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干支戦記~十二支の戦い〜  作者: 寺子屋 佐助
第一章 幼児・学園編
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1話 大晦日の火事

明けましておめでとうございます‼


 僕の名前はリュウ、群青色のハツカネズミだ。

 僕には昔三つ子の兄が二人いた。

 一人はどんな病気も治す医者を志し、またもう一人はどんなやつにも負けないよう世界一強くなることを目指していた。

 しかし、僕らが新年を迎える前、僕らにとって五回目の大晦日の日にその悲劇は起こった。

 その日はとても寒い日だった。僕らの集落は新年の準備で忙しく、どの家庭でも新年を迎える為に家にこもってなにかを用意していた。だからその日どの家庭もとある家が火の渦に巻き込まれているのに気づくのが遅れたのかもしれない。僕らを除いて。

 僕らがそれに気づいたのは僕の兄のチュウが何かが焦げた匂いを嗅いだからだ。ハツカネズミの鼻はよくきく。 チュウ兄さんは僕らの中でも特に鼻がきくほうだった。

 兄さんの鼻を頼りに進むとそこには火もとである台所があった。

 そう、火事の火もとは僕達の台所から出ていたんだ。

 火を消そうにもまだ五歳だった僕達はその火に届かなかった。窓を閉めようにも台所の上にある窓には届かなくて、結果窓から入ってくる風が火を助長して余計にたたせてしまう。

 大人を呼ぼうとしたけど残念ながら僕らの両親は僕らのおばあちゃんの迎えに行っていて、まだ帰ってくる様子がない。

 不幸なことに僕らの家は集落のはずれにあってとても簡単に大人を呼んでくることは出来なかった。子どもの足で十分半。そんな時間があれば家が完全に燃えつきてしまう。

 泣きっ面に蜂、いや不幸がまた不幸を呼んで火が布巾に燃え移り、その火が今度は壁に燃え移った。

 僕達の家は天然の樹木から取れた枝と、よく乾燥させた藁で作られている。火は簡単に燃え広がると僕達がいる部屋を覆いそのまま天井の藁を燃やし尽くしてくずとなって落ちてきた。

 煙がもくもくと万延する中、僕達は台所で肩を震わせながら大きなテーブルの下に隠れていた。

 本来ならすぐに逃げるべきだったのだろうけれど当時五歳だった僕らは為すべきことが分からずただオロオロとすることしか出来なかった。

 やがて僕のもう一人の兄、シュウが

「窓から逃げよう」

 と提案した。方法が分からず首を傾げる僕に今度はチュウ兄さんが

「このダイニングテーブルを押してその上に登ってあの窓から出よう」

 という解決策を導き出した。あの窓とは台所の上の窓のことだ。

 直様その案を実行しようとテーブルの下から這い出ると柱が崩れ食器棚を押し倒す。

 慌ててテーブルの下に隠れると間一髪の差で食器棚が倒れた。別の場所から出ようとしてもガラスの破片が飛び散っていて迂闊にテーブルの下からは出られない。僕らは全てが終わるまで待つことにした。

「ゴホッ、ゴホッ…」

 僕らは全てが終わるまで待った。チュウ兄さんもシュウ兄さんも肺に悪い空気でも入ったのかしきりに咳を繰り返す。僕も人のことは言えなかったが何故か二人のように咳が酷くなることはなかった。

 実は火はもう止まっていたが僕らはまだ外に出る勇気は持ち合わせていなかった。何故なら何かがまだ倒れてくる危険性があるからだ。でもいつまでも中にいても死んでしまう可能性は変わらない。

 僕達は覚悟を決めると倒れた家具の間の隙間を慎重に縫いくぐった。外からほんの僅かに漏れてくる光を頼りに一歩一歩確実に足を踏み込んでいく。

 本当は辛抱強く救助隊を待つべきだったのだけれど、まだ幼かった僕達にそんな考えははなから無かった。

 順調にゆっくりと進んでいく。何にも当たらないように歩を進めていくと最終的に僕達は奇跡的に出口を見つけることが出来た。

「やった!これで助かる」

 何も考えず外に出た僕は目の前で起きていることに目を疑ってしまった。



 ◇◇◇



 ハツカネズミの集落では大変なことが起きていた。ネコが現れたのである。不幸なことにネコが現れたのはリュウ達の家がある森の方で、ハツカネズミの集落の住民達は逃げることに夢中で誰もリュウ達の家が燃えていることに気づかなかった。

「今日はどうやって遊ぼうかニャ」

 集落を一望しながらネコは不気味な笑顔を浮かべる。そんな中他のネコは逃げ回るネズミと追いかけっこをするかのように彼らを追いかけまわし、まるで苦しんでるその姿を見て楽しんでいるかのように鳴き声をあげた。

「追いかけっこはもう飽きたのニャ」

 つまらなそうに鳴くネコは近くにあった家を踏み潰すとそのまま踵を返していった。

 やがて毛づくろいをはじめたネコは自分をこの狩場に誘ったこの大惨事を引き起こした張本人を探しだした。

 すると突然気になる匂いがネコの鼻をこすった。焦げ臭い煙の匂いに釣られ匂いのする方向に首を向けると、そこには集落から少しはずれた小さな家が建っていた。この家が匂いの原因のようでその証拠に、他の家とは違いまるで使いすぎて黒くなった消しゴムのようにところどころ焦げで汚れていた。

 そして家の隣には鮮血のように紅い瞳をした白いネコが月明かりに照らされ、優雅に座っている。

 白ネコはやってきたネコの方に目を向けると奇声をあげながら狂ったように鳴いた。

「見ろ、この可哀想な三匹の子ネズミ達を」

 そう言って白ネコは既に出てきた一匹と今まさに出てくるところの二匹に目線を落とした。やってきたもう一匹のネコもその細長い目をいやらしく曲げながら三匹を観察している。

「ボスは何匹ぐらい狩るんですニャ?」

 このネコは自身のかぎ爪を研ぎながらそう質問した。質問に卑しい目つきを返しながら三匹の子ネズミに視線を戻した白ネコは有無を言わさぬ迫力のある声でこう言った。

「二匹だ。私の実験用にな」

 そう宣言しながら狼狽えているネズミに手を伸ばそうとすると、遠くから犬の遠吠えが聞こえてきた。一瞬その音に気を取られたネコ二匹は一匹が逃げ出したことに気付かない。探そうにも群青色のそのネズミは誰にも見つからないよう暗闇に紛れ、影と一体化し、大晦日の夜の集落を走り抜けていった。

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