。
そう仮説を立てたトビー学園長は突然杖で上空を指すとリュウにある提案をした。
「リュウ君、もしかして空に雲を作ることは出来ますか?」
純粋な興味ももちろんあるが、もしまだ一年生のリュウにそんなことが可能だったとしたら。
トビー学園長は今回の件の解決策を一つ頭に思い浮かべながらリュウを見つめるとリュウはトビー学園長に言われたことに対して一瞬考えながら首を縦に振った。
「多分、出来ると思います」
先ほどの丸を作る作業は難しかったがなぜか空に雲を作るくらいなら出来る、という謎の自信が湧いてくる。
リュウは遥か上空に向かって前足を伸ばすと、そのまま雲をイメージしながら魔力を放出した。すると、サファイアのような青い光を放つ魔力がリュウの身体を離れて上空に上がっていった。やがてその魔力が高く昇り雲の形を形成する。青い光が無くなる頃には立派な雨雲になった灰色の雲は龍のような稲光を発しながら雨となって降ってきた。土砂降りとなって降りかかるリュウの魔力は地面に辿り着く前に消散し、同時に空にかかっていた雲も嘘のように消えていた。
自分が目にしたものが信じられないトビー学園長とナギサだったが、それ以上に当の本人が自分の前足を見つめて、目を丸くして一番驚いていた。
そんなリュウを見たトビー学園長が覚悟を決めた顔で向き直るとそのまま真剣な眼差しでリュウに告げた。
「あなたのご両親ともお話しないといけませんが、リュウ君」
これを口にすれば前代未聞な上に教育者としての格も疑われてしまう。しかし、リュウの才能や自分の魔力をコントロール出来ない危なっかしさを目の当たりにした今、トビー学園長は全責任を背負う覚悟でリュウに尋ねた。
「まだ一年生ですが特進クラスに編入する気はありますか?」




