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干支戦記~十二支の戦い〜  作者: 寺子屋 佐助
第一章 幼児・学園編
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19話 イゲルと老いたネズミ

明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!

 ツインマウスに新しく建てられた針道の道場の師範代であると同時に、新たな門下生が現れるまで掃除番をしていたハリネズミ、イゲルが門を開けると、そこには年老いた群青色のハツカネズミが立っていた。

「いらっしゃーい、ってあれ?すごく濡れてるじゃないですか?大丈夫ですか?」

 この雨の中を傘も差さずに歩いてきたからか、ハツカネズミの身体はずぶ濡れで、全身から垂れた水滴が足元まで伝っていた。しかし、普通は雨に濡れてしまっては全身の毛がどんよりと濃く染まるものだが、このハツカネズミの場合は艶を失わず、毛並みがまるでサファイアのように輝いていた。

 あまりの毛並みの美しさに目を奪われたイゲルは一瞬立ち止まっていたが、年老いたハツカネズミのヒゲがピクッと震えたのをみて我に帰ると慌てて口を開いた。

「…い、今何か拭くものを持ってきますね!」

 ドスンドスンと足音を立てながら走っていくイゲルを品定めするようにじろじろ見つめるハツカネズミ。奥に下がっていったイゲルを他所に年老いたハツカネズミは道場の中をじっくりと観察していると、またドスンドスンと床を振動させながらイゲルが戻ってきた。

「これ使ってください」

「…礼を言う」

 ネズミ一匹がすっぽり入る、道場の雰囲気に全くそぐわない花柄のハンカチを受け取った老ネズミは、犬のようにブルブルと身体を震わせて水滴を落とすとヒゲを中心に身体を拭きはじめた。

 そんなハツカネズミを注意深く観察するイゲル。その引き締まった身体や雰囲気、立ち振る舞いからただのネズミではない、と推測したイゲルは、実力をはかるためにさも道着の糸くずを見つけたかのように自然な流れで老ネズミに触れようとした。

「糸くずが付いている、か?」

 空気が固まる。心の中が見透かされたと同時に一瞬身構えたイゲルに対し、老ネズミは何の躊躇もなく質問を重ねた。

「ここの師範はいるか?」

「…師匠は今留守にしております。師範代のわたくしに出来ることでしたら何なりと」

 緊張で一瞬、声が出なかったがなんとか堪えて口を開いたイゲル。それをみた老ネズミはそのあまりの怯えように表情を緩めるとそのまま彼に告げた。

「別に道場破りをするために来たわけではないから安心しろ。だが、師範がいないのならばここに用はないな…。其方に伝言を頼めるか?」

 はい、と了承の返事をするイゲル。

「少し長くなるのだが、何か書くものはあるか?」

「あ、すぐに持ってまいります!」

 そう言ってまたドスンドスンと道場を突っ切っていくイゲルの背を見つめていた老ネズミだったが突然、何かを感じたのか耳をピクリと動かすと少し遠くを見つめた。視線の先にはピコピコと跳ねながら近づいてくる群青色の小さなハツカネズミとその保護者と思わしきネズミが歩いてくる。

「少しばかり早いな」

 老ネズミは一瞬でその場を離れ、ギリギリ道場とネズミとを視認出来るところまで走っていくと、突然立ち止まり振り返った。

「まだ会うわけにはいかないからな」

 そう言って去っていく老ネズミの後ろ姿はどこか名残りおしそうだった。



 ◇◇◇



 群青色のハツカネズミ、リュウとその母、ミュウが道場に着くとそこにはキョロキョロと辺りを見渡す大柄なハリネズミ、イゲルがいた。その丸々とした体に似合わず、俊敏に動く様は世間の抱く巨漢のイメージとは大きくかけ離れている。

「あれ、どこに行ったんだ?」

 どうやら何かを探しているらしく、しきりに頭を傾げながら遠くをみたり、道場の門を出たり入ったりしていた。

「どうされたんですか?」

 その困っている様子のハリネズミを見兼ねたミュウは、彼が門の外に出てきたタイミングで声をかけた。

「いや、あの、おかしいな。あの、群青色のハツカネズミを見かけませんでしたか?」

「?えっと、うちの息子の毛は群青色ですが…」

 ミュウの陰からぴょこっと顔を出したリュウに思わず目を見開くイゲル。びっくりしたのかその巨体を強張らせている。

「いや、もっとずっと年を召されていてこう、体格とかオーラがすごい人なんですが…」

「?そんな方、ツインマウスにいたかしら?」

 そもそも群青色の毛をしたハツカネズミがあまりいない中で更に高齢であるという条件に該当するネズミが思い浮かばなかったミュウは困惑顔で彼を見つめ返すと、イゲルは手に持った紙と筆に一瞬目を向けてミュウに見せてきた。

「本当なんですよ!さっきまでそこにいて伝言伝えるために書くものを持ってきて、ってあれ?ちょっとちょっとそこの君、勝手に中に入らないで!」

 暇だったのか待ちきれなかったのか、リュウはイゲルの制する声も聞かずにまだ開いていた門を通って中に入っていった。

「あーそこは泥を綺麗にしたばっかりなのにちょっと!あー、足跡が!足跡が!」

 きちんと踏みならしておいた床に小さな足跡がついていく。

「すみません!うちの息子が勝手に!」

 ミュウが謝りながらリュウをたしなめると、リュウは少ししょんぼりとした表情を浮かべながら大人しくなった。

「いやいいんですよ。また掃除するだけですから」

 一通りの作業を脳内で確認したイゲルは、一旦そのことを頭の隅に追いやるとミュウに対して先ほどふと疑問に思ったことをぶつけた。

「ところでウチには何の用で?」

 その言葉にミュウは持ってきていたチラシを取り出すと広告を指差しながら彼に伝えた。

「実は、息子が、リュウって言うんですけど、針道を習いたいと言っていて」

「門下生ですか!」

「はい、ハリネズミじゃなくても誰でも入れるって」

「手続きはこちらです!」

 新たな門下生ゲットのチャンスに心踊るイゲルであった。

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