20話 入門試験
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ツインマウスはずれの針道の道場にて。
「早速だけど入門試験を受けてもらうよ」
「入門試験?」
群青色のハツカネズミのリュウはふくよかなハリネズミ、イゲルの発言に対して首を傾げていた。
二人の様子をそばで観察しているミュウもいかにも初耳といった様子で目を開いて耳をピコピコと動かしている。
それもそのはず。なぜなら入門試験のことなど習い事のパンフレットには載っていなかったからだ。
「そんなに難しいことじゃないよ!大丈夫。リュウ君、だよね?君のための適性診断みたいなものさ」
名前を呼ばれてビクッとしたリュウに対して、イゲルは屈みながら視線をリュウに合わせると、そのまま彼に分かりやすいように言葉を選びながらそう告げた。
「君も学校で自分の魔力の属性診断を受けただろ?火・木・水・土・風・金の六つの属性が魔力にもあるように針道にもスタイルっていうのかな?色んな流派があるんだ。分かるかい?」
イゲルの説明でミュウはなるほどなるほど、と首を縦に振っていたが、リュウにはイマイチピンときていないようだった。
「じゃあ実際に見せてみるよ。ちょっとだけお母さんのところまで行って見ててくれるかい?」
リュウは指示されたとおりにミュウの側に駆け寄るとそのままイゲルを見つめた。イゲルは近くに並べて置かれていた訓練用の針を手にとるとそのまま部屋の中央付近、リュウ達からは離れすぎていない位置に移動しながら説明を始めた。
「まず針道には大きく分けて古典派とハチ流派の二つがあるんだけど、古典派はハリネズミ本来の動きだけで闘うもので、特徴としては護身、もしくは迎撃しかしないのと、武器としての針を構えるんじゃなくて身に纏って扱うってことなんだ」
先程手に取った針を床に転がしたイゲルは、一瞬のうちに身体中のハリを逆だてると、そのままイガグリ型に身体を丸めて埃をたてながら転がりだした。後退したり左右に転がりながら威嚇をするイゲルの技に対し目を輝かせているリュウ。イゲルがその様子を見ながら内心ガッツポーズを決めると、そのままリュウの関心を保つために次の説明に入った。
「古典派がハリネズミ本来の防衛本能というか動作を取り入れてどちらかといえば守り重視なのに対して、ハチ流派は攻めの一手が重視される流派なんだ」
転がるのをやめて一旦元の場所に戻ったイゲルは置いておいた針を拾いあげると一転。今度はその場にじっと止まったまま精神統一を始めた。的を絞っているかのように一点を見つめ息を整えるイゲル。そのまま予備動作もなしに目を見開くと次の瞬間、いつのまにか無音だった道場の中を鋭い風切り音が響き渡り、イゲルが宙を突いた。しばらくの間の後、緊張の糸が切れたようにイゲルが針を下ろすと、まるで音が返ってきたと錯覚するほど深く呼吸をしてリュウの方を向いた。針の先端には先程古典派の実演の際に宙に舞っていた埃が突き刺さっている。タラリと垂れた汗をぬぐいながらイゲルはリュウとミュウの側に近寄っていった。
「どうだったかな?僕は師範代でまだまだ未熟者だけどなんとなく針道がどういうものか分かってくれたかい?」
リュウが目をキラキラさせて首をブンブンと縦に振っているとミュウが恐る恐るといった様子で手を挙げた。
「すみません。古典派もハチ流派もすごいという事は分かったんですが、その、やはりハリネズミだから出来るものだと思うんですがどうなんですか?」
ハツカネズミであるミュウはリュウにイゲルと同じような芸当は無理だと思ったのだろう。声色に若干の落胆の色を滲ませながらそう尋ねるとミュウはリュウの肩を抱きながら彼の頭を撫でた。
「大丈夫ですよ、大丈夫!」
その様子を見たイゲルは門下生ゲットのチャンスを逃すと思ったのだろうどこか慌てた様子でそう告げると、今度はミュウに向かって口を開いた。
「確かに古典派もハチ流派もハリネズミならではの動きが多いですけど、この道場が教えてるのはそのどちらでもないんです!」
どこにも行かないでくれとジェスチャーをしながら訓練用の針のところに擦り寄っていったイゲルは、今度は特殊な彫刻が施された訓練用の針を手に取ると道場の中央ではなくリュウ目掛けて歩き出した。そのまま針をリュウに握らせるとイゲルは彼に向かって質問した。
「この針は魔素を流し入れることが出来る特殊な加工がされているんだけど、適性診断としてちょっとリュウ君の魔素を流し入れてくれないかな?」
「分かりました」
リュウがイゲルの言われるがままに魔素を流し込むと針が青みを帯びた光を放った。その様子を興味深く見つめるイゲル。少し気まずくなったのかリュウがミュウの方を見ながら身じろぎしていると、イゲルはリュウに対してやや困惑気味にこう告げた。
「君は水属性なんだね。でも何か不思議な感じのする魔素の流れ方がするんだね、なんでだろ?」
後半にかけてぶつぶつと独り言のように小さい声で呟きながら首を傾げるも、今は説明途中だと思い直したのか、イゲルはリュウに対してこう告げた。
「まぁとにかく君の魔力からは激しさや攻撃性を感じないからどちらかというと守りに適性があると思うよ。つまり古典派がいいと思うんだけど、ハツカネズミの君じゃ難しい。ふーん……。突然だけど君ならどうする?」
「えっ?ちょっと分からないです」
突如振られた質問に対して戸惑うリュウ。そんなリュウに対してイゲルは満面の笑みを浮かべると彼に向かってこう言った。
「簡単だよ。君もハリネズミになればいい」
そう言ってイゲルはリュウに背を向けて自分の背中の針を見せつけるとそのまま訓練用の針が置いてある場所にかけていった。
このお話はいつまで続けるんだろうか?




